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アバターの設定をしよう。
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昨年発売されたVR型MMO RPG。全世界同時に発売されたそれは、ゲーマーだけでなく一般人にも爆発的に普及された。
コンセプトは『本当の自分を探そう』だそうだ。
リアルの世界ではなれない自分になる。それは子どもから大人にまで魅力的な文句だった。
発売当時まだ15才だった俺は誕生日にねだったが、親の返答は「ノー」だった。
理由としては、VR仕様のゲームはまだまだ高価であること、このゲーム『ユグドラシル』が16才以上から使用可能となっていたからだ。成長期の子どもの脳には悪影響がどうとか言っていた。当時、それもニュースで話題になっていた。
地団駄を踏んだ記憶はまだ新しい。
そして、今日、高校生になった俺は16才になる。
目の前には先ほど届いたばかりのVR機器。今年こそと意気込んで親に頼んだのだ。去年からコツコツ貯めたお金で『ユグドラシル』をダウンロードもできる。VR機器が高価なため、ダウンロードは自分のお金で買うように言われたのだ。ケチな親である。お年玉も丸っと貯めて今俺はちょっとした小金持ちだ。
「悠大(ゆうた)ー、あら、もう開けちゃったの?」
「もちろん。今日は一日ゲームする」
「いーけど、母さんたち買い物行ってくるからね」
「いってらっしゃい」
母さんに見向きもせず答えれば「この子はまったく」と、ため息をこぼされた。
「夕飯はケーキ買ってくるからね」
「うん、よろしく」
生返事しながら俺はVRを装着し、ベッドに横になった。
ちょっとドキドキしながら起動音を聞いていれば、フッと目の前が暗くなった。と同時に浮遊感。
「わっ、なんだこれ!」
慌てて手足をバタつかせれば、ふわりと体が安定した。
「おー、すげぇ」
きょろきょろとあたりを見渡せば、真っ暗。まるで宇宙にいるみたいだ。宇宙、行ったことないけど。手を見下ろせば、自分の手が……。
「ない!?」
指を動かしたり、ひっくり返したりしている感覚はあるのにキラキラした靄があるだけで、手がない。
なにこれ……。
ちょっとゾッとしていれば、目の前にモニターが現れた。映画館にあるスクリーン並の大きさだ。
ブンッと画面が揺れたと思えば、そこには言語設定が現れた。
「おぉ、すごいな」
えっと、どうやって選ぶんだろ。タッチ?スクロールは、と悩んでいれば意識と動作に合わせて選択肢がスクロールされた。
「すげぇ、ハイテク」
一番上の『日本語』を選択肢し、次へ。
アカウント設定は、あぁ、スマホと同期できるのか。じゃあ、これで、と。
次は生年月日。16才以下は使用できない注意書きにニヤニヤしながら選択する。
へへん、もう俺は16才だもんね。
あらかじめスキャンしていたマイナンバーと保険証を登録して、小難しい注意書と同意書の中身をスクロールで無視して、下にある同意を選択。
フッとまた視界が暗くなった。
そして、BGMとともに映し出されたのは……。
「ユグドラシル!すっげえ」
壮大なスケールが描かれたオープニングが始まった。誰もいない映画館で特等席で観れるこの感覚は、最高すぎる。
さっきからすげえしか言ってないけど、これは語彙力も無くなる。
冒険者に魔物、剣や杖を持ったキャラクターや商人や獣耳。ドラゴンや自然あふれる森、ファンタジーらしい街並みや、城。
このRPGが他と違うのは、魔王や勇者などメインになるようなキャラクターがいないことだ。自分で好きなように生きるのがコンセプトだから、固定された世界観は必要ないのかもしれない。
もうワクワクが止まらなくなったところで、キャラクター設定が始まった。
「まずは、名前か」
悠大は、そのまんまか。せっかくだから変えたい。けど、あまりにも自分にかけ離れすぎたのはちょっと愛着が湧かないかも。
安直だけど、ユウタか、yutaにするか。
「あ、ユタか」
濁点付けたらユダだけど、まぁ良い。ユタ、可愛いじゃん。
次は種族。
「きた、これ!」
えーっと何々?
視線を動かすだけでスクロールされるのは楽だ。
ヒューマンにエルフ、ドワーフ、獣人、この辺はファンタジーの定番だな。獣人を選択するとさらに猫耳族、兎耳族など、多種類あった。
エルフに至ってはハーフエルフにダークエルフもある。
耳は捨てがたいけど、まぁ、俺はこれだよな。
ヒューマン、一択である。
友人には「お前は冒険が足りない」と言われるが、いいんだこれで。
次は性別。
「男、と」
噂では種族によって両性、無性もあるらしいけど、ヒューマンはリアルと同じ二種だ。フタナリオプションがあるとは本当だろうか。
思考が逸れたところで、次は身長体重。基本キャラメイクだ。血液型は、何に必要なのか。
ゴクリと唾を呑む。
「念のためリアルと同じ血液型にしておこう」
この一年色々な噂を耳にした。掲示板を覗くのはやめた。できないのが悔しいし、いざやる時にワクワクが削がれそうだったからだ。
身長は、2メートル越えも可能だし、逆に幼児ぐらいまで小さくできる。
「中身16才越えって知ってるのにロリショタにする意味はあるのだろうか」
俺は、リアルでは平均身長よりちょっと低めなので、少しだけサバ読んで大きくした。体重は、リアルと一緒で良いだろう。
次へと選択すると、体に違和感が出た。
「うおっ!すっげえええ!」
さっきまでキラキラもやもやしていた体に人間の手が生えた。足もある!全裸だけど!
「なるほど、これで細かく設定していけば見た目が変わっていくのか」
肌の色を選択すれば、自分の体が黒人、黄色人、白人に変わる。
ジャパニーズ黄色人種だけど、俺は白人にした。髪と瞳の色は決めてある。それに合うのは白い肌だろう。白は白でも自分で白さの調整までできた。血管が透け透けの肌にギョッとして慌てて濃さを戻した。
「病弱設定だろうか」
それに何の意味があるのかわからない。
いよいよ、髪と瞳、顔の設定となったら目の前に自分が現れた。
「うわっ、びびったー!」
全裸の自分なんて突然見せるなよ!
ドキドキした胸を押さえながらジッと目の前の自分を見ればどうやら、顔の造形は自分のままだ。
髪は白、瞳の色は赤。
目の前の純日本人だった俺が違う人間になる。
「すげぇ」
顔はまんま俺なのに髪と瞳の色を変えただけで俺じゃないみたいだ。
拡大ってどうやるんだろ?
あ、近づけばいいのか。
すいっと近づけば、まつ毛と眉毛も白くなっていた。ちろっと下を見れば、うん、白い。白いのが慎ましくちょろっと生えてる。
脇は、あ、毛なくせるのか。いーじゃんいーじゃん、脇ツルツルにしよーぜ。
無料オプションを一通り見て楽しんでいたら、想像以上に儚い系少年になった。
「まっ、いっか」
設定が多くて疲れた。ログイン後にも変更できるらしいし、これで良いや。それより、早く服を着せて欲しい。
決定を押したら、パアッと自分の体が眩い光に包まれて、次の瞬間初期装備らしい服を着せられていた。
「これで終わり?職業設定とかないのかな?」
首を傾げていると、アナウンスが聴こえてきた。これから『ユグドラシル』の世界に行くこと、まずは冒険者ギルドに行くこと。そこで職業を決めること、などだ。
実際に生きてみて職業を決めろということか。
リアルっぽーい!
視界が暗転した。
三度目になればもう慣れたものだ。
あぁ、ドキドキする。ワクワクする。
まずは何をしよう。どんなところだろう。
あぁ、早く、早く、早く。
この5分後、冒険者ギルドで初めて会うNPCエルフに恋に落ちることを、俺はまだ知らない。
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