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箱根が一歩一歩踏み出す度、背に乗せられた年下の男もリズミカルに上下に揺らされた。愛しい男の首に巡らせた両腕をしっかりと繋がないと、身体がついていかずに振り落とされてしまいそうで久米は何度もぎゅっと手を結びなおした。
「この旅館に来た時、オレは五百万の借金を抱えていた。」
語りだした箱根だったが、背中にいる年下の男は、序盤からわけがわからずに目を白黒させた。
「ご…っ、五百万!?」
耳を疑った久米だが、年上の男はあっさりと首肯を示した。
「…オレの人生で転落が始まったのは、十九の頃だった。高校生の時、事故で両親を失ったオレは、必死に働いて生活のための金を稼いでいた。…だけど、まあ魔が差したっていうのかな。仕事先の先輩に教えてもらった麻雀でさ。初戦で三人の先輩を蹴散らして一位とっちまった。今、考えるにビギナーズラックって奴だろうけどさ。そこで味を占めちまったんだな。段々と稼いだ金をギャンブルに費やすようになっていった。…で、二十歳の冬には膨れに膨れた借金が五百万。家賃すらロクに払えないオレは、なけなしの金を握って考えた。…このままギャンブルを続ける方法はないか。」
箱根の背中で、年下の男は呆れた声を出した。
「…あの、箱根さん??とんでもない話過ぎて、胡散臭いんですが…。」
「事実は小説よりも奇なりって、よくいうだろ。嘘はついてねぇよ。」
「…。」
とんだ男だ、と今更ながら久米は思い、温かな男の背に頬を寄せた。
「…で、思いついた。オレも、この旅館の裏山が自殺の名所だっていうのは知っていたからな。『自殺者になりかわれば借金もなくなるし、ギャンブルのための金も手に入る一石二鳥だ』ってな。」
「…くず。」
ぽつりと漏らした久米の感想に、年上の男は快活に笑い飛ばしてみせた。
「…同じ発想した奴に言われたくないなぁ。」
「う…っ。」
言葉に窮した年下の男は、箱根の背中に身を縮めてそっと隠れた。
「そういうわけで、サングラスとマスクで顔面を隠し、オレは旅館にやって来た。仲居に宿泊者名簿を書かせたのは筆跡を誤魔化すため。山で探し物をしていたのは、まだ発見されていない自殺者…その身分証や携帯、財布を目当てにしていた。…今考えりゃ、無茶苦茶な上に何とも罰当たりな計画だが…まあ、若気の至りだな。」
久米は、頷きを繰り返してから年上の男に指摘する。
「…だから、『うるせえ、死にたがりに割いている時間はねぇ』なんて僕に言ったんですね。」
「ああ、言ってみりゃ、当時のオレにとっちゃ死体が増えるのは大歓迎だったからな。」
「人の風上にも置けない…。」
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