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『…え??』
ぬっと下方から顔を出したのは、小学校の理科室でよく見かけるような骨格標本そっくりの人骨だった。少し凹んだ頭部から、ないはずの大粒の血の雫がぼたぼたと床に落ちていく。
『ひぃっ!?』
久米が腰を抜かすと、右手首を握っていた人骨と共に床に倒れ込む。久米の服がみるみる内に滴る血液で汚れていった。
『忘れたとは言わせないぞ…。』
口にあたる部分の穴、歯をかたかたと震わせながら、人骨は恨みがましげに久米を睨みつけている。何もないはずの窪んだ眼窩に赤い光が宿って見えた。
『“あのこと”を忘れたとは言わせないぞぉっ!!』
人骨の顔が恐ろしい速度で久米に迫る。久米は思わず、顔の前で腕をクロスさせ、ぐっと強く目を瞑った。
「やめろぉぉぉっ!!」
がばっ、と起き上がると…そこは少し前に通された客室だった。テーブルの脇、押し入れ側で久米はどうやら寝こけていたらしい。
「はぁ…っ、はぁ…っ、はぁ…っ!!」
荒い息を繰り返しながら、あちこちをキョロキョロと見渡す。テーブルの上には、和菓子の抜け殻…薄桃の包装紙が放置され、近くに淡い緑の急須と飲みかけの紺の湯飲みがあった。和菓子は、美味しかったが、茶がないと口が渇く。そこまで思い出して、久米は唐突に気づく。小腹が空いていた久米は、和菓子と茶を堪能して、満足したまま畳の上に寝っ転がってしまったのだ。
「…ゆ、夢か…。」
一部過去の記憶が入り混じった、不可思議な悪夢だった。普段とは違い、布団を敷かずに硬い畳の上で眠ってしまったからか。…久米は身体を起こし、腕時計を確認する。
「午後六時半、か…。夕食は七時からだって、朝比奈さんが言ってたな。」
呟いてから、久米は身体を見てみる。…先ほどの悪夢で、全身ぐっしょりと汗ばんでいる。
ちょうどいい、と考え、久米は立ち上がる。
「…温泉に行って、さっぱりしてくるか。」
朝比奈から渡されていた旅館のパンフレットと手荷物を片腕に、久米は温泉を探す。…パンフレットには、旅館の地図が掲載されていた。地図をたよりに、また廊下に出ている道案内なども時折目にしつつ、歩いていく。廊下のガラス越しに眺められる鹿威しや石灯籠といった和を重んじたの庭も、まるで絵画のようで趣深い。…段々と、旅館を冒険したい気持ちがむくむくと胸の内で頭をもたげるが、夕食の時間も近いのであまり考えないようにする。
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