アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4
-
「彩貴。おい、彩貴(さいき)」
誰だ。
緩やかな微睡みを邪魔する者は。
「お〜い、彩貴」
ペチペチと頬を叩く手が不快でならない。
「彩貴」
「っ、誰だ!私はまだ眠、い…きさま?」
「おっ、ようやく起きた」
「っ…!」
ハッと目を開いて思い出した。
この男にまた唇を塞がれ、呼吸を奪われ意識を無くしたこと。
「な…」
「ふふ、目ぇ覚めた?おまえ、昨日あのまま寝ちゃったんだよ。お疲れか?」
まぁ無理もない、と笑う男が髪を撫でてくる。
「きさまっ…」
「だから、悠牙な?」
「きさまは、きさまで十分だっ…」
「ふ、ははっ、そんなことを言ってると、怖ぁいおじさんたちに睨まれちゃうぞ」
「はっ…」
何が怖いおじさんだ。
朝からこの男はやっぱり捉えどころがない。
「くははっ、これでも俺は、新国王陛下なんだよね。悠牙でも破格なのに、きさまか。強気だねぇ」
それでこそ王子だけど、と笑う男に、ぐにゃりと酷い不快感が湧いた。
「きさまこそっ、私はもう王子ではない」
「あはっ、そうだったな。彩貴」
「名前…」
「知っているさ。おまえはそれでもこの国の唯一の王子だったからな」
あぁ、懐かしい、その名前。
王子、王子と呼ばれる中で、名を呼ぶのは父と母だけだった。
「いや、もう1人…」
彩貴様、と呼ぶ男がいた。
私の教育係で、王の最側近の侍従長だった。
「殺されたのか…」
あの人も、王の悪政に警鐘を鳴らし、なんとか諫めようともがいていたっけ。
「っ…」
「彩貴」
「今更、責めても仕方がない」
だからと悔やまないということもできないけれど。
「あの男か…」
「っ、きさま」
「前王の側近。賢明な人だった。だからこちら側に来いと交渉したけれどな」
「え…」
「王がこうなってしまったのは自分の責任だ、と。王を諫められず、止められなかった私にも責任があります、と」
「ま、さか…」
「あぁ。王と共に果てるが筋と。鮮やかな最期だったよ」
そ、んな…。
「彩貴には…謝っていた」
「っ…あぁっ」
「お守りできずに申し訳なかったと。もしもお聞き届けいただけるなら、あの子の命だけはどうか、と」
「っ…」
「あの方が大きくなれば必ず、賢王となってくれるはずのお方ですからと。さいごまでおまえの命を乞っていた」
「それをきさまはっ…」
「あぁ。止めなかった」
だから恨めと容易く言う。
「きさまはっ…」
みすみす死なせた命もまた、この男が奪ったも同義のものだ。
「あぁ。恨みの1つに加えていい」
「きさまはっ…」
「俺が失わせた命だ。言い訳はしない」
「っ…」
嫌いだ。
この男が嫌いだ。
潔さも正しさも。強さもすべてが私の神経を逆撫でする。
「きさまはっ…」
ガッと掴みかかった手に、ふとした違和感を持ったのはそのときだった。
「ぇ、ぁ…?」
「くくっ、自由が不思議か?」
「あ、え…?」
手枷がない。
見下ろした両手から、昨日嵌っていたはずの枷がなくなり、両手に自由が戻っていた。
「何故…?」
隙あらば、男を殺そうと掴みかかる私なのに。
「侮っているのか」
どうせ非力で出来やしないと?
「くはっ、まさか。ただ、おまえは捕虜でも囚人でもないからな」
「だけど…」
「まぁ大臣どもは、枷を外すな、もっときつい拘束をしろとうるさかったけどな」
「………」
ならば何故…。
「俺が、おまえにはそんなもの、嵌めていたくないからだ」
「………」
だから何故だ。意味が分からない。
「ふははっ、まぁいい。行くぞ」
「はっ?」
「朝食。あ、さ、ご、は、ん」
「は…?」
それこそ何故だ。
私は滅んだ王国の元王子。
民や新体制となった王国の者たちの恨みつらみの的のはず。
「私に食事など」
許されるのか。
「はぁっ?それこそなんだ?飢え死にでもさせるとでも?」
「っ…だけど」
「今さらそんな風に命を奪うくらいならな、あのときとっくに斬ってたんだよ」
「それは…」
「だ〜か〜ら、難しいこと考えてないで、行くぞ」
「っ、きさま…」
「だから悠牙。本当、おまえマジであいつらに叱られるぞ」
あいつらとは、新体制になった、この国の新大臣たちとでもいうあたりか。
この男が新国王というのだから、きっと同じ志を持った元革命軍の幹部たちなのだろうな。
「ほら。早くしないと、お姫様抱っこにして連れていくぞ」
「なっ…」
そんな屈辱はさすがにごめんだ。
差し出された手を、脅しに屈したようで悔しいが、私は慌てて掴んで、男の歩みに従った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 68