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翌朝。
朝食を摂り終え、部屋で1人、寛いでいたところに、悠牙から執務室への呼び出しが掛かった。
「ふぅん?ここが新国王の執務室か」
前王の、形ばかりで無駄に豪華なだけの執務室と違って、ここはきちんと機能しているのだろうな、と思いながら、案内された部屋の前でその扉をノックする。
「来たぞ」
「彩貴様…。どうぞお入りください」
ギィ、と扉を中から開けてくれたのは弥景で、促された室内に足を踏み入れた。
「っ…」
一歩入ってすぐに、小さな人影を見つけた。
ヨレヨレに憔悴した桧央が、項垂れて悠牙の机の前の床に跪いている。
「これは、どうしたのだ…」
そういえば昨日、一晩仕置きだなんだと、牢に連れて行かれたのだったか。
「随分と手酷くやったのだな」
可哀想に、桧央はすっかり意気消沈した様子で、昨日の元気の欠片もない。
「当然でございます。王の飲み物に薬物ですよ?こっ酷く仕置きをしましたので、2度とあのような悪さはしないかと」
「そ、そうか…」
淡々と紡がれる弥景の声は冷たく怖い。
「くっ、それで、今日はな、彩貴」
悠牙がゆったりと執務机の向こうで足を組み替えた気配がして、その目が薄く眇められた。
「なんだ」
「桧央から、おまえへ謝罪と、桧央の今後の身柄についての話だが」
「あぁ…」
謝罪などは別に必要ないのだがな。
形だけでもそうさせる必要があるのだろうから、私は黙って桧央の側までいった。
「桧央」
「ッ…」
悠牙の呼び声に、ぐっと唇を噛み締めた桧央が見える。
「まぁ無理にとは…」
言わないぞ、と助け舟を出してやろうとした私に、くるりと向き直った桧央が、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
ぺっこりと、額を床につける勢いで下げられた頭を、ジッと見下ろす。
「彩貴」
「あぁ、分かった。もういい。頭を上げろ」
別に怒ってもいない私はすぐに許しを与えて、桧央が顔を上げていくのを待った。
「私こそ、叩いて悪かったな」
痛かっただろう?と問えば、ぐっと唇を噛んだ桧央が小さく首を振る。
「あ、んた…ッ、さいき、さまは…正しいから…」
「そうか」
きゅぅっと身を縮めて震える小声を紡ぎ出した桧央に、私はゆるりと目を細めた。
「ふっ、では彩貴、桧央、これで手打ちということでいいな?」
「あぁ」
私は別に、被害者の悠牙がそれでよければそれでいい。
「じゃぁ仲直りだ」
「は…?」
いや、仲直りとは…別に私は桧央と喧嘩をしていたわけではないのだが。
思わず発言者の悠牙を睨みつけたら、ニヨニヨと悪戯な笑みを浮かべた顔に出会った。
「桧央の今後のことだけどな、彩貴、おまえの付き人にしようと思う」
「はっ…?」
いや、だから、きさまは…。
「彩貴専属の使用人だ。世話係といえばいいか?」
王子時代にはついていただろう?と言う悠牙だけど。
「それは、そうだが…」
「今度は王妃付きだ。桧央、出世したなぁ」
カラカラと楽しそうに笑う悠牙に、私は何を言うのも諦めた。
「はぁっ…きさまと、桧央がそれでよければ好きにしろ」
「クスクス、本当は以前のままの使用人をつけてやる方がいいんだろうけど、大臣たちが、おまえと元王宮勤めの生き残りを極力近づけるなとうるさくてな」
「まぁ、そうだろうな」
まだまだ信用があるとは言えない私なのだ。
いつ元の顔見知りたちと謀反を目論んで、悠牙から王権を取り戻そうと反乱を起こすとも知れないのだろう。
私の周りに、私に与しそうな者は極力置かずに遠ざけておこうと考えるのは頷ける。
「だから桧央なら適任かな、と」
「桧央はそれでいいのか?」
私が嫌いなはずだろうに。
「はい…」
こくんと頷く桧央は、一晩一体どんな目にあったのか、すっかり牙を抜かれた虎だった。
「ふっ、まぁ要人の付き人など全くの未経験だ。色々と教えてやってくれ」
「あぁ。まぁ適当に務めてもらう。それでいいんだろう?」
「ん。じゃぁ桧央、ちゃんといい子で彩貴の言うことを聞くんだぞ」
「はい」と頷く桧央の顔からは、まだ不満が完全に消えているわけではないことに、私は気づいていた。
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