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「うん」
ドーンと立派な書棚が並ぶ、王国最多の蔵書を誇る書庫が、かつてのまま踏み荒らされていないことにホッとした。
「ここには貴重な本も、高価値なものもあるからな」
前王は、文献や書物にあまり興味は持っていなかったけれど、それが貴重や高価というだけでただ手元に置きたがった。
「散財を褒められはしないけれど、これらを収集したことだけは評価してもいい」
「貴方は本がお好きですか?」
「そうだな」
知らないことを知ることが出来ることはいい。知識が増えることは単純に楽しいし。
「悠牙様も、先人、賢人の知識は大切にするべきだと」
「ここをこんなに綺麗なまま残したのはあの男の考えか」
だから、本当に憎らしいのだ。
あの男はいつも正しくて、いつも間違えない。
「はぁっ…」
憎しみが、別の形に変わりゆくことへの畏れをどこかに感じながら、私は並んだ書棚の本の背表紙を辿った。
薬物、毒物、植物…。
目的の種類の本が置かれている棚はここだけれど。
歴史、物語、伝記…。
素通りした先には無関係の、だけどまだまだ読み途中だった知識を蓄えるための読み物がたくさんだ。
「これを…」
まぁ弥景の目を誤魔化すためにも、1冊2冊借りていくか。
「持ち出して構わないか?」
別に許可もいらないだろうけれど、今この城の主は悠牙で、その片腕がこの弥景なのだ。
「構いません、お好きにどうぞ」
まぁ文献くらいでは暗殺の凶器にもならないだろう。
私が手にした書物はただの物語だし。
あっさりと得られた是の言葉に、私は適当な書物を2、3取り出した。
「あぁ、花の名も知りたかったな…」
とってつけたような白々しさにはならなかっただろうか。
ふと、今思い出したような振りをして、先程の棚のところに戻る。
「せんせいが好きだった花…」
弔いに手向けさせてくれ、と弥景に言えば、これもまた「どうぞお好きに」とあっさり許された。
そうして数冊の物語と植物の辞典を持ち出してきた私は、居室に戻り、それをパラパラとめくっていた。
また執務に戻るという弥景はもういない。
1人の部屋は、とても静かだった。
「たっだいま〜」
ふと、どれくらいの時間が過ぎていたのか、ガチャッと無作法に開いた部屋の扉と、ズカズカと歩いてくる足音、悠牙の帰還の声が聞こえた。
「………」
お帰りも何も言わず、チラリとそちらに視線を向けただけの私に、悠牙が苦笑する。
「そろそろ昼飯にする、か…って、おっ?読書か」
えらいな、と笑いながら近づいてきた悠牙が、ふとその傍らに置かれたあの人の手帳に目を向けた。
「それは?」
「っ、これはせんせいの忘れ形見」
「あぁ、あの男の。そうか」
「私がっ、これをもらっても構わないだろう?」
咎められることなどないはずだ。
これには別に、悠牙の利にも不利にもなるようことは何も書かれてはいない。
「別に構わないが…」
少し興味はある、と言いたそうな顔をして首を傾げた悠牙に、私はツンと冷たい笑いを向けてやった。
「きさまの得になるようなことは何も書いていない。せんせいがそのとき思ったことや感じたこと、覚えておきたいことなんかが取り留めなく書かれているだけだ」
「そうか」
「私には…その1つ1つが鮮明に思い出せる想い出だがな」
だからきっと、今いる誰にも価値はないけど、私にだけは宝物のようなものだ。
「そうか」
ならば持っていてやれ、と言うように、ポンッと頭を撫でてきた悠牙が、ふと他の文献にも目を向けた。
「植物…?」
「っ、これはっ…」
興味があったのか?と言わんばかりに、不審そうな目をする悠牙の視界から、思わずパッとそれを奪い去る。
「彩貴?」
「いや、別にこれは…ただの暇潰しに…」
怪しすぎる動きをしてしまっただろうか、とヒヤヒヤしながら、シラッと視線を逸らす。
その先に、ハッとするようなまずい落とし物を見つけてしまった。
っ、今とっさに動いたときに…。
ポケットから転がり落ちてしまったのだろう。
視線の先の床に転がった小瓶が落ちている。
「あ〜、悠牙?」
何とか悠牙の気を逸らしてその隙に…と思った心は容易く読まれてしまったのか、悠牙はすでに私の視線を辿って、その小瓶を見つけてしまっていた。
「何だこれ」
「っ、それは私のっ…」
悠牙に取らせてはならぬと、咄嗟に伸ばした手よりも早く、その小瓶は悠牙の手に拾われていく。
「っ…」
「ふぅん?薬物…。毒物。どちらにしてもろくな用途のものではなさそうだな」
なぁ彩貴?と、チラリと向けられる視線は冷たかった。
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