アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
48
-
無言で気まずい帰路が続き、ようやく帰り着いた王宮では、桧央が情け無い顔をして待っていた。
「あんたっ……っぁ、さ、いき、様っ…」
思わずと言った様子で私と悠牙の乗る馬に駆け寄ってきた桧央が、悠牙も一緒であることに気がついてハッと呼び方を改めている。
「今帰った。桧央、温かいタオルと飲み物を用意してくれ」
「はいっ、ゆうが様」
ひらりと馬から降りながら命じた悠牙に桧央がかしこまる。
「彩貴」
「あぁ」
手を差し出されて下馬を促され、私もまたストンと馬から降り立った。
「こいつを頼む」
乗って来た馬の手綱を、昼とは違う厩舎番に預け、悠牙が「来い」と歩き出す。
私は渋々とそれに従いながら、居室まで戻り着いた。
✳︎
「ふぅ〜っ…」
戻ってきた居室で、悠牙はソファーにドカリと座り、チラリとこちらに視線を寄越した。
「彩貴」
「な、んだ」
「とりあえず、茶をもらえ」
それから砂埃で汚れた顔を拭け、と言われて、さっと動いた桧央からタオルを受け取る。
「お茶も、ただいますぐに。ゆうが様も飲みますか?」
「あぁ、もらおう」
はいっ、と元気よく返事をした桧央が、すでに用意してあったらしい茶器の方へと歩いていく。
カチャカチャとお茶を淹れてくれている桧央の手元をぼんやりと見つめながら、私は温かいタオルに顔を埋めた。
「はぁ〜っ…」
汗や埃が拭われてさっぱりとする。
その間にすでに悠牙には茶が渡っていたのか、「ふぅ〜っ」とひと息つく悠牙の声が聞こえてきた。
「あの、さいき、様にも…」
「あぁ」
おずおずと差し出されたカップを見下ろす。
「その…毒見を…」
信用ならないですよね?と申し出る桧央に、私はゆるりと首を振った。
「しなくて構わぬ」
それを言い出す桧央が、もう毒を盛ったりしないことは、私はよく分かっている。
「あの、じゃぁ…」
どうぞ、とカップを差し出し、反対の手はタオルを預かると伸ばされ、私はカップとタオルを交換した。
「あぁ…」
ふんわりと染み入る熱い茶にホッとする。
「美味い」
もしあの場で殺されてしまっていたら、こんな心地よさも2度と味わえなかったと思ったら、今更ながらに震えがやってきた。
「彩貴」
「っ、なんだ」
「飲み終えたらこちらへ来い」
すでに自分の分の茶は空にしたのか。カップを桧央に預けた悠牙が淡々と命じてくる。
「っ…」
その冷たい顔と冷淡な声にきゅっと奥歯を噛み締めながら、私は適温になりつつあるお茶をぐっと飲み干した。
「言っておくが、あれは不可抗力だ」
私のカップが空になったのを見て、素早く受け取りに来てくれた桧央にそれを渡し、私はことさらゆっくりと悠牙がいるソファーの方へと歩き出す。
「捜索と、救出の手間をかけたのは…多少は、悪いとは、思っているが…」
でも頼んでない、と続けようとした口は、悠牙の刺すような鋭い視線に黙らされた。
「っ…」
「ほぉ?」
ギロリ、と尖った悠牙の視線が痛い。
「っ、だがっ、私も別に好きであんな場所に行ったわけではっ…。馬の暴走も…」
「黙れ」
ピリッと冷たい悠牙の声に、ぎくりと身体が強張った。
「おまえは…」
「な、んだ…」
「『勝手にいなくなってごめんなさい』」
「っ…」
「『探して助けに来てくれてありがとうございました』」
「っ、っ…」
「それくらい素直に言えないものか」
ジロリと冷たく向けられる視線に、私はぐぅと唇を噛み締めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
48 / 68