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「佐藤のオッサンも図太いよなァ、一千万なんて大きな借金抱えてさ。それでも、首括って死ぬでもなく、誰かになり代わろうともせず、生きようとしている矢先で崖から落ちて死んじまった。オレは拍子抜けすると同時に、何か偉大なものの導きを感じずにはいられなかったよ。オレがアンタに殺され損ねたわけや佐藤の遺体を発見した事実を、単なる偶然として済ませたくなかった。オレは自分の指紋がついた…佐藤の身元を示す物を持って這って旅館に帰って…。大変だったんだぜ、佐藤の失踪に気づいた仲居達が血だらけで戻ってきたオレを見て更に一悶着だ。山で転んで怪我をした、佐藤には会っていないって誤魔化して…救急車で近くの病院に搬送されて…何針縫ったかな。もう忘れた。その後で、オレは佐藤の身元を明かす物をすっかり処分した。で、とにかくオレは、箱根烈として再び生き始めたって話だ。…それからはギャンブルの類は一切やめて、先月、ようやく金を返し終えたよ。」
うんうん、と頷きを繰り返していた久米だったが、ややしてふっと疑問点を口にする。
「ん??…ちょっと待って。すんなり受け入れちゃったけど、どうして佐藤さんの遺体の話を誰にもしなかったんですか??…っていうか、何で佐藤さんの身元を証明する物を全部処分しちゃうんですか!?身元不明だから、不可解な白骨死体が見つかったなんて報道されたじゃないですか!!」
箱根は欠伸を一つして、知るかよ、と半眼になった。
「こっちは誰かさんがオレの身分証と金を持って逃げるは、散々だったからな。その上、佐藤の身元を証明する物にはオレの指紋がべったりだ。無駄な詮索はされたくない性質でね。わざわざ死体について指摘しようとは思わなかったんだよ。」
うぐぐ、と歯噛みする久米に、年上の男は明るく言い聞かせる。
「…まっ、いいじゃねぇか。アンタとこうして会えたんだし。」
「…それで全て帳消しにしようとしていません??」
箱根が肩越しに振り返る。年下の男と視線が絡み合う。…どちらともなく、ふっと噴き出して笑いだす。
「現金な人だなぁ。」
「オレになり代わろうとしていた奴に言われたくないなぁ…。」
軽やかに笑う二人を祝福するかの如く、灰色の雲の切れ間から、一筋の太陽の光が差し込む。
舞い散る粉雪が太陽の光を反射して、きらきらと煌めきだす。それだけでなく、眩い光を受けて、二人の歩く雪原も時折ぴかぴかと輝く。
「わぁ…っ」
「…ふふっ、まあ悪かねぇな。」
二人は一面に広がる銀世界を一歩一歩、確実に前進していく。…二人の歩く数メートル先、彼らの帰還を心待ちにしているかの如く旅館が聳え立っていた。
旅館に戻り、離れに到着した。離れの玄関にあった壁掛けの時計は、針がそれぞれ午前六時二十分を示していた。浴室に着くと、下着姿になった年上の男は胴体にタオルを纏った久米へと浴槽の淵に腰かけるよう相手の背に片腕を添えて導いた。久米が淵に座ると、年上の男は温かなシャワーを持って来て、色が戻ってきた相手の両脚にちょっとずつ注いでいく。
「…感覚、ちょっとずつ戻ってきたか??」
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