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「もう1箇所だけ、連れて行ってやる」
「悠牙?」
にんまりと、瞳を弧の形にして、悠牙が私の手を引いた。
「っ…」
その手の力に従うまま、引かれて行った先は、王宮の裏手にずっとずっと行った墓所だった。
「っ、まさか…」
ありえない、と思う唇が震え、けれども目の前に見えて来た2つの墓標がその思いを否定する。
「まさか」
「前国王と、前王妃が眠る」
「まさか!」
だって殺された。
だって悪王として討ち取られた。
だからきちんと葬ってもらえるなんて。
きちんと墓を造ってもらえるなんて。
その亡骸は、無惨な扱いを受けるものだと…。
「悪だが、償った」
「っ…」
「命を奪られた者をなお、鞭打つほど非情ではない」
静かにスッと背を伸ばし、両手を合わせた悠牙が目を閉じた。
「っ〜!」
「決して褒められた政権ではありませんでした。けれども、あなた方がいたからこそ存在(あ)るものもある」
「っ、ふ、…」
私の目は、どうなってしまったのだろう。
このところずっと、壊れたように泣いてばかりいる。
「あぁ…父上、母上…」
この男が、貴方たちの命を奪った憎き男です。
「国王様。王妃様」
だけどこの男は正しいんです。
いつも、いつも憎らしいくらいに正しいんです。
「私は…」
彩貴は、この男を。
「っ、私は…」
そんなこの男を慕ってしまいました。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
合わせた手のひらは細かく震え、目から零れる涙は止まらなかった。
「お許し、いただけますか?」
この男と、新たな国を築くこと。
「お許し、下さいますか?」
きっとこの男は賢王になる。
「許してっ、くれますか」
父上、母上。
私がその隣に立つことを。
貴方たちの命を奪った男だけど。
この男ならば間違いない。
「悠牙でなければよかった」
「彩貴」
「だけど悠牙だからよかった」
前の国を壊した男。
新たな国を創る男。
肉親の命をとったのがきさまでなければ。
だけど私が惹き寄せられたきさまで。
「よかった…」
そっと手を伸ばし、触れた墓標は冷たく何も答えてはくれないけれど。
私は生きた。
生きていく。
だから。
「悠牙。この彩貴、きさまの妃になってやる」
ドドーンと胸を張り涙を拭って。
見下ろすように宣言する。
「ふっ、はははははっ!おまえな」
「ただし、1つでも間違えてみろよ?」
「あぁ」
「そのときは、この彩貴がきさまの命、とってくれる」
必ず。必ず良い国にする。
その誓いを違えたなら、刺し違えてでもきさまを殺す。
「望むところだ、王子様」
「私はもう王子ではない。今この瞬間から、新王妃だ」
くるっと振り向き、ニッと口元を持ち上げ好戦的に見つめてやる。
「おまえのその目が、始まりだったな」
「慈しめよ」
「じゃじゃ馬がいい子にしていたらな?」
「きさまを見張るのが私だからな」
「オイタをしたら、妃だろうと容赦しない」
「きさま…」
「だから見ていろ。俺の愛に溺れてもがいて、この悠牙だけを真っ直ぐに見ていろ」
この男…。
「この悠牙に、真っ直ぐその目を向けていろ」
くそっ…。
「必ず。必ずおまえを幸せにし、この国を豊かで幸福な国にしてみせる」
スッと伏せた目に迫る美貌は、何度目かの口付けの予感だ。
「んっ…」
初めてのときは窒息させられるのかと思った。
2度目のときは、罰だと思った。
3度、4度と繰り返すうちに、唇を合わせる意味を知った。
「愛せ…」
「あぁ。愛している」
もがく鳥は牙を剥く。
もがいて、もがいて、愛の海に溺れてなおもがき、もがいて牙を…愛しい牙の方だけを向く。
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