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「さてと、次はあっちへ行ってみるか」
来い、と言われて連れて行かれた先は、装飾品やら雑貨が並ぶ店の前だ。
「おまえの好みはどんなのだろうな?」
「これは…大したものだな」
悠牙がどれが好きかと聞いてくる装飾品は、どれもこれも精巧に作られていて、嵌め込まれた石がまたとても綺麗だった。
「この辺りの職人の腕は確かだ。王宮からお呼びが掛かった者もたくさんいる」
「そうか…」
「まぁ、気まぐれな前王妃に、振り回されたという話はよく聞いたけどな」
「っ…」
「その無茶振りにも応える腕前の持ち主が多いよ」
だからどれを選んでも一級品だ、と言う悠牙に、私は1つの小さな石が嵌め込まれたペンダントを目に止めた。
「んっ?それが気に入ったか?」
どれ、と手を伸ばす悠牙に、ふと店主が顔を向けた。
「悠牙様?」
「ん?」
「悠牙様でしたか!」
途端にパァッと輝く店主の顔が、嬉しそうに悠牙の手を取る。
「このたびは国王陛下になられるようで」
「まぁ、成り行きで?」
「おめでとうございます」
これでこの国は安泰だ、と、喜ぶ店主の顔に、私はくしゃりと俯いた。
「それで、今日はお買い物で?」
「あぁ。これに何か見繕ってやろうかとな」
「お連れ様ですか」
「ん。近く妃になる予定の俺の…」
「おいっ…」
そこまで言った悠牙の発言を制止しようと腕を引いたとき、バサリとローブのフードがまくれてしまった。
「あっ…」
慌ててパッとそれを被り直したけれど、一瞬バッチリと店主に見られてしまったことには気がついた。
っ…。
「え…?お、うじ、さま…?」
いや、まさか、という思いと、確かに今…という思いが混ざった店主の声が震えた。
「っ…」
まずい、と思った身体が、きゅぅっと縮こまる。
「ど、うして、です…?何故王子様が…」
「………」
「悠牙様!これは一体どういうことです!」
悠牙に食ってかかり、私に向けられる目が憎しみに燃えていて、私はただぐしゃりと俯くしかなかった。
「っ…」
「え?王子だって?」
「え?悠牙様?…悠牙様がお連れの方が?」
「前王族は皆殺しにしたんじゃ…」
ザワザワ、ガヤガヤと、店主の叫びに気付いてしまったらしい周りの人が、徐々に集まってきた。
悠牙…。
だから言った!と思う心がぐしゃりと潰れ、悠牙の腕を取った手からはスルリと力が抜けた。
「彩貴」
大丈夫だ、とでも言うつもりか。
名を呼んだ悠牙の手が、ダラリと落ちかけた私の手をパシッと掴む。
「っ…」
だから言ったじゃないか。
私を生かし、私を側に置き、私を連れ歩けばどうなるか。
こんな風に隣に置けば、きさまの求心力は地に落ちる。
「離せ…っ」
「こらっ、彩貴!」
「触るな!私はきさまの妃になどならん!」
「彩貴っ」
バッと悠牙の手を振り解き、その身体から悠牙を突き飛ばすように離れる。
「っ…」
バサリと再びめくれてしまったフードの中から、顔がみなの前に露わになった。
「王子だ…」
「憎き王族め!」
あぁ、王宮に召されたことがあるという宝飾職人か。
宮内で会ったことでもあるのだろう。
「王子?あれが?言われてみれば前王妃の面影が」
「何故生きている!」
ワラワラと集まってきた民たちに、周囲を囲まれる。
「あのようないい服を着て」
「あのようにのうのうと」
「何故生きている」
「何故悠牙様はお生かしになられている」
「何故悠牙様のお隣にいる」
燃える憎しみの炎が、あちらこちらから私に吹き付ける。
「親父は、王族に殺された!」
「っ…」
「自分の食いぶちも取れない中、催促に従い穀を納め!それでも足りずに農を耕して、耕して耕して、挙句に過労で世を去った!」
「兄も!私の兄も。どれだけ必死に働いて、どれだけ必死に稼いでも、王族が、大臣たちが、穀を吸い上げ金品を巻き上げていく。私たちはいつもお腹が空いていた!私たちを食べさせるため、兄は貧困でっ、空腹で死んでいった!」
バシッと飛んできたのは路上に落ちていた小石か。
ガツッと当たった右腕が痛む。
「家族を返せ!」
「兄を返して!」
「死ねよっ…」
「死ねっ」「死〜ね」
「死〜ね」
憎しみと共にコールが広がり、また1つヒュンッと小石が飛んできた。
「っ…」
ビシッと当たったのはちょうど腰元で、ガクンと挫けた膝が折れる。
「っ、私は…」
「死〜ね、死〜ね」
「私は、許されようとは思わない。石でも矢でも向ければ良い」
「彩貴っ…」
「それでみなの、あなたたちの気が済むのなら、私はこの身をここに差し出す」
地面に膝をついて、シャンと背を伸ばし両手を後ろに組む。
次々と飛んでくる石が身体のあちこちに当たって痛い。
「返せっ…」
「死ねよっ…死ね」
「返してよぉっ…」
悲痛な叫びも憎しみも、すべて私が受け止めるべきものだ。
「返らない」
「死ねっ…」
「返せない」
「死ねよ…っ」
「すまない」
「っ、彩貴…」
「すまない…」
スッと両手を前に戻し、ピタリと手のひらをついた地面の上に、私は深く頭を下げた。
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