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疼く目
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ベッドの横に椅子を置いて達也を座らせると、池亀は達也の両手首を後手に縛り上げ、拘束用のゴムチューブで胴体を椅子の背もたれに括り付けた。
上半身の自由を奪い、次に両脚を揃えて膝下で固定する。こうして達也を椅子から立ち上がれないようにしておいて、おもむろにベッドに上がり、自分の股の間に智紀を後ろ向きに座らせ、達也の方を向いて大きく股を開かせた。
達也の目の前で、アナルプラグを引き抜かれたばかりの智紀の後孔が、パックリと口を開けて物欲しそうにヒクヒクと蠢く。
咥え込むものを無くした肉壁が、次の獲物を求めて触手を伸ばしているかのようだった。
「どうだ、やらしいだろ。中、飲み込むみたいに動いてるの解るか? こんなふうにヒクつかれちゃ突っ込まないわけにいかねぇだろ?」
池亀の日焼けした手が智紀の白い太ももを這い上がり、後孔の入り口にピタリと指先をつける。
智紀が、あっ、と喘いで首を縮めたのをきっかけに、関節の目立つ指が円を描きながら後ろの入り口を揉みほぐし、ゆっくりと中に埋まって行く。
さっきまであんなに太いプラグを咥え込んでいたくせに、たかが指先ごときで腰をくねらせ甘ったるい声を上げる智紀の気が知れない。上京してまだ三ヶ月ちょっとしか経っていないと言うのに、どうしてこうも変わってしまったのか、達也は、ショックを通り越して軽い憎しみすら覚えていた。
ーーーこいつは俺の知っている智紀じゃない。
達也の知っている智紀は、可愛くて、小さくて、引っ込み思案で、北欧生まれの祖母譲りの茶色い髪と色素の薄い目を気にして、いつも人目を避けるように達也の後ろにくっ付いていた。
見た目はもとより中身や行動までもが同年代の友達と比べてひどく幼く、達也は、いつも周りから二歩も三歩も遅れを取っている智紀を、こんな調子で本当に皆と一緒に大人になれるのだろうかと本気で心配していた、
だから智紀に色々教えてやった。
智紀がちゃんと皆と一緒に大人になって行けるよう、弟を見守る兄のような気持ちで。
しかし、今、智紀は、達也の目の前で池亀に後孔に指をねじ込まれ、身悶えている。
初めてお互いのペニスを握った中一の冬、目の前に突き出された達也のペニスを困ったような怯えたような顔で見ていた智紀はどこにもいない。
何度も扱き合いながら、それでもペニスを握られる瞬間はいつも逃るように腰を引き、ビクビと身体を震わせて恥ずかしそうに俯いた智紀はもうどこにもいなかった。
「おい、ちゃんと見てるか? 智紀のイイとこいっぱい教えてやっからちゃんと見とけよ」
達也の気持ちを思いやることもせず、池亀は、興奮に声を上擦らせながら、智紀を後ろに仰け反らせてお尻を前に突き出させ、達也に見せつけるようにゆっくりと人差し指を中に埋め込んだ。
表面を指先で揉みながら第一関節までズブズブと埋め、指を鉤形に曲げて入口の浅い部分をこちょこちょと引っ掻くように弾く。
「ひっ、あっん!あっ……やっ…」
「どうした? ここ触られるの好きだろ?」
「……き、だけどっ……んっ…」
「なんだ、奥も欲しいのか?」
「んっ……」
埋め込んだ指を一本二本と増やして行きさ、三本入れたところで深く沈める。
根元まで行ったところで指を回転させて小刻みに振動させると、下唇を噛んで堪えていた智紀が、ああっ、と突き抜けるような喘ぎ声を上げた。
「あっ! そこっ……だめっ…」
「ダメじゃねーだろ。ほら、じっとしてろ」
イヤイヤと首を振って喘ぐ智紀の顎を掴んで無理に振り向かせ、智紀の唇に慌ただしく舌を突き出す。
池亀の乱暴な性格が出ているようなキスだった。舌先を尖らせ、智紀の顔を無理な角度に捻って唇を割り、智紀に思い切り舌を突き出させてその舌を唇で挟んでキツく吸う。二つの舌が唇の外で激しく絡み合い、無理な角度で吸い合い、啜り合った。
「そういや、お前らってキスしたことあんの?」
さんざん貪り合った後ようやく舌を離すと、池亀が口の周りに垂れた唾液を舐め取りながら達也を見た。
「聞こえねぇの? キスしたことあんのか、って聞いてんだろ?」
達也はゆっくり首を横に振った。
「した事ない。付き合ってるわけじゃないから…」
「へぇ〜。こりゃまた、商売女みたいなこと言うんだねぇ〜。じゃあ、乳首は? 乳首は舐めたことあんの?」
達也を小馬鹿にするように笑うと、池亀は、智紀のTシャツの裾から腕を入れ智紀の胸をまさぐった。
Tシャツに隠れて見えないが、生地を押し上げ浮かび上がる腕のシルエットと手の動きから、池亀の指が智紀の乳首を摘んでいるのは明らかだった。
達也は、つとめて冷静に、「ない」と答えた。
「勿体ねぇなぁ。こいつ色白いから、ちょっと捏ね回してやるだけで乳首真っ赤になって超エロいぜ? ちょっと待ってな、今見せてやるから…」
しなだれかかる智紀に何かを耳打ちし、智紀が頷くと、池亀は、智紀の身体を真っ直ぐに起こし、Tシャツの裾を掴んで裏返しに捲り上げて頭から抜き取った。
智紀の、静脈の透ける白い胸の両側で、赤く腫れた乳首が成熟した花のように達也を誘っている。
魅入られないよう目を背けようと思ったが、意思に反して達也の瞳は智紀から離れられなくなっていた。
Tシャツを脱いで全裸になると、智紀は肩を後ろに引いて胸を突き出し、自分の乳首を弄りはじめた。
池亀に耳打ちされたのはこの事なのだろう。達也を誘い惑わすように、智紀の白く細長い指が、小さな乳輪をさすり乳首を摘んでは捻り潰す。乳首はさらに赤味を増して硬くなり、乳輪の周りがこすられた刺激でみるみる赤く膨れ上がった。
卑猥に膨らんだ乳輪と尖った乳首が白い胸の上で呼吸と一緒に上下するさまは、池亀の言う通り超がつくほどエロかった。
「こいつ、勃ってるだろ? 乳首いじってやるとすぐに勃つんだよ。乳首も勃つけどアソコもギンギンにな。どうだ、おもしれぇだろ?」
舌舐めずりするように言い、池亀は、顎を掴んでいた手を股間に移動させ、智紀の立ち上がったペニスを何度も弾いた。
「こんな可愛い顔してんのにしっかりついてるんだから不思議だよなぁ。まぁ俺はそれがたまんねーんだけど……。てか、お前は? お前も勃ってんのか?」
「関係ないだろ…」
「なんだよ。隠すことねぇじゃねーか。こんなことなら下半身スッポンポンで縛り付けてやりゃ良かったぜ…」
憮然とする達也をからかうように笑うと、池亀は、
「まぁ、そんなビビんなや、おっ勃てたからって、代わりにやってみろなんて言わねーから」
智紀の後孔に埋め込んだ指を抜き、お尻をずらして智紀の真後ろに座り直した。
お尻をずらす時、智紀の身体に隠れていた池亀の赤黒く反り勃つペニスがチラリと達也の目に入った。
動揺したつもりは無かったが、池亀は、挑発的なしたり顔で達也を見、口の端に下品な笑いを浮かべた。
「最初に言ったろ? お前はそこで見てればいいから…」
智紀を膝の上に乗せてお尻を持ち上げると、池亀は、自分の猛々しく反り勃つペニスを後孔の入り口に当てがい、智紀の腰を自分に引き付けるようにズブズブと押し込んだ。
「んあっ、んっ……あっ……」
ゆっくりと奥に進み、根元まで埋め込んだところで智紀に脚をMの字形に開いて自分で動くよう指示を出す。
達也の目の前で、智紀が苦悶の表情を浮かべながら腰を上下させ、その度に池亀の上反りのペニスがぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて智紀の後孔を出入りする
直視に耐えない刺激に目を逸らすと、池亀に、「ちゃんと見ろ」と言われ、達也は殆ど意地で視線を戻した。
「こんくらいいつも見てんだろ? 今更はずかしがんなや」
「いつもはこんなふうに見ない」
「へぇ。さすがにここまで至近距離だとキツい、ってか?」
黙り込む達也を冷ややかに見据え、池亀は、いやらしく歪めた口をさらに愉しそうに吊り上げた。
「案外、アマちゃんなんだなお前。智紀を見てみろ。こんな近くでもいつも以上によがり狂ってるぜ?」
「お前が変なモン飲ませたんだろう」
「だから、飲ませてねぇって。これがこいつの本性だ。なぁ、智紀」
見せつけるように、池亀が智紀を羽交締めにしてゆっくりと背中を倒し、智紀を自分の身体の上に寝そべらせるように体勢を変えた。
そうすることで繋がった部分がより明確になり、達也は、クッと眉間を顰めて俯いた。
「ほら、恥ずかしいとこもっと見てもらえよ」
「あっ、いやぁっ……んあんっ……んっ……」
「自分から腰振っといて何が、『いや』だ」
「ってな……いっ……ん……あぁぁあ…」
目を閉じていても、淫らな声に嫌でも脳が想像する。
池亀のねちっこく責める言い方も原因だった。挑発である事は解っていたが、無視しようにも、智紀の喘ぎ声が欲望をそそり、つい意識を向けてしまう。耳を塞ごうにも手を縛られていて塞ぐことも出来ず、達也はただ頭の中に膨れ上がる妄想を、他所ごとを考えて抑えるのが精一杯だった。
池亀は、達也を見透かし嘲笑うように、智紀を自分の上に寝そべらせて何度も激しく突くと、今度は、起き上がらせて背中に覆い被さり、そのまま身体を前に倒してバックで責め立てた。
「んああぁっ!……もっ、ダメっ……」
「イキたくなったら教えろ。イカせてやっから…」
「……きたいっ…」
智紀のカタコトのような言葉に重なるように、池亀の低い声が、「おい」と、達也を呼んだ。
「そこで見とけ、って言っただろ? サボってねーでちゃんと見ろよ」
達也は、悔しさに肩を震わせながら顔を上げた。
途端、智紀の恍惚に潤む瞳と目が合った。
「達……也……」
切なく何かを訴えるように、智紀は、達也を真っ直ぐに見つめ、弓形にしならせた背骨をビクビク震わせながらイッた。
池亀は、智紀がイクのを見て高らかに笑い、まだ絶頂のおさまらない智紀の身体をさらに深くえぐるように腰を突き立てた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「まぁそう慌てなさんなって…」
冷淡そうな薄い唇が、仄暗いライトに意地悪く歪む。
鍛えられた胸板にピッタリとフィットしたワイシャツ、脚のラインが解るグレーのスラックス。外で会う池亀は、普段マンションを訪ねて来る時のだらしなく横着なイメージとは打って変わって、やり手のホストかクラブの黒服のようないで立ちで現れた。
あれから池亀は、自分本位に射精すると、精液まみれの智紀の身体を拭きもせずさっさとベッドを離れ、ベッドの足元にある勉強机の上に置かれたバックからビデオカメラを取り出した。
驚き見上げる達也に、池亀は、「俺が智紀の何を理解してるのか知りたいんだろ?」と言った。
答えはこの中にある、知りたければここに来い。
「土曜だったら大概いるから」と、池亀は一枚の名刺を達也に差し出した。
ーーーBARフェイム
土曜は智紀がカフェのバイトで留守なので怪しまれることなく出掛けられる。
達也は次の土曜に行くことに決め、名刺の住所を尋ねた。
店は、繁華街の奥まった場所にあり、土地勘の無い達也は完全に迷ってしまったが、池亀が目印のコンビニまで迎えに来てくれたお陰で何とか辿り着くことが出来た。
雑居ビルの一階で、入り口のドアに小さく〝フェイム〟と書かれているだけで他にこれといって目立つ看板は無い。中を覗くと、入ってすぐに小さな受付があり、奥にバーカウンターとボックス席が見える。
池亀に続いて中に入ると、受付にいた店員が、池亀を見て、「おはようございます」と声を掛けた。
「え? あんたここの従業員?」
「一応、店長。雇われだけどな」
受付の男に片手を上げて応え、カウンターでナンパする客を横目に、薄暗い店内を奥へ奥へと歩いていく。
「ちなみに、二十歳未満は入店禁止だけど特別に入れてやってるんだから誰にも言うなよ」
「え? それはどういう…」
「鈍感な奴だな。周りをよく見ろよ」
促されて周りを見回すと、ボックス席のあちこちで男女が入り乱れて身体をまさぐりあっている。
一対一のカップルもいれば、複数で絡みあっている男女、中には男同士や女同士のカップルもいた。
「これは一体…」
「ハプニングバーだよ。聞いたことねぇか?」
言葉を失う達也を見てニヤリと笑い、池亀は、早く歩くよう促した。
「ここはまだ序の口だ。二階と三階はもっとエゲツないことになってんぞ」
奥行きのある店内を歩き、突き当たりのエレベーターで三階に上がる。案内されたのは、男二人が入るには狭すぎるモニター付きの個室だった。
勢いで付いてきてしまったが、狭い個室で対峙するには池亀は危険な男だった。
さっさと要件を済ませなければならない。思っていると、達也の気持ちを察したのか、池亀は、狭いソファーに不自然に肩を窄めて座る達也をニヤニヤと覗き込み、わざと膝をくっ付けて座った。
「ふざけてないで早く教えろよ」
「まぁそう慌てなさんなって…」
池亀はのらりくらりとはぐらかして達也の反応を楽しんでいたが、ふいに個室のインターフォンが鳴り従業員と何やらやり取りした後、「そろそろ教えてやっか」と、姿勢を正してようやく本題に入った。
「その前に、お前、俺のことはどこまで聞いてる?」
「どこまでも何も、出会い系サイトで会って、絡まれて、助けられた…とか」
「正確には、あいつが出会い系で知り合った奴とここに来てトラブル起こして俺が止めに入ったんだけどな」
「トラブル…」
「単なる痴話喧嘩さ。でもそん時、あいつが身分証偽造して入店してたのが解ってな。こりゃちょっと痛めつけてやんねぇと、って事で、手っ取り早く酔わせてレイプしちまおうって事になったんだが、こいつちょっと飲んだだけでメソメソ泣き始めて、自分の性癖とか、お前とのこと色々話しはじめてさ。それ聞いてるうちになんか面白くなってきて、これで終わらせるのは勿体無ぇな、って事になったわけ」
「面白くて……勿体無い…?」
「だって、いくら幼馴染だからって、お互いのチンポ扱いたり、しゃぶったりしねぇだろ、フツー。まぁ、百歩譲って扱くのは良しとして、しゃぶるなんざもう立派なプレイだよ。
それを何の疑問も持たないで真顔で受け入れてるなんて、コイツ、頭、大丈夫かな、ってな」
「それで智紀にあんなことしたのか」
「まぁな。でもどっちかって言うとお前の方に興味あったよ。あいつの頭の悪さにつけ込んで好き放題やってるのがどんな男か見てみたかった。しかも、露出趣味でそいつにセックス見てもらってるとか言うじゃねーか。もうアホどころか完全アウトだろ? まさか本当にそんなことさせてるなら、とんでもない変態野郎だぜ」
内面に入り込んでくるような、ねっとりと絡み付く視線を向けられ、達也は池亀と目を合わせたまま硬直した。
池亀は、言葉に詰まる達也を見て薄ら笑いを浮かべた。
「でも、実際会ってみたら高感度良さげな兄ちゃんで正直ぶったまげたよ。しかも自分が何したのか全く自覚が無いときてる。だから色々教えてやろうと思ってな」
「色々って、一体何を…」
両膝の上で握り拳を震わせる達也をフフンと鼻で笑うと、池亀は、
「俺、説明すんのヘタだから、取り敢えずこれ見てもらおっかな」
テーブルに置かれたリモコンでモニターの電源を入れた。
「これ…」
「そうだ。この前のやつ」
映し出されたのは、先日の池亀と智紀のセックス画像だった。
しかし池亀と智紀が映るのはほんの少し。まるで狙ってカメラを固定していたかのように、画面は圧倒的に達也の顔を映し出している。
意図的なものであることは誰ね目にも明らかだった。達也は面食らい、言葉を失った。
「お前、智紀が誰かに見られてないとイケない、っていうの知ってるよな? あれ、どこまで本当だと思ってる?」
「どこまで、って……。まさか、智紀が嘘をついてるとでも?」
「それは本当だろうよ。でも、誰かに、っていうのがちょっとな……。見られることが目的なら誰でもいいわけだろ? でも、俺が3Pした時、あいつは最後までイカなかった」
「どういう意味だ…」
「誰でもいいわけじゃねーんだよ…」
意味ありげに言うと、池亀は、手もとのリモコンで映像を早送りし、ある場面で止めた。
「これ……」
映し出されたのは達也の顔だった。
「あいつがイッてる時の、お前の顔。自分で見たことなかったろ。すげぇと思わねぇ?」
自分の顔に自分で驚くとは思いもしなかった。
一点だけを瞬きもせず見つめる瞳孔の開いた目。
暗い穴のような、それでいて、奥深くに鋭い光りを宿した目。
達也は、モニターに映し出された自分の目を見ながら膝を震わせた。
「ゾクゾクすんだろ? 俺はやられた経験ねぇから解らねぇが、こんな、オス丸出しの顔見せられたら大概の女は大人しく身体差し出すぜ。お前、若けぇのにマジで怖いよ」
「なにが言いたい…」
「だから、智紀は誰でもいいんじゃなくて、お前じゃなきゃダメなんじゃねーか、ってことさ」
「俺じゃなきゃ……ダメ……?」
達也は直ぐには反応出来なかった。
池亀の言葉の意味が解らない。しかし池亀は、あたかもそれが真実であるかのように目を輝かせた。
「正確には、お前のこの顔、この表情。あいつ、これに欲情してるんだと思うんだわ。
つまり、あいつはお前のこの顔が見たいんだ。この顔見なきゃ終われない。刷り込みだよ、刷り込み」
「刷り込み…」
「幼馴染なんだろ? あいつトロそうだし、影響力あったと思うよ? お前」
確かに、影響力はあったと思う。
しかしそれは子供の頃の話で、中学に入ると智紀の人見知りは徐々におさまり、高校に入る頃には、お互い別の交友関係も出来、四六時中貼り付いている事は無くなった。
学校帰りにどちらかの部屋に入り浸ってはいたものの、校内では話す機会も減り、表向きにはそれほど親密な関係だとは思われないほどあっさりとしたものになっていた。
それだけに、刷り込み、と言われても、達也は正直ピンとこなかった。
それに、直接、智紀に言われたわけじゃない。
しかし池亀は一蹴した。
「そりゃあ言えねぇだろ。そんなん、『お前がいなきゃセックス出来ない』って言ってるようなもんだかんな。お前だって言われたら困るだろ?」
達也は言葉に詰まった。
果たして本当に困るのだろうか。困るか困らないかと言われたら、多分、困るだろう。智紀が他の男とセックスするをこの先もずっと見せられるのかと思うと正直気が滅入る。
しかし、智紀が自分の知らないところで誰かとセックスしているのを想像するのも嫌だった。
子供じみた独占欲。
それとも支配欲なのだろうか。
どちらにしても自己中心的だ。純粋な愛情じゃない。
気が動転して何も考えられなかった。
逃げ出したい衝動に駆られ立ち上がると、すぐさま池亀に腕を掴まれ、引き止められた。
「どこ行くんだよ」
「用は済んだんだ。もう帰る…」
言い終わらないうちに、腕を後ろに捻り上げられた。
至近距離に池亀の噛み付くような視線があり、達也はハッと息を止めた。
「まだ用は済んでねーよ」
低い、凄みのある声で言うと、池亀は、達也の腕を捻り上げたまま、モニタールームを出て奥のエレベーターに達也を乗せた。
「どこへ行く気だ」
「うっせーな、きっちり落とし前つけんだよ」
向かったのは二階フロアだった。
磨りガラスで仕切られたボックス席を通り抜け、カラオケボックスのような部屋に入る。中にはベッドフォンを着けた客が三人、ソファーに腰掛け、壁に向かってペニスを剥き出しにして扱いていた。
「ここは…」
「覗き部屋だ。壁全体がマジックミラーになってて向こうからは見えないようになってる。隣の部屋は複数プレイの真っ最中だ。ちなみに今日は土曜だからゲイプレイだな」
入り口にある棚からベッドフォンを取り、棒立ちになっている達也の腕を引いて部屋の真ん中のソファーに座らせると、池亀は、自分も達也の隣のソファーに座り、正面の壁を見るよう命令した。
マジックミラーになっている壁の向こうでは、目隠しをされた青年が、開脚機のついた拘束椅子に手足を繋がれ、複数の男達に凌辱されていた。
両脚を左右に大きく開かれ、その間で男が頭を激しく動かしてペニスをしゃぶり、別の男が横から覆い被さって脇の窪みを舐める。男の舌が無遠慮に青年の身体を這い回り、途中で止まっては、赤い吸い跡を点々と付けて行った。
鼻から上を全て隠されているので表情は見えないが、青年が快感に悶絶していることは、ねだるようにしならせた腰と、下唇を噛む表情にはっきりと現れていた。
「こんなもん見せてどういうつもりだ」
「こんなもんとは随分だな。見てみろよ。今夜のキャストは色が白いから、ちょっと捏ね回しただけで乳首真っ赤になって超エロいだろ?」
「え……?」
ニヤつく池亀に不穏な空気を感じ、達也は恐る恐る壁の向こう側を見た。
「まさか……智紀⁈」
返事の代わりに池亀は薄い唇をひん曲げてほくそ笑んだ。
「客として来るのは二十歳以上だけど、キャストのバイトは十八歳から出来るんだ。毎週土曜はこうして入ってる。あいつ、なかなか評判良んだぜ?」
「どうして……」
「あいつもあいつで必死なんだよ。このままだとお前に迷惑掛けるから、自分で何とかしようと模索中なんだ」
「模索中、って何を」
「射精だよ」
達也の言葉を遮るように、池亀は語気を強めた。
「お前、何にも解ってねーみたいだから教えてやるけど、智紀はなにもイケないわけじゃねーよ? むしろイキすぎてるから困るんだ。
ドライオーガズム、って知ってんだろ?
イッてもイッてもイキまくるアレのことさ。お前が仕込んだせいであいつはそんな身体ンなっちまった。ありゃ、射精しないと終わらねぇんだわ。何度もイッてもケツの疼きがおさまんねぇのさ。行き過ぎた快楽ほど辛ぇもんは無ぇよ」
覗き込むように達也を見、池亀は、ヘッドフォンを達也の頭に装着し、耳元から伸びるコードをソファーの横の差込口に入れた。
途端に、智紀の突き上げるような喘ぎ声が響いた。
池亀の話を聞いたせいだろう。いつもの官能的な喘ぎ声が、射精を求めて泣き叫んでいるうに聞こえる。
とても聞いていられなかった。
身体を丸めて項垂れると、ふいにベッドフォンを外され、池亀に耳元で囁かれた。
「可哀想に。早くなんとかしてやりてぇなぁ」
含みのある言い方だった。狼狽して口ごもる達也の肩に手を置き、池亀は、獲物を前に舌舐めずりする野生動物のように、猟奇的な視線を達也に向けた。
「ありゃあ相当辛そうだ。お前も早くなんとかしてやりたいと思うだろ?」
「俺に何を……」
「決まってんじゃねーか、楽にしてやんだよ。お前があいつをそうしたんだろ? 責任取って楽にしてやれよ」
首を振る達也を一瞥すると、池亀は、「逃げてんじゃねーよ」と達也の胸ぐらを掴み上げた。
「あいつが知らない男とセックスするのが嫌なら今すぐ落とし前つけてこい。お前だって、あいつのイクとこ見て欲情してんだろ?
だったら、お前があいつを抱いてやれよ。お前があいつを抱いて射精させてやれ」
声を上げる暇も与えられず、池亀に胸ぐらを掴まれたまま引きずられるように隣の部屋のドアの前に連れられる。池亀の咎めるような視線が胸に突き刺さり、達也はゴクリと息を飲んだ。
智紀の乱れる姿に欲情していないと言えば嘘になる。
しかしもしも智紀がそれを望んでなかったら。
ふと、過去の場面が脳裏を過った。
『聞こえねぇのか。早く自分で達也くんのチンポ、ケツん中に入れろっつってんだよ』
『ご……ごめんなさい。そ、それだけは勘弁して下さい……』
池亀に、上に跨がれ、と言われた時、智紀が激しく拒絶したことを達也は昨日のことのように覚えていた。
もしもあの時のように拒絶されたら。
胸の中に収まりきれなくなった不安が喉元を押し上げる。言葉にするつもりは無かったが自然と口から漏れていた。
すると、
「甘ったれてんじゃねーよ」
ほとんど同時に、池亀のぞっとするほど冷たい視線が達也を貫いた。
「智紀がああなったのはお前のせいでもあるんだよ。拒絶されたらされたで、自分への戒めだと思ってちゃんと受け入れな!」
一喝し、池亀はゆっくりとドアノブを回した。
達也は身体に杭を打たれたようにその場に立ち竦んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
部屋に入ると、池亀が智紀に群がる先客を一歩下がらせ、達也を智紀の正面に立たせた。
智紀は死んだように首をガックリと前に垂らし、それでいて、上反り気味に固定されて丸見えになった後孔を忙しなく淫靡にヒクつかせていた。
「後イキだ。中に何も入れてないのにイキっ放しになってんだよ」
池亀は言うと、智紀の頭の方へ歩き、「起きてるか?」と頬を撫でた。
「池亀……さん…?」
「目隠しプレーはお終いだ。そろそろ終わりにしたいだろ?」
ひどく優しい声で囁き、池亀は、智紀の目を覆う布の結び目を解き、顎の下からハラリと取り除いた。
瞬間、智紀の白目の赤く染まった焦点の合わない目が達也に向けられた。
視界がはっきりしないのか、智紀は直ぐには何も反応せず、しかし、しばらくすると、半開きの目をゆっくりと開け、「あっ」と叫んで背もたれから飛び起きた。
茶色い瞳が大きく見開き唾液に濡れた赤い唇がわなわなと震える。
どうして、と呟く唇を瞬きもしないで見つめる達也の傍らで、池亀が、開脚機に縛り付けられた脚と肘掛けの拘束を外し、智紀の手足を自由にした。
誰に言われたわけでもなく、達也は、縛り痕の残る足首を持って智紀の身体を手前にずり下げ、智紀の身体に覆い被さり、抱き締めた。
「どうして……達也、なんでここに…」
「智紀を助けに来たんだよ。なぁ智紀……俺、お前にキスしたい。……キス……して良いいか?」
返事を待たずに、唇に唇をつける。舌先を忍ばせると、半開きだった唇が大きく開き、熱い粘膜が達也の舌を迎え入れた。
ーーー拒絶されなかった。
ドクン、と心臓が高鳴り、下腹部が急速に熱を持って膨れ上がった。
拒絶されなかった安堵と受け入れられた嬉しさで胸が震え、抑えていた気持ちが溢れ出した。
お互いの舌をお互いの口の中で舐めしゃぶり、唇を離すと、瞼に涙を滲ませる智紀と目が合った。
「達也……なんで…」
「智紀……ごめん……俺、智紀の中に入れたい…。ダメか?」
「ううん、ダメじゃない。……嬉しい……だって俺、本当は…」
「言わなくていいから。……俺がちゃんと終わらせてやる」
ペニスを握り、先走りに濡れる先端を後孔の入り口に当てて中に埋め込み、亀頭まで入れたところで太ももを担ぎ上げるように抱えて一気に奥へ突き入れた。
智紀の小さな身体が腕の中でビクビクと震え、熱い肉壁が埋め込んだペニスを飲み込むように小刻みに蠕動する。
腹部に生暖かいものを感じ身体を起こすと、智紀の放った精液が、密着した腹部に付着し伝い流れた。
「まさか、これだけで……?」
「ん……。大丈夫だから、続けていいよ。俺も……達也が、イクとこ見た……い」
自分の下で恥ずかしそうに身体を縮める智紀を抱き締めながら、達也は再び腰を奥深く沈めた。
行為の後、店のシャワールームで身体の汚れを落とし、池亀に見送られて店を出た。
結局、池亀は智紀の彼氏ではなく、智紀のセフレ兼相談相手だった。
智紀は池亀とのセフレ関係を解消し、今夜でバイトも辞めることにした。
池亀にお礼を言う智紀の傍らで、達也も心の中でお礼を言っていた。
池亀がいなければ踏ん切りはつかなかった。荒療治ではあったものの、収まるべきところへ収まったという安心感と、望んだ結果を手に入れた達成感を得ることが出来た。
もう池亀に会うことも、ここへ来ることも無いだろう。
全てが丸く収まったのだと思った。
「んじゃ、気をつけて帰るんだぞ」
見送る池亀に頭を下げて歩道へ出る。
二、三歩、歩いたところで、ふいに、「達也くん」と呼び止められた。
「襟、曲がってる…」
言いながら、達也の襟元に手を掛け、耳に触れるようにして池亀は囁いた。
「自分が犯るのと、あいつが犯られてるの見るの、どっちが良かった?」
「え?」
ズクン、と心臓が変な音を立てた。
「だからさぁ。自分で犯るのか、誰かに犯らせるか……。犯るのと見るの、どっちが良かった?」
瞬間、戦慄が身体を駆け抜けた。
背筋を冷たいナイフでなぞられているような震えが走る。
吐息のような池亀の囁きが、湿気とともに耳元に絡み付いた。
「ごめんごめん、でもまぁ、何かあったら二人でまた来いよ。特別に遊ばせてやるからよ…」
凍りついたように立ち尽くす達也の傍らで、智紀が、「何話してんだよ」と無邪気に笑った。
その姿に、拘束椅子に縛り付けられた智紀がふと重なる。
「達也……?」
まるで、恐ろしい夢の中に放り込まれたようだった。
意味深な笑いを浮かべて見送る池亀を見ながら達也は呆然と立ち尽くした。
血の気が引くような悪寒を感じながら、下腹部だけが焼けるように熱く疼いていた。
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