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そうして想い出に浸っていたとき、不意にカタン、と廊下から物音が聞こえたような気がした。
「っ?!」
パッと見下ろしていたメモ帳から顔を上げ、入り口の扉を振り返る。
途端にサッと何者かが身を翻す気配がした。
「誰だ!」
パッと室内を駆け出し、扉に飛びついた私は、すぐさまそれを開く。
廊下の左右に素早く目を走らせれば、遥か向こうに小さな人影が揺れたような気がした。
「子供…?」
いや、葉の影か何かを見間違えたのか?
よく目を凝らすけれど、そこに人の姿などはもちろん見えない。
「そんな幼い者まで働かせているのか?」
悠牙がどんな者をどれだけこの王宮に呼び寄せているのかは知らないが、改装や新政発足のために来ている者のうちの誰かだったのかもしれない。
「それか身内か何かかもな…」
大人に連れられて来たけれど、その大人たちが仕事に向かってしまい、暇になって探索でもしていたか。
「まぁ気にすることもない…か…」
囚われの没落王子には関係のないことか、と思いながら身を翻そうとしたその足元に、ふと小さな小瓶が落ちていることに気がついた。
「っ…?」
なんだ?と思って拾い上げてみれば、なんの表示もなされていないそれには、何かの液体が入っている。
「薬…?」
いや、毒、か?
キュポンッと開けてみた小瓶の中身は、無臭だけれど少しだけ緑がかった謎の液体だった。
よく見てみれば擦り潰したものが溶けきらなかったのか、小さな粒のようなものが少しだけ混ざっている。
「これを調べれは、何か分かるかもな」
一通りの薬物、毒物の知識は叩き込まれていた。
貴方が教えてくれたんだった。
そっと手にした手帳に触れて目を閉じれば、厳しくも優しく知識を教授してくれた師父の姿が眼裏に浮かんだ。
「彩貴様?」
「っ!」
突然、廊下の向こうから弥景がやってきた声がした。
「っ…」
私は慌ててパッと小瓶をポケットに隠し、そんな弥景の方に顔を向ける。
「ここで何を?」
「あ、いや、ちょっと」
そろり、と弥景から目を逸らしてしまいながら、ぎゅっと手の中のメモ帳を握り締めた。
「あぁ、あの男の…」
遺品ですか、と目を細めた弥景が、私の手の中のメモ帳を見ている。
「っ、これは…」
「構いませんよ。彩貴様の慕っておられた侍従長のものですよね?」
「あぁ、そうだが…」
「貴方がお持ちすることを、悠牙様はお認めになると思います」
どうぞお持ち出し下さい、と言う弥景に、私はそっとメモ帳の表紙を撫でながら、「そうか」と小さく呟いた。
「彩貴様」
「何だ?」
「いえ、お暇なようでしたら、私がお相手をするように、と」
悠牙様が、という弥景は、私のお守りを悠牙に押し付けられてしまったのか。
「別に私は1人で勝手に過ごす」
誰の手も煩わせたりしない、と言った私に、弥景は面倒くさそうに眉を寄せた。
「そうですか」
ツンとクールに返事をした弥景だけど、どうやら私を1人にするつもりはないらしい。
「………弥景」
「はい、彩貴様」
「書庫に行ってもいいか?」
何を言ってもその場を離れていかなそうな弥景に問えば、「どうぞお好きに」という言葉が返ってきた。
あぁそうか。勝手について行きますよ、ということか。
護衛か見張りとでも思っておけばいいのだろう。
王子時代には付き人が四六時中ついて回ることなどよくあったことだ。
邪魔なんだけどな…。
書庫で私が調べたいのは、先程拾った小瓶の中身の植物片が何かということ。
だけどそんな本をあからさまに読み始めれば、弥景に余計な勘繰りを受けないとも限らない。
いや、十中八九怪しまれるだろうな。
弥景は私を敬意を払う対象だとは言ったけれど、全面的に信用しているかといえば答えは「いいえ」だろう。
風呂のときに短剣を狙った前科もある。
悠牙の身辺を警戒するだろう弥景には、私はまだまだ信用が置けないはずだ。
「さてと」
ならばどうするかな、と考えながら、私は勝手知ったる王宮の中、スタスタと迷わず書庫へ足を向けた。
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