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久米は、自分を背負っている年上の男を本気で信じていいのか不安になってきた。そんな久米を横目に、年上の男は話を続ける。
「…で、どこまで話したっけな。ああ、裏山を探していたってところまでか。…なり代わり計画のためにオレは近づいて話しかけてきたアンタを煙たがっていたんだ。で、ただならぬ気配を察して振り向いたら、大きな石を持ち上げたアンタがいてさ。あの時は、流石に反省したね。死人になり代わろうなんて、同じ人間として許されない所業だったよ。だけど、オレだって死にたくない。勘弁してくれ、って縋ろうとアンタの顔を見た矢先だった。」
箱根が立ち止まって、肩越しに年下の男へと振り返る。…刹那、二人の視線が熱く絡み合う。
「…本人は無意識だったようだが、アンタ、あの時泣いていたんだよ。あどけない子供みたいな顔をぐっしゃぐしゃにしてさ。オレさぁ、それまでずっとロクでもない生き方してきたし、家族はいないしで、死ぬ時に…罪悪感からかもしれねぇけど涙を流してくれる奴がいるなんて夢にも思わなかった。もっと言えばオレは…何て説明すればいいのか、未だにわからねぇけど…。…あの瞬間、アンタの泣き顔に心を鷲掴みにされちまったんだよな。旅館から帰った後、オレは女でヌケない身体になっちまったんだぜ??責任とれよな、全く…。」
「…お、おぼえて、ないです。泣いていたなんて…。」
「…そうだな。アンタの記憶は、オレのものと所々すれ違っている点が多々あるんだ。例えば、殴った石。…あの石は確かに人の頭くらいの大きさだったが、残念ながら重たくはない。だから、殴られたオレも倒れはしたが死にはしなかった。」
久米は、年上の男の背で前のめりになる。
「でっ、でも、血があんなにたくさん…。」
久米が派手に動いたからか。箱根の身体が少し傾いだ。
「…おっと。…ああ、血か。アンタ、オレの後頭部を殴ったと錯覚しているようだな。けど、殴られる寸前オレは振り向いたんだぜ??従って、殴られたのは頭の前…額側のはずなんだ。人はコメカミ辺りを切ると頭の出血量が多くなるって知らないか??小さな傷でも、流れ出る血はそれなりに多くなる。」
箱根は更に言い募る。
「あと、肝心な点だがアンタは脈を確認しなかっただろう。殺したという事実でいっぱいになって、さっさと逃げ帰った。あの後、オレは意識を取り戻したんだ。で、這って旅館に戻ろうとしたが、激しい吹雪で見通しが悪くて。一度道を間違えて崖の下に行きついてしまった。…その時だよ、佐藤の死体に遭遇したのは。」
久米の瞳が急速に揺らいだ。
「そ…っ、そうだ、佐藤さん!!佐藤さん、一体いつ崖から落ちたんですか??僕は全然気づかなかった…。」
「…さぁてな。けど、アンタの記憶と照らし合わせて考えるに、オレ達で喋っていた五分の出来事だったんじゃねぇのかな。あの時は互いに集中していたし、転落死ならあっという間だ。佐藤も悲鳴をあげる時すらなかったんだろう。後ろ頭から血を流して倒れていたし、ありゃあ即死だったんじゃないかな。」
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