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『“あのこと”を忘れたとは言わせないぞぉっ!!』
久米は全身に鳥肌が立つのを感じた。慌てて飛び退ると、下方から呂律の怪しい声が聞こえてきた。
「…オレを置いて、どこに行くんだよ。」
見れば、大井が眠そうな瞳を擦りつつ、空いた腕をいっぱいに伸ばして年下の男の足を引き留めようとしていた。一生懸命な相手に対し、久米は微苦笑を向けた。
「…トイレだよ、トイレ。早くしないと、漏れちゃうよ。」
大井の瞳が不安げに揺れる。
「オレも行く。連れていけ。」
「だぁ~め…。」
久米は床に屈みこんで、年上の男に片手を添えてそっと耳打ちする。
「…またシたくなっちゃう。」
久米が顔を離す。二人の視線が複雑に絡み合う。どちらともなく、くすくすと声を押し殺して笑いだす。
「そうか。…じゃあ、しょうがないな。」
「でしょう??…浴衣に着替えて、大人しく待っていて。」
久米は年上の男の額にキスを落として、部屋を去っていく…。
大井はしっかり心得ていた。久米がトイレから帰ってくると、部屋は照明が灯り、年上の男は浴衣を、更には丹前を纏っていた。
大井の部屋はシンプルだった。十畳ほどの大きさの和室だ。左右の壁には久米の客室と同じく、床の間やテレビが用意されている。床の間には、細い形の花瓶と動物が描かれた臨場感あふれる掛け軸があった。
部屋の前方にある襖は廊下に通じている。襖の隣には押し入れ。部屋の奥、障子戸を両開きにすれば、外の風景が堪能できる。何故なら、一面ガラス張りの窓が最奥にあり、手前に木製の小さなテーブルと二脚の椅子が置いてあるからだ。
大井は障子戸を全開にし、その向こうの左側の椅子に腰かけ、緩々とこちらに振り向く。…小さなテーブルには、白くて丸い湯飲みが二つ用意されている。大井は年下の男に向かって手招きし、優雅な手つきで右側の席を示した。久米はゆっくりと歩み寄り、大井の手をとって…彼に導かれるまま、右側の席に身を沈めた。
湯飲みを手に取る。…まだ温かい。大井が淹れてくれただろう緑茶は、時折表面を震わせながら、ほかほかと湯気を立てている。久米は湯飲みを大事そうに両手で包んで、膝の上に乗せた。
「ご覧。」
大井に声をかけられ、年下の男は顔を上げる。大井が手で示したのは、ガラス窓の向こう側だった。天は朝を予感させる、薄藍色に満たされている。すでに深夜の吹雪は、嘘のように止んでいた。…昨日に比べ、雪が多く降り積もっている。ガラスの端から端までに渡る、薄藍がかった一面の白い風景に、久米は感嘆の息を吐く。
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