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その夜、とり行われた宴は、本当に悠牙に近しい者たちだけの、堅苦しさのまったくない集まりだった。
「あ〜、とりあえず、王宮の改装や新政務の補佐、ありがとう。お疲れさん」
ひょいっと持ち上げられた悠牙のグラスに倣って、あちらこちらで同じように手が上がる。
「ついでに報告」
「っ…」
私はついでか!
思わずジロッと悠牙を睨み上げたら、ぐいっと肩を引き寄せられた。
「名は彩貴。まぁ知っていると思うが、前王の第一王子。だけどこれからは、この俺、悠牙の妃として扱うように」
「っ、悠牙様?本気ですか?」
「妃って…つまりは王妃に?」
ざわっとざわめいた場の空気が分かった。
「本気も本気。俺はこいつを婚姻相手にと選んだ。もちろん、側室なんかは持つ気はない」
「では唯一の…」
「彩貴、挨拶」と促され、私はくいっと顔を上げた。
「彩貴だ。……っ、で、です?」
ツンと名を名乗った瞬間、ザワッと不快感も露わな視線がいくつも向いて、思わず声が萎んでいた。
「ぷっ…くくくっ、おまえな。らしくない殊勝な丁寧語など似合わないぞ」
「っ、きさまっ…」
「お〜、それそれ。それでいいって。おまえはそのままおまえらしくいろ。…それとおまえたちも!こいつは俺の妃だと言ったな?」
私にはケラケラと笑いながら、みんなには鋭い視線を向ける。
そんな悠牙の袖を、私はそっと引いた。
「っ、いい…。私が憎まれ嫌われているのは分かっている」
見回したみなは、あの日、あのとき、王宮に攻め入ってきた最前線の者たちばかりだ。
玉座の間にて、私を殺せと憎しみを向けていた者たち。
「前王妃似のその顔と、色で悠牙様を惑わしたか!」
「色ぉ?こいつに…?」
「それとも前王族時代に貯めおいた富を使ったか!」
「おいおい」
呆れて肩を竦める悠牙の隣で、私はハッと笑い声を漏らしてしまった。
「そう思いたければそう思ってくれていい。ただそれは、悠牙への侮辱でもあるけれどな」
この男が、色ごときに惑わされ、富欲しさに、みなが憎む前王族である私を生かしたと思うのか。
「っ、っ…」
「私が恨まれ、憎まれているのは分かっている。何故こんな者が悠牙の隣に、と、不満があるのも理解できる。だから私を信じてくれとは言わない。好いてくれなくていい。憎んだままで構わない」
「彩貴…」
「ただ、私は、悠牙の正しさを誰よりもきっと1番思い知っている。この男の正しさが揺るぎないものであることを信じている」
「っ…」
「だから、私は、この男が妃にと選んでくれたそのことに、全力で応える所存だ。悠牙を全力で支えよう」
強く、真っ直ぐ、誠意を込めて。
「だけどこの言葉もみなが信じられないことも分かっている。だからみなはただ、悠牙を信じていればそれでよい」
「彩貴」
「私のことは、疑ったままで構わない。疑い、見張っているがよい」
「おい、彩貴」
「私は私で、この先、生涯をかけて、今の言葉が真実だと、証明していく」
それが私自身が身をもって証明していく、私の責任だ。
「私はこの国が大切だ。民を大切だと思う。この国と民を、幸福にしたいと思う」
それに、偽りはない。
「それが叶うと信じた悠牙の隣を選んだ。それがみなの目にどう映るかは分かっているつもりだ。だから私は、この男ならばと、思う私の気持ちを証明してみせる。私は、偽りのない、言葉通りのこの国を、この男と必ず造っていってみせようぞ」
だから。憎んだままで構わない。
憎しみを向けたまま、この言葉の真偽を常に測ればいい。
「認めなくていいと?」
「構わぬ」
「妃だと思わず、扱わなくてもよいと?」
「構わない」
「彩貴!」
ざわざわ、どよどよと戸惑うみなの声の中、私は悠牙の隣で堂々と胸を張った。
「その代わり、この国が、良い国になったと思ったその暁には、私を『王妃』と呼んでくれ」
「彩貴…」
「必ず。必ずや、呼ばせてみせるぞ。楽しみにしていろ」
悠然と笑い、みなをぐるりと見回した。
「ふんっ、ならばお手並み拝見といこうか?」
「望むところ」
「はぁぁぁっ、おまえね…」
ざわっと上がる好戦的ないくつもの視線を受け止めれば、悠牙が頭痛を堪えるみたいに頭を押さえた。
「ほんっとじゃじゃ馬」
「きさまこそ。言うほど信用がないんじゃないか?」
何せ富に惑う男だと言わんばかりの言われ方をしていたし?
「おまえな…」
「ふっ、ほら、酒宴なのだろう?いい加減に、飲むぞ」
ふぃっとみなから視線を逸らし、悠牙の席であろう上座に向かう。
「ほら」
杯を出せ、と、ちょうど近くにいた給仕の者が差し出してくれた酒瓶を受け取り、悠牙を誘うようにそれを振った。
「くっ、これはこれは王妃殿の手ずからのお酌、ありがたく頂戴しますよ」
ぷぷっ、と悪戯に笑った悠牙に、私はベッと舌を出しながら、トプトプと酒を注いでやった。
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