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「はぁ〜っ…」
「………」
「はぁっ…それにしても、暇だな。なぁ桧央?」
ぺらり、ぱらりと適当に借りてきた文献を眺めながら、ぼんやりと時を過ごしていた私は、あまりの退屈さに音を上げた。
「暇って…呑気なものだ…です、ね」
はぁっ?と呆れた顔をする桧央は、せっかくの私の茶の誘いも、座っていいと用意した椅子にも頑なに首を振り、部屋の片隅に控えたままだ。
「呑気…。まぁ、呑気だよな…」
くたぁっ、と文献を読んでいたテーブルの上に上半身を倒し、ぼんやりと桧央を見つめる。
「悠牙や弥景は執務に追われていて?宮中のみなはそれぞれ仕事に忙しいだろうし?」
そんな中、私は一体何をやっているのだろうな。
「はぁっ。な〜ぁ、桧央。そなた、剣は使えるか?」
暇だからいっそ、桧央に剣術の手合わせでも願おうか。
ぐったりとだらしなくテーブルに伸びながら、チラリと視線を向けた桧央からは、冷たい一瞥が返ってきた。
「使えたらなんなんだ…ですか。しませんよ、あんた…じゃなくて、さいき様と打ち合いなんて」
「何故」
「ゆうが様や弥景様から、あん…さいき様に、あまり滅多な勝手はさせるなと申し付けられているので」
「はぁ〜?別に手合わせくらいいいだろう?」
「嫌ですよ」
「勝てないからか」
「はぁっ?おれを何だと…。芸人一座の用心棒が務まるくらいには、剣を使える!」
「え…?」
それは少し…いや大分、私よりも腕が立つのではないだろうか。
「おれはあん…さいき様の側仕えだけど、護衛も兼ねてるって…」
あぁ、だから悠牙は桧央を選んだのか。
「だから、もしも間違って、手合わせとはいえあん…さいき様に擦り傷1つでも負わせてしまったら、おれが困る。叱られるのは嫌だ」
「そうか…」
「そもそも暇つぶしに使用人と剣の打ち合いをする王妃なんて聞いたことない」
なんなんだ、と呆れた顔をする桧央に、私はのそりと身体を起こした。
「なら、薬師の知識や技術を私に教授するというのはどうだ」
「それこそはぁっ?なんだけど?」
目を丸くした桧央の声が素っ頓狂に跳ね上がり、ぎこちない敬語もついに吹っ飛んだ。
「だって桧央は、薬学に精通しているのだろう?」
「なんでそうなった…」
「あの悠牙に飲ませた痺れ薬」
「っ、あれは…」
「桧央が調合したのだろう?」
「うっ、その話はもう…」
とても嫌そうに顔を歪める桧央に、私はゆるりと首を傾げた。
「毒を作れる者は、良薬も作れるはずだ」
「っ、っ…」
「なぁ?」
「こ、断る」
「何故」
「だって、そういうのは、きちんと免許を持ったものがすることで…」
あぁ、桧央は独学か、もぐりということか。
「ゆうが様や、弥景様の許可もなく勝手はできないし…。何よりおれに薬の知識を授けてくれた人にも、むやみに人に伝えてはいけないよと言われているから…」
ふむ、なるほど。
その桧央に薬師の知識を入れた者は、思慮のあるしっかりとした者のようだな。
それに桧央は、悠牙たちの許可なしに、私に何をさせるつもりもないようで。
「つまらぬな」
桧央は私の付き人なのに。主はあくまで悠牙ということか。
これでは使用人というより見張り番ではないか。
つん、と面白くない気持ちが湧いて、私はスクッと椅子から立ち上がった。
「よし。ならば王宮内の散策にでも行くとするか」
「はぁっ?今度はまた何を…」
「悠牙の仕事振りのチェックだ」
「はっ?」
「ついでに、かつての王宮と、どこがどんな風に変わったのか、見て歩きたい。改装も相当進んでいるのだろう?」
そうと決まれば善は急げだ。
「行くぞ」と扉に向かって歩き出した私に、桧央の呆れた半眼が向いた。
「あんたな…」
「ふふっ、桧央だって見たいだろう?悠牙が住まう王宮だぞ」
「っ…」
にまっ、と笑った私の言葉に、桧央の目が好奇心と興味に揺れたのが見えた。
「よし、来い」
これはもうこちらのものだ。
ぐらりと揺れた桧央の心の隙を突き、私はスタスタと扉に向かう。
態度だけは渋々と、けれども目だけはすっかり興味に輝いた、桧央がそんな私についてきた。
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