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首をぐるりと回して、手前の、前室の出入り口以外の空間に注目してみる。そこには押し入れらしき襖があった。
今度は顔を元に戻して、部屋の奥を見据えてみる。…奥の襖が両側に大きく開いていた。襖の開けた口から、外に通じることも出来るだろう窓ガラスと手前に添えられたアンティーク調のテーブルと左右に配置された椅子が見えた。…今日は、すでに午後六時前だ。残念ながら日はとっぷり暮れ、窓ガラスの向こうには濃く深い闇が広がるばかりである。だが、これが朝早くならば裏庭の見事な景色がここから臨めるのだろう、と久米は想像し、にっこりと微笑んだ。
恭しく正座した朝比奈から、一通り部屋の説明を受ける。簡易な注意や過ごしやすくするための一工夫である。久米は耳を傾け、最後まできちんと聞き届けた。
「…ご質問は何かございますでしょうか??」
畳に指先をついて、上半身全体を斜めに倒して訊いてくる仲居に、久米は軽い気持ちで尋ねる。
「えっと…。この旅館の近くに、どこか遊びに行ける場所なんかはありますか??」
が、久米の質問に仲居は小さく身じろいで…やや間を置いて答える。
「そう、ですね…。」
身を低め、謝罪する五秒前という姿勢をとる仲居の表情はどこか硬い。
「この旅館の名物は…裏手の山でした。パワースポットがあるわけでもありませんが、緑豊かな自然がいっぱいあって、この時期…冬でなければ食べられる木の実なんかもたくさんあるんですけど…。」
言葉を濁す仲居に気づかずか。久米は続ける。
「…へぇ~。じゃあ、山に行ってみようかな。」
仲居はハッとした表情になり、深々と頭を下げた。
「…お願いがございます。山に行かれる時や外にお出かけなさる際は、必ず旅館の者にその旨をお伝え下さい。こちらで何かあった際に、行先がわからないとなるとお客様にご迷惑がかかる可能性がございますので…。」
「ああ、確かにそうですね。」
頷きを繰り返しながら、久米が椅子を引いた、直後だった。
ですが、と仲居の真っ赤な紅を引いた唇がゆっくりと開いていく。
「…裏の山には、あまり行かれない方がよろしいかと。」
一瞬、久米の動きが止まった。
「…危ないところでもあるんですか??」
矢先、久米ははっきりと見てしまった。先ほどまでてきぱきと動いていた仲居が、背を丸め、全身を震わせて頭を下げる様を。
「大変申し訳ございません。せっかくお越しいただいたお客様にこのような話はすべきではないと思っているのですが…。」
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