アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
汚れた脚
-
「あぁ、すっげぇ色っぽいよ、智紀…」
「ん…そこ…そんなしたら…あっ、ダメ……やッ…ンあッ…」
白くしなやかな脚が、男の下で大きく開いて指を反らせていた。
繊細な植物を思わせる、静脈の青く透ける細い脚。そのくせ臀部から太ももにかけてのラインはどこかふっくらと丸みを帯び、程よく筋肉のついたふくらはぎと引き締まった足首をより艶めかしく見せている。
見るからに滑らかそうな肌の質感が、股の間に割り込み脚を抱えて腰を振り動かす男の肌色の黒さと、太ももを掴む手のゴツさを際立たせていた。
「中、すげぇ締め付けてくる。やらしぃ…。乳首も赤く尖って可愛いよ、智紀…」
「んっ…や…もっと…してぇっ…」
騎乗位から対面座位、正常位へと、貪欲に体位を変えて交わいながらも、智紀のセックスは必ず正常位で終わる。
足の指先が不自然に折れ曲がっているのはそろそろフィニッシュを迎えるせいだ。
男が腰を突き入れるたび、智紀の長くスラリとした足の指が後ろに反り返って開き、指と指とを擦り合わせるようにモゾモゾと動く。
これが始まると五分以内に智紀はイク。
それを裏付けるように、智紀が背中を浮かせて男の首にしがみつき、頭を起こしてゆっくりと振り返る。
「早く…きて…」
唇の動きを心の中でなぞり、島田達也は、片目ほど開いたドアの隙間をそっと押し広げ、ベッドの上で男に組み敷かれながら喘ぐ智紀と目を合わせた。
「あっ、だめ、イキそ……」
智紀は、白く艶かしい脚で男の腰を抱え、男に身体を揺さぶられながら眉間を切なげに歪めて達也を見ている。
半開きになった瞼の奥の潤んだ瞳。誘うように瞬く濡れた睫毛。額に貼り付く薄茶色の前髪。だらしなく弛緩した官能的な唇。全てが腹が立つほど美しい。
智紀の、泣いているような笑っているような形で喘ぐ唇をドアの隙間から眺めながら、達也は
「イクならさっさとイケよ!」と、心の中で悪態をついた。
達也の心の叫びに呼応するように、ふと、智紀が、切なそうに下がった眉をキュッと歪め、肩をビクンと竦めて下唇を噛む。
「や……も、イクッ……」
言い終わらないうちに、皮膚をぞわぞわと波立たせ、智紀は、自分の手の中に握り込んだペニスの先から白い液体を搾り出すようにお腹の上に吐き出した。
「いっぱい出して、やらしいなぁ、智紀は…」
智紀のすっきりと窪んだ腹部に白い精液が飛び散る様子を見ながら、達也は、こうしている間も自分を凝視しているであろう智紀に視線を戻した。
智紀はやはり自分を見ていた。目が合ってからもピクリとも視線を外さず、ドアの外に立つ達也を荒い息づかいで見詰め、相手の男が背中を丸めて唇を近付けると、ようやく達也から視線を外し、男の首に腕を巻き付けた。
ーーーイケれば俺には用無しか。アホらし。
呟き、達也はそっとドアを閉めた。
すると、
「誰だ!」
閉まると同時に罵声が飛び、騒がしい足音と一緒に再びドアが乱暴に開いた。
「お前、誰だ! ここで何してる!」
母親が決めたルームシェア用のマンションは、内装は綺麗だが本体自体は築三十年以上経つ老舗物件で少々建てつけにガタがきている。いくら静かにドアを閉めたところで擦れたような音が出るのは防ぎようが無かった。
「俺は、こいつの友達、っていうか身内みたいなもので…」
「そいつが何でこんなとこにいるんだ! 覗いてんじゃねーよ、この色ガキが!」
顔面に飛んでくる拳を寸前でかわし、つんのめった男の肩を押して前方へ転ばせた。身をかわすのも随分と手慣れてきた。それでも調子の悪い時はある。今回の相手は腕っぷしも体格も良かった。
「てめぇ、やりやがったな!」
喧嘩慣れした相手に同じ手は通用しない。達也は男の拳を顔面にモロに受け、床の上に崩れ落ちた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「だから、ドアは閉めなくていい、っていつも言ってるじゃん…」
「うっせーな。リビングがザーメン臭くなるから嫌なんだよ。つか、痛ぇってば。もうちょっと優しくしろよ」
「ごめん」
唇の傷を消毒液を染み込ませたコットンで手当てしながら、智紀がそばかすの浮いた顔を斜めに傾ける。
長い睫毛が白い頬に陰を作り、瞬きとともに小さく揺れる。
昔と変わらないあどけない顔だ。まさか、この小さくて可愛い智紀が男の下でよがり狂う姿を見ることになろうとは、四ヶ月前の達也は想像もしていなかった。
島田達也が幼馴染の橘智紀に性癖を告白されたのは、理也と智紀が大学へ通うために二人揃って上京した日の夜だった。
さしあたり必要な荷物を片付け、コンビニで買った弁当を食べてシャワーを浴び、備え付けのベッドに二人並んで横になった。ルームシェア用の部屋は思ったより広く部屋も別々に用意されていたが、上京初日で心細かったせいもあり二人で寝ることにした。
智紀は、いつものように他愛の無い話の後、何の前触れもなくさらりと言った。
「俺、露出狂なのかも知んない」
あまりにあっさりした口調だったので、達也はさほど深刻には捉えなかった。
「何だよ、いきなり」
「だから、俺、誰かに見られてないと興奮しない、って言うか…イケないの。人に見られないとイケないなんて、これって露出狂じゃない?」
「んー。露出狂ってのは、道端でチンコ丸出しで見せ付けてくるやつだろ? お前、自分のチンコ見せたいの?」
「見せたくないよ! 」
「なら違うんじゃね? それにお前、俺が扱いてやる時はわりと直ぐイクじゃん」
「それは達也が見てるから…」
「は? お前、俺が見てると興奮すんの? 」
「解んないけど、この前、一人で扱いた時はイケなかった…」
「そりゃ、いつも俺様のデカマラ扱いてるからチカラ加減が解らなかったんじゃね?」
「どういう意味だよ!」
「だから、俺のはお前と違ってデカイから多少乱暴に扱ってもいいけど、お前のはアレだから…」
「悪かったな小っさくて!」
隣にいる達也の脚をゴツンと踵で蹴り、智紀は、胸元にたくし上げた毛布を肩に担いでそっぽを向くように寝返りを打った。
「うわっ! お前、毛布全部持ってくなって! 寒みーだろ!」
「あそこデカイんだから我慢しろよ」
「寒みーのにあそこのデカさ関係ねぇだろ」
際どいセリフとは不釣り合いな、この、ほどけた感じ。
意識していない相手に対する態度など所詮こんなものだ。
お隣同士で同い年の智紀は、智紀が達也の家のお隣に越してきた小学三年の夏からずっと仲良くしている幼馴染であり、大切な弟のような存在だ。
お互い一人っ子で両親は共働き。孤独になりがちな家庭環境に加え、智紀の、男にしては繊細な顔立ちと、年齢のわりには幼い佇まいも理由の一つだった。一人っ子の無い物ねだりでもともと弟が欲しくて堪らなかった達也は、智紀が母親に連れられて挨拶に来たその日から、すっかりお兄さん気取りで智紀の世話を焼いていた。
小学三年生ながら、地元の柔道クラブからスカウトされるほど体格の良かった達也とは対照的に、智紀は、顔も手も肩幅も胸の厚さも達也よりふた回りほども小さく、他の同級生と比べても幾つも年下のように見えた。
智紀を初めて見た時から、達也は自分の方が何倍もお兄さんだと思っていた。
お兄さんなのだから、守ってやらねばと思った。いつも兄として智紀を助け、人見知りの智紀が周りに馴染めるよう力になった。
兄貴風を吹かせるのが楽しく、智紀に頼られることが嬉しく、「ありがとう」と言われることに胸を踊らせた。
だから、思春期になって、「センズリ、って何?」と聞かれた時も、教えてやるのに抵抗は感じなかった。
初めて手で扱いて射精させてやった中一の冬以降、両親が留守がちなのをいいことに、達也は智紀の部屋でお互いのペニスを扱き合うまでになっていたが、それすらも、男なら誰でもやることだとさして気にも止めなかった。
達也にとって智紀はいつも小さな弟だった。弟だから、裸を見るのを恥ずかしいと思ったことも無い。むしろ、いつまでも子供のままの智紀をからかうのが面白く、智紀の身体が自分よりもかなり遅れて少年から大人へと変わっていくさまを間近に見るのも楽しかった。
目の中に入れても痛くない、自慢の弟。
可愛くてついいじくり回してしまう達也だったが、智紀に触れる感覚は、人に対してというより飼い猫を膝の中に入れて撫で回す感覚に近かった。智紀もまた飼いならされた猫のように達也に身を任せた。
早い話が、慣れすぎた。
慣れすぎて自分との境界線が曖昧になってしまった。
他人なのに他人のような気がしない。警戒も緊張もない代わりに、ドキドキも恥じらいもない。
だからこそ、智紀の相手が男と知った時、達也は、まさか自分があんなにも動揺するとは思いもしなかった。
「俺、この歳で変な性癖持ってるとか悲惨じゃない?」
「大丈夫だって。男なんだからチンコ突っ込んでこすりゃ気持ち良くなるし、心配しなくても普通にイケるから」
智紀は、いつものように兄貴風を吹かせる達也をチラと見上げると、内臓が詰まっているとはとても思えない薄い身体を斜めに捻り、薄茶色の前髪を指先でくるくると絡め取りながら達也に視線を合わせた。
「それは無理だよ。だって俺、突っ込まれる方だから…」
達也は一瞬何を言われたのか解らず唖然とした。
頭の中で智紀の言葉をもう一度繰り返し、理解した途端、面食らってベッドから飛び起きた。
「わっ! なに、いきなり。びっくりするじゃん!」
動揺と言えば動揺だった。胸の奥がやたらと騒ぎ、喉が詰まって思うように息が出来ない。驚き顔で見上げる智紀が何故か猛烈に憎らしく、自分でもわけがわからないまま、智紀の腕を掴み、無理矢理ベッドから上半身を起こしていた。
「ちょっと、なに……」
「お前……突っ込まれる方、って、なに言ってんの?」
智紀は、達也の手を振り払おうともせず、ただ色素の薄い瞳を不安げに揺らしながらオロオロと見上げた。
「なに、って。理也、ひょっとして、気付いてなかった? 」
「俺が何に気付くんだ」
「だから、俺、男の方が好き。てか、女にはムラムラしない」
智紀の腕を掴む手に力がこもっていくのが自分でも解る。パジャマ代わりのトレーナーの上からでも十分細いと解る折れそうに頼りない腕を、達也は離すことが出来なかった。
「いつから……」
「……わ……かんない。てか、なんでそんなに怒るわけ? 俺、別に達也に隠してたわけじゃないよ? 俺はてっきり達也は知ってて俺に色々教えてくれてるんだとばかり思ってたから…」
「マス掻きの事か。あんなもん俺らぐらいの歳なら誰だって……」
「それだけじゃないじゃん。チンコ舐めさせたり、アソコに指だって……」
「それはお前が興味ある、って言うから」
「だから、その時点で気付いてると思ってたんだよ。でなきゃ、そんな練習しないでしょ」
「練習……」
見慣れた筈の智紀の顔が知らない男の顔に見えた。
恐ろしい顔をしていたのだろう、しばらくすると、智紀が三日月型の眉を泣き出しそうに歪め、顔色を伺うように達也の瞳を覗き込んだ。
「ごめん。でも安心して。俺、達也には絶対迷惑掛けないから。だから俺を嫌いにならないで。今まで通り仲良くして」
許しを乞うような救いを求めるような声だった。智紀の震える声に自分がどう反応したのか達也は覚えていない。しかし、智紀の見惚れるほど長い睫毛がベッドサイドのわずかな照明の中で何度も瞬きしていたのは覚えていた。
智紀は、男が好きだと自覚したのは高校一年の時で、相手はサッカー部の先輩だと告白した。
その頃には既に達也とマスの掻き合いをしていたにもかかわらず、その裏で、実は智紀がサッカー部の先輩に熱を上げていたことを知り、達也は、バカにされたような裏切られたような気持ちになった。
結局その恋は片想いに終わり、その後も実らぬ恋を繰り返していたが、卒業式の前日、どうせ最後だからとダメ元で十歳年上の数学教師に告白したところ両想いだった事が解りめでたく付き合うことになった。それから上京するまでの間、愛を育み身体の関係にもなったが、イク寸前まではいくものの結局イケなかった、と智紀は打ち明けた。
「俺は別にいいんだけど、やっぱ、イカないと相手は嫌みたい。男はそういうの解っちゃうから……」
結局、数学教師とは三回セックスしたが三回ともイケず、その日、数学教師の家からの帰り道、自宅へは戻らず達也を訪ねて達也の前で自分で扱いたらちゃんとイケたので、「俺は、誰かに見られていないとイケない」という結論に至ったらしい。
智紀の告白を聞きながら、達也は、自分が大学進学や上京にむけて色々と準備をしている間、自分の知らないところで智紀が数学教師と関係を持っていた事にショックを受けていた。
小さな弟だと思っていた智紀が自分の知らないところでいつの間にか大人になっていた。
それもショックだったが、一番ショックだったのは、智紀が、「練習」と言った事だった。
思春期の、たかがふざけ合い。しかし、「練習」と言われるのには抵抗があった。
なぜなら。
なぜなら、なんだと言うのだろう。
達也は、自分で言いかけ、自分で言葉に詰まった。
何を言おうとしたのか自分でもよく解らなかった。考えても答えは出ず、達也はただ自分の胸に広がる感情を冷静に見つめた。それは怒りでも苦しみでも悲しみでもない、まるで良くない報せに怯えるような、憂鬱な胸騒ぎにも似ていた。
それから智紀の奇妙なセックスは始まった。
「全部とは言わない。最後だけだから」
智紀に頼まれ、達也は智紀のセックスを見るようになった。
正確には、智紀が絶頂を迎える頃合いを見計らい、智紀の部屋の前に行ってドアの隙間から智紀が果てるのを見届ける。
智紀曰く、第三者に見られていることが重要なのだという。
もちろん、達也には到底理解出来ない。理解したくもないし、本音を言えば、智紀のセックスも見たくはない。
しかし慣れとは恐ろしいもので、最初は苦痛でしか無かったこの行為も回数を重ねるうちに徐々に気にならなくなってしまった。
智紀は達也に見られることで絶頂を迎え、理也は智紀に感謝されることで、頼れる兄という立場を取り戻した。
奇妙ながらも大きな問題は無かった。あるとすれば、たまに覗き見しているのが見つかって相手の男にこっ酷く責められる事と、それを理由に、男が智紀の元から去って行く事だ。
セックスを覗き見されて喜ぶ輩などそうそういない。ましてやそれが意図的ならなおさらだ。今回の男もじきに去って行くだろう。
「あいつ、追わなくて良かったかのか?」
消毒を終えた傷に絆創膏を貼る智紀に聞くと、智紀は、「いいんだ」と頬を膨らませた。
「達也にこんなことする奴、こっちから願い下げだよ。それに俺、あんなヤツ追いかけるほど不自由してないから」
「そういう問題じゃない。あんまり人を弄ぶな、って言ってんだ」
「弄んでないし。てか、向こうが逃げてくんだから、むしろ俺の方が弄ばれてんじゃん?」
鼻歌でも歌うように軽く言うと、智紀は、貼り終えた絆創膏の縁を皮膚に馴染ませ、「はい、終わり」と傷口の部分をチョンチョンと指先でつついた。
「だから、痛ってー、って!」
「ははっ。ごめん」
これがついさっき、瞳を恍惚と潤ませて精液を吐き出した男の顔の顔だろうか。
達也は、口角の上がった唇をキュッと結んで笑う智紀を不思議な気持ちで見詰めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
智紀の、達也を巻き込んだセックスはその後も続き、智紀は男を連れ込んでは去られ、また次の男を連れ込むという乱れた生活を送っていた。
平然を装いながらも、男に去られる度に智紀がそれなりに傷付いていた事は達也も知っている。
しかし達也にはどうしてやる事も出来なかった。智紀が恋人とのセックスを見せ続ける限り、智紀にまともな恋愛が出来るとは思えない。可哀想だが、智紀はこれからもずっと同じ事を繰り返して行くのだろうと思っていた。
それだけに、この男の出現は、達也にとっても衝撃的だった。
「島田達也くん? そこにいるんだろ?」
智紀の足首を掴んで左右に開き、お尻を上向きにして乗り上げるように重なりながら、男は、ドアの外にいる達也を振り返った。
「そこにいるのは解ってんだからさぁ。遠慮しないで入ってきなよ」
不気味なニヤケ笑いを浮かべる男の下で、背中が浮き上がるほど身体を折り返された智紀が白い身体を窮屈そうに縮めて顔を赤らめていた。
色白で赤くなりやすい智紀がセックスの最中に顔を赤らめるのは珍しいことではない。しかし、今のこの堅く閉じた目の周りの深いシワの感じや顰めた眉の形、口を真横に開いて歯を食いしばる様子から、この赤味がセックスの快楽による紅潮ではなく苦痛によるものだということは明らかだった。
それなのに、自分よりも至近距離にいる男がどうして気付かないのか。
「俺の声、聞こえない? そんなところからじゃよく見えないだろ? それとも、全部見るのが嫌だからわざとそうしてんの?」
苦しみ喘ぐ智紀には目もくれず、男は、智紀の足首を持ち中腰で腰を突き入れながら、したり顔で達也に笑いかけた。
「どうしたの? ほら、早く入っておいでよ。なんなら達也くんも一緒に犯る?」
薄気味の悪い笑顔に得体の知れない恐ろしさを感じ、達也は、男の言うことを大人しく聞く事にした。
理也がドアを全部開けると、男は片側の口角だけを軽く歪めて満足気に笑った。
尖った顔。
二十四、五歳というところだろうか。喋り口調こそ柔らかいものの、いかにも鍛えてますといった筋肉質な身体と、胸にはハートに蛇が絡みついた図案のタトゥー、二の腕には黒い透かし柄の帯状のタトゥーが腕章のように入りボディピアスを付けた風貌は、どう見ても大学生という雰囲気ではない。
バイト先のカフェの客かとも思ったが、達也の知る限り男の顔に見覚えは無かった。
男は、智紀がこれまでに付き合った相手とは全く違うタイプだった。
「へぇ。達也くんって意外とタッパあるんだ。ふぅん。だから皆んな大人しく引き下がってたんだねぇ……。でも俺は、達也くんを混ぜても全然平気だよ? つか、達也入れて3Pとか面白そうじゃね?」
「俺はそういうのは…」
「ふぅん、残念。なら、もっと近くにおいでよ。取り敢えず智紀一回イカせっから、そこで見ててやって。ーーーほら、お前もこっち向け」
ーーーお前。
達也をベッドの際に呼び寄せると、男は、智紀の前髪を乱暴に掴み、理也の方へ振り向かせた。
「たつ……や……」
智紀は怯えているようだった。 それ以前に、無理な体勢を強いられ苦しそうに顔を歪めている。
助けなければ。
思うより先に手が伸び、達也は智紀の髪を掴む男の腕を掴んでいた。
「智紀に酷いことしないで下さい」
「酷いこと? へぇ〜。達也くんにはこれが酷いことに見えるんだ……」
嘲笑混じりに鼻を鳴らし、男は、智紀の髪を更に掴んで顔を上げさせた。
「なぁ、智紀。達也くん、こんなこと言ってっけど、俺、お前に酷いことしてるのか?」
「だから、智紀に乱暴しないで下さいよ!」
「うるせぇ。俺はコイツに聞いてんだよっ!」
ーーーコイツ。
男に対する不信感と嫌悪感が瞬く間に達也の胸を埋め尽くす。
智紀はこんな乱暴な扱いを受けるような人間じゃない。この男は智紀に相応しくない。
しかし男は、達也の手を振り払い、左右に開いた智紀の脚を膝を畳んで真ん中に寄せ、両足首をそれぞれ肩の上に担ぎ上げながら腰を深く突き入れた。
「あっ……や……んんっ……やっ……」
「あー、お前、良い声で泣くねぇ。なぁ智紀、俺、お前に酷いことしてっか?」
智紀は下唇を噛みながら首をブンブンと横に振った。
「だよなぁ。こ〜んな気持ち良くさせてやって、達也くんもこ〜んな近くに呼んでやってなぁ〜。これで酷いとか言われちゃ俺が可哀想だよなぁ〜、智紀ィ」
「……は……い……」
「気持ちいいんだろ? 達也くんに、気持ち良い、ってちゃんと教えてやれよ」
「き……もち……い……ですぅ……んっ……」
智紀の返事を待っていたように、男が腰の動きを速めて追い込みをかける。
男が腰を突き上げるたび、智紀が、あ、あ、あ、と切なく喘ぎ、ベッドがギシギシと軋んで大きく揺れる。
その衝撃すらも楽しむように、男は、智紀のお尻を両側から指が食い込むほどガッシリと掴み、智紀が敏感に反応する部分を狙って何度もしつこく小突き回した。
「んぁっ……ア……ぁああ……あんっ……あっあ……や……だっ……」
吐く息が喘ぎ声に変わり、肩に担がれた智紀の足の指が、後ろに反り返って大きく開く。
「ああああっ……そこっ……いいっ……も……ダメっ……」
その指が、指と指とを擦り合わせるようにモゾモゾと動いた。
絶頂が近いのだろう。達也の目の前で、智紀の白く細長い足の指が海底を漂うイソギンチャクのようにしなをつくる。視線を智紀の顔に下げると、智紀はいつものように達也を見ていた。
「ん、あぁ……も……イッちゃうっ…」
言うなり、肩をキュッと縮め、ガクンガクンと股間を跳ね上げながら、智紀は、胸の辺りに小刻みに精液を吐き出した。
こんな状況でもイケるんだ。
白々とした気持ちを抱えながら、達也は智紀の胸元に飛び散る白い液体を眺めた。
智紀は、イッた後もなお男に激しく貫かれ、泣き出しそうに眉を顰めて喘いでいる。
智紀も智紀なら男も男だ。自分のセックスを他人に見られて平気なのだろうか。思いながら男の横顔に視線を向けると、気配を感じたのか男が達也の方を振り向いた。
「ん? どうした、達也くん。コイツがイクとこ見て勃っちゃった?」
「なにをバカな……」
「バカじゃねーよ。言ったろ? 俺は達也くんが一緒でも全然平気なんだよ。なぁ、コイツに入れてみたくねぇ? コイツ、奥締めるのマジでめちゃ上手いよ?」
嬉々とした表情で声を弾ませると、男は、智紀のお尻からペニスを引き抜き、智紀の後頭部を掴んでベッドから引っ張り起こして達也の股間の前に突き出した。
「ほら、達也くんのアソコ舐めてやりな」
達也はギョッとして後ずさった。
「なになに〜。お前ら、いつもお互いシャクリあってんだろ? 何を今更恥ずかしがってんのぉ」
「え……」
「何で知ってるかって? だってコイツお喋りなんだもん。ちょっと酔わせたら、ペラペラ喋りやがったぜ。なぁ智紀」
智紀は動揺を隠せない様子でもじもじと俯いた。ギクシャクとした空気が漂う中、男だけがやたら上機嫌にはしゃぐ姿が不気味だった。
「ほら、ぐずぐずしてないで早く達也くんのジーパン下げてシャクれよ、智紀」
「……俺……そんなこと……」
「なんだよ、まさか、出来ないとか言うつもりじゃねーよなぁ」
徐々に本性を現して行くように、男の態度が横柄になっていた。
「達也くんさぁ、俺と智紀のセックス見といて自分は見せないとかそりゃ卑怯でしょー。智紀も、人のセックス無断で見せてんじゃん? だったら、てめぇらがやってるとこも俺にも見せろや」
はしゃいでいたかと思ったら一転してドスの効いた声で凄む。
男の本性に理也は震え上がり、智紀は瞼に涙を溜めながら唇を噛んだ。
「早くやれや」
智紀が観念するのはもはや時間の問題だった。
智紀は達也から目を背け、瞼に溜まった涙を頬に溢れさせながら、おぼつかない手付きで達也のジーンズのファスナーを下げた。
達也も抵抗はしなかった。
今はただこの時を乗り切り、一刻も早く男から逃れたかった。男は、そう思わせるほど薄気味悪かった。
ジーンズを膝まで下げて下着のゴムに指をかけて下に降ろすと、智紀は、目の前にこぼれ出た達也の既に半勃ちになった陰茎を片手で握り、亀頭を口に含んでずずっと音を立て吸い上げた。
先端の溝に舌を這わせ、カリ首を激しく舐め回し、握った陰茎を手で扱く。智紀の口の中の粘膜の感触に達也の息が上がる。
至近距離で監視されているからなのだろう。男のリクエストに応えるだけの形式的なものかと思っていたが、智紀の舌技は予想外に熱く情熱的で、達也は思わず智紀の後頭部を押さえた。
制止の意味だったが、男は、達也が興奮していると勘違いし、愉快で堪らないといった様子で高笑いした。
「いいねぇ〜。雰囲気出てきたじゃん。そうだ、こっち来てもっと本格的にやってみろよ」
促されるままベッドに上がると、達也はジーンズと下着を全部脱ぐように言われ、智紀の頭に足を向けて逆さまに寝るよう指示された。
次は、脚を開け、と言われ、左右に開く。
開いている途中で、股の隙間に智紀が座り込み、ぎこちない手付きで陰茎を握った。
「この方がやりやすいだろ」
智紀の手が震えているのが、握られた陰茎を伝う微かな振動から解った。
ふと、中一の冬、初めて智紀に握られた時の事を達也は思い出した。
あの時も智紀は、「緊張する」と言いながらこんなふうに震えた手で達也の陰茎を握っていた。その手が今は恐怖に震えていた。
「もたもたしてねぇで早くやれよ。てか、お前、見られると興奮すんじゃ無かったんか? 俺が見てやってるのに何嫌がってんだよ」
男に額を小突かれ、智紀は再び達也のペニスの先端に舌を当てた。
先の部分をついばむように小刻みに吸い、一旦離して、睾丸から裏スジを舐め上げる。下から上へ何度も往復し、裏スジのヒダを舌の先でくすぐるように舐めた。
達也は、快楽に飲み込まれるのを気を逸らして耐えていたが、智紀がペニスを真上からすっぽりと口に含んで激しく上下に動かすと、ついに堪え切れなくなって吐息を漏らした。
「智紀……ちょっ……待っ……」
一早く反応したのは男だった。
「いいじゃん、いいじゃん。しっかし上手いよなぁ、智紀は。どこでこんなこと覚えんだよ。まさかこれ全部達也くんが仕込んだとかじゃねーだろな?」
智紀の唇からはみ出る達也の反り勃った男根を見ながら歪んだ笑いを浮かべると、男は、ふいに智也の頭を掴んで達也から引き剥がし、腕を掴んで膝立ちになるよう引っ張り上げた。
「上に跨がれ」
達也は逃げようと起き上がり、しかし直ぐに男に胸を突き飛ばされ再びベッドに仰向けにひっくり返った。
「何してるんだ、早く跨がれよ」
智紀が息を震わす音が張り詰めた空気に伝わる。しかし男は容赦しなかった。
「聞こえねぇのか。早く自分で達也くんのチンポ、ケツん中に入れろっつってんだよ」
言うなり、間髪入れずに智紀の頬を打ち、膝が崩れたところを頭を押さえてベッドの上に横向きに押し付ける。反動でセミダブルのベッドが大きくしなり、寝そべった達也の身体が不安定に宙に揺れた。
「お前、俺の言うことが聞けねぇの?」
智紀は、男に顔を押さえつけられながら苦しそうに眉を顰めた。
「ご……ごめんなさい。そ、それだけは勘弁して下さい……」
瞼をきつく閉じて短い呼吸を繰り返し、智紀は今にも泣き出しそうな声で言った。必死で堪えているものの、伏せられた睫毛には涙が滲み、口は嗚咽するように小さく震えていた。
「意味わかんねぇわ。何が、『ごめんなさい』なんだ! お前、こういうのが好きなんだろ? それともナニか? 俺に見せるのはイヤ、ってか?」
「そ、そんな事はないですっ! だけど、これだけは……。お願いです! それ以外のことなら何だってしますからっ!」
男はしばらく智紀を押さえ付けていたが、ふいに智紀の頭を掴んで顔が見えるようにねじり上げ、「本当に何でもするんだな」と脅すような口調で詰め寄った。
智紀は静かに頷いた。
「だってよ。残念だったな、達也くん。智紀、達也くんとヤるの嫌なんだとさ」
嘲笑混じりの嫌な笑いを浮かべ、男は、智紀の頭を自分の胸に掻き抱き、傍に横たわる達也を用無しとばかり、しっしっ、とベッドから追い払った。
転がるように這い出る達也の背中に、「そこで見てろ」とベッドの脇に立つよう指示し、達也が言う通りにすると、達也が寝ていた場所に智紀をうつ伏せに寝かせ、両脚を強引に開いてお尻の割れ目に指をねじ込んだ。
「あっ……やぁッ……」
「イヤじゃねーよ。こっちはまだ楽しませて貰ってねーんだ」
肉壁を指先で円を描くように押し拡げながら、後ろから覆いかぶさり背骨に沿って唇を這わす。男の唇が触れたそばから智紀の皮膚が波を打ち、苦悶の表情に少しずつ悦びの緩みが浮かび始める。
男の指が後孔を出入りする度、高く上げた腰が更に高く跳ね、堅く閉ざされていた唇がゆっくりと開き、吐息を漏らした。
「あっ……んんっ……んっ……」
男の股間はみるみる雄々しく勃ち上がり、智紀の白いお尻のきわで、赤黒く反り返ってピクピクと跳ねていた。
「欲しいか、智紀。欲しかったら、もっと腰を振っておねだりしな」
智紀が背骨の浮かぶ背中をしならせてお尻を突き上げる。
自分でお尻の穴を開いてみせろと命令され、細長い指が、見るからに柔らかそうな双丘の肉を左右に押し広げ、赤く色付く後孔の奥を恥ずかしげもなく晒した。
「ホント、何から何までたまんねぇぜ……。どうして欲しい? こっち見てちゃんと言ってみろ。どこに何を入れてどうするんだ? ちゃんと言えたら頭ブッ飛ぶぐらい気持ちよくしてやるよ……」
促され、智紀が、首を後ろに捻って男を見上げる。泣き濡れた瞳の上目遣いがゾッとするほど色っぽい。男は一瞬時が止まったように動きを止め、喉を波打たせてゴクリと唾を飲んだ。
「ここに……入れて……くださ……い……」
「なにをだ?」
「い、池亀さんの、チ……チンポを……俺のお尻の中に……」
「尻の中に? ……尻の中に入れるだけで良いのか? どうして欲しいか言わないとやってやんないぜ?」
「やっ……お、お尻の中……奥を……こすって下さい……」
汗ばんだ額に茶色い前髪を垂らしながら、長い睫毛を涙に濡らし、喘ぐように智紀は言った。
男は、
「いいぜ。めちゃめちゃに突いてこすり回してやるよ……」
舌舐めずりするように口角を歪めると、ドクドクと波打ついきり勃った肉棒を智紀の小さな後ろの蕾に当てがいググっと押し入れた。
「あぁっ!」
潰され、突かれ、揺さぶられ、智紀の華奢な身体が男とベッドの間で激しく揺れる。
まるで、ライオンに襲われる子鹿のようだ。思いながら、達也は、目の前で繰り広げられる痴態をぼんやりと眺めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
男は何度も体位を変えて智紀の後ろを犯し、結局、智紀が気を失ってようやく智紀を解放した。
達也は、智紀が犯されるさまを間近で見ながら、イク寸前の、智紀の足の指が反り返って開いては閉じる回数を心の中で数えていた。
智紀は達也を見ながら何度もイッた。
どんなに朦朧としていても、イク寸前、瞼を開いて達也を探し、達也が視線を合わせると、達也を真っ直ぐに見つめてイッた。
思い出しながら、達也は胸がぞわぞわと落ち着かないような、居心地の悪い気持ちに襲われていた。
智紀が自分を見つめる意味が解らない。
自分じゃなくてもいい気がする。
誰かに見られるのが目的なら、自分じゃなくてもいい。
実際、男は達也を、つまらない奴だ、と言った。
『見てるだけかよ。つまんねぇな』
男は、達也が自分たちのセックスを見て興奮するのを期待していたようだが、達也は、男の意思に反してむしろ萎えていた。
今回に限らず、智紀がイクのを見れば見るほど萎えていく。
軽蔑でも興ざめでも無い、しかし、何かが達也の心に隙間風を吹かせ、達也の気持ちを後ろへと押し流していた。
もうやめたい。
これまで何の疑問も持たず繰り返してきたことが、急に、とてつもなく不自然なことのように思えてきた。
察したのか、智紀は、ベッドに横たえた身体を枕元に座る達也の方へひねり、まだセックスの余韻の残る熱っぽく赤らんだ目を達也に向けた。
「ごめん達也。達也には迷惑掛けない、って言ったのにこんな事になっちゃって…」
目を逸らす達也に詫びるように、智紀は、こうなった経緯を、搾り出すような掠れ声で話し始めた。
智紀曰く、男の名前は池亀浩司、出会い系で知り合った相手との待ち合わせ場所のクラブで、他の客に絡まれているところを助けてもらったのがキッカケで親しくなった。怖そうに見えるが、根は優しく親切な男で、都会の生活に疎い自分を色々と助けてくれるのだ、と言った。
「お前をコイツ呼ばわりして、あんな酷いことする奴が、親切? 助けてくれる、だって?」
智紀は、おずおずと頷いた。
「あんな……お前にあんなことさせる奴が? 俺の目の前で、お前にあんなセックスする奴が?」
智紀はやはり頷いた。
「ウソだ……」
「ウソじゃないよ。達也には酷く見えるかも知れないけど、俺、別にああいうの、嫌いじゃないし……」
「は? 人前であんなふうに恥ずかしいこと言わされたり、見世物みたいに犯されることが?」
智紀は、ひどく寂しそうな顔をして、しかし、達也を見てハッキリと頷いた。
達也はそれ以上何も言えなかった。
「本当にド変態なんだな、お前……」
心の中の隙間風が冷たさを増し、達也の気持ちをどんどん後ろへ押し流した。
「勝手にすればいい。その代わり、もうお前のことは見ない。ここに連れ込むのもやめて欲しい」
達也は言うと、智紀を見ずに立ち上がった。
去り際、背中に視線を感じたが振り向かずに部屋を後にした。
これでもう関わることは無い。
慣れすぎてしまった関係を終わらせる。ただの幼馴染みに戻ろうと決めた。
しかし、事態はそんな単純なものでは無かった。
「ちぃーっす。達也くん。ちょっと騒がしくするけどゴメンねぇ〜。他に場所が無くてさぁ〜」
突然の来客に、達也の深い黒色の瞳が鋭く光った。
池亀浩司だ。
池亀と池亀の仲間とおぼしき男。
池亀が派手にドアを開けて家の中に上がり込み、その後ろから仲間が続いて入って来た。
見た瞬間、達也の心臓が飛び上がった。
智紀がいた。
智紀は、池亀の仲間に両腕を掴まれ引きずられるように入って来た。
その顔。
達也は咄嗟に智紀の元へ駆け寄った。
「智紀!」
心なしか目元が腫れている。
泣き腫らしたような、殴られたような腫れぼったい目元に、唇の端に出来た赤い血の塊。膝に力が入らないのか、足元がふにゃひにゃとおぼつかず、男たちに抱えられてかろうじて立っている感じだった。
「これは一体どういう事だ!」
池亀は、噛み付く達也をものともせず、手に持っていた車のキーをくるくると指で回しながら薄気味悪い笑みを浮かべた。
「なんだよコワイナー。元はと言えばコイツが悪いんだよ。コイツが達也くんとはやりたくないなんてワガママ抜かすから」
「どういう意味だ!」
「だから、3P」
「は?」
「知らない? 3P。俺、智紀と3Pしたいのよ。だからわざわざダチ連れてさぁ、あ! 二人連れてきたから4Pか。はははっ」
達也は絶句し、硬直した。
叫び出したいのに、喉が詰まって声が出ない。心臓が激しく乱れ打ち、膝が震えて立っているのも辛かった。
池亀は、達也の動揺など気にも止めず、我が物顔で智紀の部屋へと歩いて行った。
「覗いてくれて構わないから。混ざりたくなったら遠慮なく言ってね」
杭で打ち付けられたように立ち尽くす達也の前を、智紀が池亀の仲間に肩を担がれながら通り過ぎた。
まるで死んでいるような顔だった。ただ開いているだけの空洞のような目をして、智紀は部屋へと入って行った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 3