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4.唯一Ⅲ
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「なんであんな事言うんだよ、憂炎のばか」
雲嵐は鼻を啜りながら、一人中庭を歩いて行く。赤い瞳からは涙が溢れ、白い頬を伝って落ちた。
「憂炎にとっての唯一は僕なんなら、それでいいじゃん。どこが駄目なんだよ……。わかんないよ……」
自分を大切にしていてくれた。たくさん皮肉を言ってしまったけれど、嫌われてはなかったはずだ。彼は自分を一番に考えてくれていたし、明殷にきてからは鴻帝に嫉妬の感情を抱いていた事も知っていた。
「だから、憂炎も僕と同じ思いでいてくれてるんだって。僕だけを好きでいてくれてるんだって。そう思ってたのに……。全然わかんないよ、憂炎のばか」
ようやく決心が付いたところだったのに。
雲嵐は憂炎から貰った契約の指輪を眺めて顔を歪める。ほんのり熱をもったそれは、憂炎がまだ契約を解除していない事を示していた。
「憂青の治療が終わったら、君の本当の魄になろうと思ってたのに」
雲嵐は憂炎の本当の魄になる事ができた。それが正しい事だと、理がそう告げている。そしてそれが鴻帝の死後に雲嵐が消滅しなかった理由なのだ。
それを知ったのは、彼を一目見たときだった。
きっと鴻帝の魂は既に転生が定められていて、再び生まれてくることが決まっていた。だから魂の片割れである魄が消滅せず、新たに生まれてくる鴻帝の魂を持つ人間を待っていたのだ。
けれど鴻帝とは別人である為か、憂炎と雲嵐の間にある筈のつながりは失われ、雲嵐は彼に会うまでその魂の気配を察知できなかった。
「つながりが切れたなら、もう一度繋ぎ直せばよかった。だから時間をかけて見定めた後、ちゃんと魄になろうと思っていたのに……」
憂炎の血肉を取り込めば、自分は彼の本当の魄になることができる。
白澤の能力で理から引き出したその知識を、今日、憂炎に教えるつもりだった。そして真に繋がりを結び、共に生きることを願っていたのに、そうする前に拒否されてしまった。その理由も、雲嵐にはよく分からない。
「もう一回、ちゃんと憂炎と話をしないと……。やっぱり今のままじゃ、憂炎の気持ちがわかんないよ……」
すん、と再び鼻をすすり、服の袖で涙を拭う。「戻ろう」と呟きおもむろに踵を返したその時に、後ろから「きひひ」と気味の悪い笑い声がした。
「おやぁ? 雲嵐様。お一人とは、不用心ですね?」
「誰……、うあっ!」
振り向いたその瞬間に、下腹を思い切り殴られる。膝をついたところで、次は後頭部に鈍い衝撃が訪れた。
「うう……」
どさり、と雲嵐は地面の上に倒れ込んだ。
目の前の景色が暗くなる。意識が徐々に薄れゆく。腹と頭に感じた痛みも、だんだんと向こうへ遠のいていく。
「宮廷は、安全ではないのですよ? 特に、あなたのように優秀な人にとってはね」
意識が途切れる直前に見たのは、不気味に笑う宰相とその魄の姿だった。
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