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「あぅぅっ…」
それからそうしていくつ打たれたのか。
不意に、「あらあら」という、憐れむような声が聞こえてきて、そういえばここは、悠牙を訪ねてきた一座の者たちの前だったことを思い出した。
「っ…」
なんたる屈辱だ。
そして、それ以上にこの光景を見つめているだろうみなの目が、突き刺さるような気がした。
きっと、ざまあみろと言わんばかりに、仕置きをされる私を見ているのだろうな…。
ここにいる一座の仲間、悠牙の母でありみなの家族である女性を奪い去り、死に至らしめた元王室の一員だ。
さらには先程、みなの前で悠牙を害そうとした。
もっとやれ、もっと痛めつけろと、きっと嬉々として悠牙の行為を見ているに違いない。
憎い元王族の、このような無様な私の姿を、スッとする思いで…。
「っ…」
泣くな。
ここで泣いたらますます惨めだ。
だけど積み重なる尻の痛みは、だんだんと耐えがたいものになってきて。
「っ、私は…」
だんだんと、もう何を仕置かれているのかも分からなくなってきてしまった頃、不意にすぐ側で衣摺れの音がして、コロリと鈴が鳴るような声が聞こえた。
「悠牙様。もうやめてあげて下さいな。お妃様でしょう?」
こんな、お酷い、と私を援護するような言葉が聞こえてきて、私ははっ?と顔を上げた。
っ…?
「ほら、誰も怪我とかしなかったのですし、まぁ少しは濡れてしまいましたけど、水なんですからこんなのすぐに乾きますって」
だから大丈夫、と明るく響く女性の声は、穏やかで優しい。
「っ…」
「大事なお妃様なんでしょう?」
「だからだ」
「悠牙様?」
「だからこそ、人として礼を欠いた無作法な振る舞いには、きっちり躾をしないとな?」
なぁ彩貴?分かっているよな?と叱りつけるように厳しく響く悠牙の声と共に、また1つ、バシリとお尻が痛くなった。
「っ、っ…」
「悠牙様…。無作法って言ったって…」
「ただの可愛らしい嫉妬じゃないですこと?」
お分かりのくせに、と軽やかに響く女性の声に、悠牙が苦笑したのが分かった。
「私たちも調子に乗り過ぎましたわ。だって彩貴様、おズルいのですもの」
「そうそう。お可愛いらしくて、悠牙様のご寵愛をお受けになられて」
「少しだけ悔しかったのです。だって私たちの悠牙様に選ばれて。妬んでしまいましたわ」
だから私たちも悪いのよ、と笑う女性たちに、私は痛みと混乱の中、思考が散り散りにバラけていった。
嫉妬…?
可愛らしいとは誰が。
悔しい?妬ましい?
憎いのではなく…?
「ふっ、だからと、人に向かって水入りのグラスを投げつけていいことにはならない」
「では両成敗にいたしましょう?私たちも、揶揄って追い詰めてごめんなさい」
「あのような行動に出させてしまってすみません」
ふわりと優雅に頭を下げる、女性たちの声が、するりと耳に飛び込んできた。
「彩貴」
「っ…」
そうなのだ、私が、悪い。
いくら女性たちが何かを私に仕掛けたらしくて、イライラしてしまったからといって、投げつけるものではないものを、人に向かって放ったのは私だ。
「彩貴」
だから、言わなければならない。
直接的に何をしたわけでもない女性たちに、直接攻撃をしかけたのは私で、謝罪するべきも私の方、なのだから。
だけど。
「っ…ぐ」
「はぁっ…」
「剥くぞ」と、脅しのような低音が耳に触れ、スッと下履きの腰元に悠牙の手が掛かった。
「っ、嫌だ!やだっ、悠牙っ」
みなの前で剥き出しの尻を晒され打たれると思っただけで、絶望と屈辱が降り注ぐ。
「彩貴」
最終通告だ、ということは、その重く低い低音の呼び声で知れた。
「っ、……め、な…い」
「聞こえない」
「っ……め、なさい」
「駄目だ」
精一杯っ、精一杯絞り出している声だというのに…。
容赦のない悠牙の声と共に、腰元に掛かった手に力が入った。
「あっ、嫌だっ…ごめっ、なさいっ…」
ただ必死で。
ただ叫ぶように口に乗せた言葉は、ようやく確かな音になった。
これでなんとか…。
許されるのだろうと力を抜いた私に、悠牙の厳しい声は、なおも冷たく私を追い詰めた。
「何が」
「え…?」
唐突な問いに、ただ屈辱への恐怖から謝罪を口にしただけに過ぎない私は一瞬戸惑ってしまった。
「口先だけの謝罪に意味はない。何がごめんなさいなんだ、彩貴」
言え、と厳しく問われる声に、私はじわりと涙が滲んでくるのを感じた。
「彩貴?」
分かっているのだ。
私が暴挙に出たことが悪かった。
分かって、きちんと反省しているのに、なのに何で、ここまで追い詰めるのだ。
「っ…グラス、を…投げ…」
分かっている。
きちんと分かって、私は、だから…。
あぁ、泣く、と、唐突に感じた予感に目を閉じた、そのとき。
「あ〜ん、もういいわ。もういいわよ」
「ちょっと悠牙様?いくらなんでも意地悪し過ぎじゃありませんっ?」
酷い〜、と頭上から声が降ってきて、ぐいっと身体が引き起こされた。
「もう、お可哀想に」
「王妃様に、なんてことをしますの?お厳し過ぎます」
いい子なのに、とその腕に抱き込まれれ、庇うような言葉が聞こえてきて、私は零れそうだった涙をピタリと止めてしまった。
「は…?」
いや、この状況はなんなのだ。
「本当、お酷いですよね〜、痛かったでしょう?」
「お可哀想に。痛いの痛いの飛んでいけ」
「え…?」
突然のことに、頭がついていかなかった私は、目を白黒させてしまった。
「いい、子…?」
私が?
みなたち民を虐げ続けてきた、元王族の一員である、私が?
「っ、っ…」
憎むべき対象で、悠牙に叱りつけられ、泣かされればざまあみろとしか思われないはずの、私が?
「っ…何故」
何故、この者たちは。
「私を庇う?私を憎まぬ」
むしろ悠牙に向かって湧き起こるブーイングはなんなのだ。
「はン、まったく。しゃ〜ない。許してやるか」
ぽふんっ、と頭に乗った悠牙の手に、私は大混乱をきたして、ぐちゃぐちゃでわけのわからない間抜け面を晒してしまった。
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