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「さてと…。あ、そうだ。彩貴」
「なんだ」
「今日の夜なんだけどな、ちょっと内々の宴に出てもらうぞ」
「宴?」
這っていた床からのそりと立ち上がり、私は落ちていたドレスを拾って椅子にそっと掛け置いた。
「あぁ。幹部…じゃなくて、大臣か」
慣れないな、と頭を掻きながら、悠牙が茶を淹れようとでもいうのか、壁際のティーセットの方へ歩いていく。
「まぁ取り巻きっていうか、側近クラスっていうか、とりあえず今後、政務の補佐や中心になってくる面子だけ集めてな、先におまえを披露することにした」
「はっ…?」
「民や他の者たちに広く伝える前にな、内々の者にはおまえのことを見せて知らせておこうかと」
その方が後がスムーズだという悠牙が、ひょいと器用に茶を淹れ始めた。
「それが、今夜の宴会?」
「まぁな。王宮の改装も大分捗ったし。お疲れさんっていう労いも兼ねて」
「ふぅん」
まぁ出ろというなら別に出るけれど。
「ほい。飲むだろ?」
「あ、あぁ」
「………」
「なんだ」
「いやぁ?でもさ、普通、何かしてもらったら『ありがとう』だろ?」
ほら、と茶の入ったカップを揺らしながら、悠牙が面白そうに目を細めた。
「………」
なんだか腹が立つな。
「彩貴?」
「ふんっ、ならばいらぬ」
思わずツンとそっぽを向いてしまったら、悠牙の長い長〜い溜息が聞こえた。
「はぁぁぁっ、おまえね、そういうところ」
へそ曲がり、とぼやく悠牙が、私の分らしいカップはテーブルに置き、自分のものらしい茶をズズッと啜る。
「っ!きさまっ…」
それは、確かに悠牙が自分で淹れたものだけれど。
「毒見役はっ…?」
曲がりなりにも国王だろう?
見れば銀器でもなさそうだ。
「あ〜?毒見?必要ない」
「だが…」
「俺を暗殺しようとするのなんてな、そもそもおまえくらいだよ」
「はっ…」
だけどどんなに周囲を信用していても、権力者なんていうのはどんな恨みを買うか分からないだろう?
「まぁそうかもしれないけどな。だったら尚更。俺は正々堂々としていたい」
「悠牙…」
「だって、毒見役を置いたり、銀器を使ったりすることはさ、おまえらみんな信用してないぞ、って言って回るのと同じだろう?俺は誰かに毒殺されるかも知れないと、疚しく怯えているのと同じだろう?」
「それは…」
「俺はみんなを信じているし、俺に疚しいことは1つもない。だから毒見役なんて必要ないよ」
お分かり?と笑う悠牙はあまりに呑気で、そして豪胆だった。
「まぁ、きさまらしいがな…」
それで死んだら笑えないぞ。
「ぷくくっ、心配してくれているの?」
「なっ…私は、別にっ」
この男は。
こういうところが嫌いだ。
「ま、そういうことだから」
「ふんっ、宴の間、きさまの隣りに侍ってやればいいんだな」
「うんうん。なんならお酌も…」
「案ずるな。きちんと役目は果たしてやる」
ふっ、と笑ってやる私だって、もう覚悟は決めているんだ。
きさまの妃として、どこにも恥じない振る舞いくらいは見せてやる。
「ぷくくっ、頼もしいな」
「きさまが正しくある限り、この命を生かしたきさまに私は報いてやる」
だから安心してろ、と言い放ち、私は置かれていたカップを勝手に持ち上げた。
もちろん「ありがとう」の一言は、意地でも言ってやらなかった。
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