アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
17
-
「彩貴…」
「っ、っ、ふっ…」
「だからな、彩貴。目と内心と口と言葉は、一致させた方がいいと思うと言っただろう?」
じゃないと苦しいじゃないか…と頭に触れてくる悠牙の手がまた温かくて、涙はますます溢れ出した。
「ほら、そんなに泣いたらせっかく取った水分がまた出て行くぞ」
ポンポン、トントンと、頭と背中を宥めるように撫でられて、私の全身からはついに力が抜けた。
「っ…」
思えばこの男は最初からそうだったのだ。
喉元に突きつけられた刃に怯んだ心を、容易く見透かし剣を引いた。
殺せと口では叫びながら、死にたくないと悲鳴を上げる心を見通した。
「嫌いだ…」
「そうか」
「死ね…」
頼むから、憎い仇のままでいてくれ。
「死んでくれ」
お願いだから憎ませていて。
「おまえね…」
「死んで…」
憎いのだ。仇なのだ。
赦したくない。
惹かれたくなんかないのだから…。
ドンドン、ドンドンと、悠牙の身体を叩きながら、私はその胸を溢れる涙で濡らした。
「死んで…っ」
(愛して…)
「だから、おまえはな…」
口と心を一致させろ、と苦笑する悠牙が、優しく頭を抱き込むから、私はワァワァと泣きじゃくったまま、涙の止め方を忘れてしまった。
それからどれくらいの間、幼児のように泣き喚いていたのだろう。
ようやく溢れる涙が落ち着いてきたところで、この状況をどうしたらいいのかと青褪めた。
「っ…」
「うぉっと…おまえね」
とりあえず、悠牙の腕から抜け出すのが先かと、その胸に手を突っ張ってつき飛ばすように逃げ出したら、さすがに悠牙がよろめいた。
「見るな」
「まったく強気だねぇ」
「忘れろっ」
こんな、悠牙に縋って泣きじゃくっただなんて、消滅させてしまいたい過去だ。
「ぷくくくっ、はいはい、王子様のご命令とあれば」
「きさまっ…」
ひょいっと肩をすくめて、ふざけたようにニヤニヤと笑う悠牙に、カァァッと血が上った。
「悠牙っ!」
「お〜っ?」
「っ〜〜!」
喜ばせてどうするのだ、私は…。
ついうっかり思わず名を呼んでしまったことに頭を抱えた私を、悠牙が面白おかしく見ていた。
「くくくっ、まぁこれだけ威勢がよければもう大丈夫だな」
「なに…?」
「明日」
「は…?」
「明日、向こうに移る」
向こう…。移る?
それはつまり…。
「王宮だ。執務室と居室の模様替えが済んだからな。他もすぐに見れるようになっていく。その指揮を取るのにも、向こうにいた方が効率がいいからな」
「っ…」
そうか。
あの悪夢のような出来事が起きたあの場所へ戻るのか…。
きゅっと噛み締めた唇をどう捉えたのか、悠牙が柔らかく微笑んだ。
「大広間とテラスの改装が済んだら、立后式を行おうなぁ。即位の儀と一緒に」
みんな驚くぞ、と楽しそうに悪戯っぽく笑う悠牙は、こんな私を妃に立て、それを披露目しようなどと、何を考えているのだろう。
「石や矢が飛んでくるぞ」
観衆にはきっと私を憎んでいる者しかいない。
「ふははっ、そうしたら、華麗に俺が守ってやるよ」
「笑い事であるものか。きさまの求心力が地に落ちるぞ」
「そうかぁ?」
「ふんっ。きさまなど、流れ矢に当たって斃れてしまえばいい」
のらりくらりと、この男は。呑気に構えて余裕をかまして。私の側につくなどと、平気な顔をして言う口は、そうして黙らされてしまえばいいのだ。
「くっはははっ!そうしたら今度は、彩貴が俺を守ってくれよ」
「はぁっ?誰が!きさまはっ、私の、憎き仇だっ…」
見殺しにすることはあっても、救けようとすることなどありえない。
「くははっ、そうだな、そうだった。おまえのその目が…」
気に入りなのだ。
そう言う悠牙の目元が優しく緩んで、真っ直ぐ私を見つめるから、きゅぅと胸の奥が痛くなった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 68