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箱根は首筋に手をやり、酷く気怠そうに左右に顔を動かした。眉間に皺を寄せる様は、家の冷蔵庫の中身でも思い出そうとしているかのような、ほんの些細な考え事に見えた。
「オレは箱根烈だよ。…アンタだって、自分は何だって言われたら答えるだろ??『久米征久』だって。」
「嘘だ!!お前が箱根烈なわけがない!!旅館にいた仲居さんだって、泊っている記者にもこの耳で聞いたんだからな!!三週間前、頭部に致命傷のある白骨化死体が見つかったって…。その死体は、十年前に失踪した男性客の可能性が高いって…っ!!だから、お前が生きているはずがないんだ…っ!!お前は十年前、確かに僕がこの手で殺したはずなんだから…っ!!」
久米は思い出す。水井が切り抜いてファイリングした新聞記事の一文。
『…崩れた土砂の中から成人の白骨死体が発見された。数年前、〇〇旅館の宿泊客から男性の失踪者が出たとして、その人物でないかとされている…。』
…続いて、朝比奈や水井とかわした会話を。
『…三週間前に、裏手の山で白骨化死体が見つかっているんです。御遺体は警察が引き取って、調べている最中なのですが…。』
『三週間前、この旅館の裏山で発見された白骨死体の件ですよ。』
『この白骨死体は他殺の可能性が高いと見られます。…非公式の情報ですので、本当かどうか疑わしいですが、この白骨死体は頭部に一部欠損が見られる。わざわざ頭を殴って自殺する自殺者がいるでしょうか??特殊な場合でもない限り、可能性は低いでしょう。』
鬼の形相で怒る久米だが、とうとう客室最奥のガラス張りまで追い詰められた。久米は肩越しにゆっくりと振り向いて、荒い息遣いを繰り返しながら、そぅっと目の前のガラスに手を当てた。ひんやりと冷たい無機質な温度が、久米の手のひらに広がっていく…。
「…ふふっ、かわいいじゃねぇか。そんな怯えるなって。どうした??…まるで死人に会ったのかってくらい、顔色が悪いぜ??」
逃げ道を乞うようにガラスに押し当てられた獲物の片腕に、大柄な男をかたどった魔物の手のひらが重なった。
「アンタの言いたいことは大体わかる。何でここにいるのか、って訊いてんだろ。…ふふっ。そりゃあ、アンタに未練があったから、オレがこうして直々に化けて出てきてやったのさ。」
ガラス張りの窓は、内側の景色を薄くだが映し出す。今もほら、窶れきった久米の背後に爛々と目を光らせた、魔物の容姿を克明に描き出していく。
不幸は、音もたてずにやって来る…。
魔物の口が、緩慢に開いていく…。
「十年前はよくもこのオレを殺してくれたなぁ、久米征久。」
久米の見つめている窓ガラスに、箱根の皮をかぶった人骨の姿が現れる。
「う゛…っ、あ…っ!!」
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