アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
59
-
翌朝。
起きて身なりを整え、朝食を済ませた後は、さっそくの南雲との勉強タイムになった。
「えっと、彩貴様、まずはこちらが、現王国の新しい組織図となりまして…」
国王悠牙以下、宰相弥景、その補佐である南雲、と、王宮の、政治に関わる者たちの名前が、役職つきで記されている書類を見せられる。
「まずはこの方たちのお名前とお顔、それからどの役職がどんな仕事をするのか、すべて頭に叩き込んでいただきます」
「多いな…」
昔もせんせいに、同じように役名、仕事内容、大臣官職すべての顔と名前を覚えさせられたことを思い出す。
「顔ぶれがガラッと一新しておりますので…」
「覚え直しか」
面倒だな、と思った内心が透けてしまったか、南雲が苦笑しながら、申し訳なさそうに小さく頭を上下させた。
「そこから、お次は現段階での王宮の財務状況、領土内の経済状況、法律…」
「いや、待て。待て待て待て」
机の一角に次々と積まれるその書類の束はなんだ。
さすがに一気にこのような量を見せられると、やる気が思い切り削がれるというものだ。
「南雲…そなた、実は教え方が下手だろう?」
これはない、と机に突っ伏せば、申し訳ありません、と苦笑した南雲が困惑していた。
「やらねばならないことは分かっている。政に参加したいと言い出したのは私だ」
「はい」
「だけどな…いきなりこの量はないだろう?この量は」
出来そうなところから少しずつ、と、段階を踏んでくれる気はないのか、南雲には。
「別に嫌なのではない。勉強は…それは、好きと言ったら嘘になるが…あ、そうだ!南雲」
ぶちぶちと苦情を垂れながら、顔を横向きにしてペラペラと積まれた書類を弄んでいた私は、不意に思い出したことがあり、ガバッと身体を起こした。
「はっ」
「あのな、尋ねたいことがあったのだ!」
「なんですか?」
「ふぇらとは何だ」
「フェッ……ゴホゴホゴホッ」
「南雲?」
いや、いきなり目を見開いたかと思えば派手に咽せ込んで、大丈夫か?
「おい?」
「あ、いえ、ゴホッ…失礼、しました」
「いや…」
「あのっ、そ、それは誰から…」
「ん?あぁ、悠牙だ。悠牙が昨夜」
ケロリと答えてやれば、南雲は何故かあらぬ方を見て、「悠牙様ぁ〜」と情け無い声を漏らしている。
「南雲?おい、それで、なんなのだ。そのふぇらというのは」
「いや、ですからね、彩貴様?」
「あぁ」
「そ、そのようなお言葉を、お口に出されますのは…」
お口が穢れます、と眉を下げる南雲の顔が泣き出しそうで、私は何か悪いことを言ったのだろうか。
「では、辞書を持て。私が自分で調べる」
どうも南雲の口からは言いにくいようだから。
「はっ、いえ、じ、辞書ですかっ?いや、やめて下さい。あの、それは、私が…」
なんとか説明しますから、と南雲が口を開いたところで、コンコンとノックの音が割り響いた。
「失礼します、彩貴様」
「ん?あぁ、弥景か」
「南雲に少し」
「わ、私ですか?」
ひぇっ、と声を出しそうな素振りで飛び上がった南雲を、入室してきた弥景が怪訝そうに見ている。
「そうだが…何だ?」
「い、いえっ…」
顔を真っ赤にした南雲は、まだ狼狽えている。
「……ただ、こちらで使いたい書類を、こっちに持っていってしまっていないか聞きに来たのだが」
どうした、と怪訝な表情のまま、机の側にやってきた弥景に、南雲が、「あぁ!」と慌てて書類の山に手を伸ばした。
「申し訳ありません。この書類ですよね」
そういえば、と、その必要らしい書類を引っ張り出す。
「あぁ。持っていくぞ」
チラリ、とその書類を眺めてから受け取って、弥景が踵を返……そうとして、不意に南雲に向き直った。
「それで、勉強は捗っているのか?」
「はっ、はい、ただ今から…」
弥景が来てしまったせいで中断した話に、さらに会話まで始まってしまい退屈した私は、頬杖をついて2人をぼんやりと見ていた。
そこに弥景の呆れた視線が向く。
「今から、な…」
「あぁ。あ〜、そうだ、弥景」
「なんですか?」
「弥景でもいいや。なぁ、ふぇらって何だ?」
南雲がパニクって教えてくれないのだ、と問えば、弥景の視線がスゥッと冷たくなった。
「フェラ…。フェラチオのことでしょうか」
「ふぇらちお?」
「男性の性器を舌や唇で愛撫する性技」
お分かりですか?と、シレッとした顔で、淡々と述べてくれた弥景だけれど。
「っ…」
じわじわと、その説明の意味を理解した私は、カァッと頬が熱くなるのを感じた。
「悠牙っ!」
思わず、ここにはいないあの男に悪態をついてしまう。
「み、弥景様…」
ひぇぇぇ、と悲鳴を漏らしそうな様相で、南雲は戸惑い困っていた。
「以上だ。性教育もいいが、それよりも優先して学ばせるべきことがあるのではないか?」
なぁ南雲?と冷たく光る弥景の目に、南雲が「はいっ!」と酷く固まった返事をしている。
「彩貴様、どうぞ、性技ではなく、政務についてしっかりとお勉強なさり、早く悠牙様をお助け出来るようになられて下さい」
王妃とは、と、こちらにもまた冷たく光る弥景の目に、私は「ふっ」と笑ってしまいながら、「ならばその国王殿に伝えおけ」と口を開いた。
「変態が!」
ツン、と言い放った私に、南雲がヒッと小さな悲鳴を上げ、弥景はシレッと「かしこまりました」なんて返事を返してくれている。
「言っておくが、弥景。その、フェ…フェッ」
「フェラチオですか」
「っ、っ…それ、を、言い出したのは、悠牙だからな」
私を悪者扱いするでないぞ。
ふん、と言い切ってやれば、弥景はにっこりと綺麗に微笑んだ。
「どちらもどちらです」
ふわりと一礼、とても綺麗なお辞儀を残していった弥景が、悠然と部屋を出て行く。
「ふんっ、あれは、随分と食えぬ男だな」
さすがは悠牙の側近が務まるだけはあるか。
南雲と違い、ちょっとやそっとのことでは動揺することのない弥景が出て行った扉を見ながら、私はニンマリと笑ってしまった。
「なんとも頼もしい」
あれが宰相なのなら、悠牙もさぞサボらせてもらえずに疲れるだろう。
その様を想像しただけで、少しだけ気持ちがスッと晴れるような気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
59 / 68