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4.唯一Ⅴ
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「雲嵐! いるか!?」
中に入り、そして目を大きく見開いた。憂炎の部屋三つ分ほどあろうかという暗くて広い空間。周囲に剣や盾が立てかけられた倉庫の中心で、真っ白な青年が力なく倒れていた。
「雲嵐!」
「憂炎……?」
青年はうっすらと目を開き、たった今入ってきた憂炎に弱々しく微笑んだ。
その服はずたずたに切り裂かれ、白い足が剥き出しになり、あちこちから血が流れている。
その無残な姿に憂炎の頭にふつふつと怒りが湧き上がる。そしてその両脇にいる人物に、鋭い視線を投げかけた。
「雲嵐をこんな風にしたのはお前か。緑永」
憂炎の低い唸り声に答えるように、「きひひ」と不気味な笑い声がした。
「悪いのはあなたとこの霊獣なのですよ? 憂炎様。あなたたちが私の計画をすべて壊してしまったから、私はこうするしかなかったのです」
「……どういう意味だ」
「憂青様を治してしまったじゃありませんか。私が昔から念入りに仕込んでおいたというのにねぇ?」
憂青を治した。自分が仕込んでいたのに。その言葉で、憂炎は雲嵐が言っていたことを思い出す。憂青の病は、幼い頃に飲んだ毒の所為だと。
「まさか、お前が兄様を……!!」
緑永はにたりと口角を上げた。
その横で、狐月が頭の耳を動かしながら無邪気に笑う。しかし細い瞳の向こうには、怪しい光が輝いていた。
「緑永さまはずーっと考えてきたのにさ。なのに、こいつが全部台無しにしちゃった。だから僕がこいつの力をちょーっと拝借して計画を軌道修正しようって訳だよ」
狐月の言葉に憂炎は剣を鞘から抜く。
「雲嵐に、何をするつもりだ!」
「この狐月は、他人の能力を写し取る力があるんですよ。ただし、自分が殺した相手にしか適応されないというちょっと特殊な発動条件なので、今まで黙っていたんですがね」
「は……? それはどういうことだ!」
剣を握る憂炎の腕に力がこもった。怒りと苛立ちと焦燥が、混ざり合って身体の奥から迫り来る。
「わかんない? こいつにはー、死んで貰おうってこと。でもさー、ただ殺したんじゃつまんないから、こうやって遊んでたんだ」
狐月はそう言いながら、雲嵐の隣に屈み込む。そしていつの間にかその手に握っていた小刀で、雲嵐の左手の甲を躊躇なく突き刺した。
「あぁああああ!!」
「雲嵐!! くそっ、お前ら……!!」
憂炎は剣を振りかざし、緑永と狐月に斬りかかる。そして二人が散った隙に雲嵐を自らの背にかばった。
緑永と狐月はにたりと笑い、武器庫に置かれていた剣を持って、左右から憂炎に向かってそれを構えた。
「なるほど? 私たちとやるというのですね?」
「二対一、しかもその霊獣を護りながら? 君の方が断然不利なのわかんないー?」
緑永と狐月が左右から同時に斬りかかってくる。憂炎は剣と鞘で二人の攻撃をなんとかいなして跳ね飛ばした。
「くっ……。分かってはいたが、これは……」
反動で膝を突いたまま、憂炎は再び正面から向かってくる二人を睨みつけた。緑永は今でこそこの国の宰相だが、元は軍人だ。皇族の義務として剣技を身につけただけの憂炎とは、力の差は歴然だった。
「ゆ……、ゆ……えん……」
雲嵐が消え入りそうな声で名前を呼ぶ。そんな彼を安心させるように、憂炎は後ろを振り向き笑顔を作った。
「……大丈夫だ。俺が、必ず守ってやるから……!」
「へぇ? できるでしょうかねぇ?」
そんな憂炎に、緑永と狐月は容赦なく剣を叩き込む。暗い倉庫に高い金属の音が鳴り響いた。
「くそっ……!」
防ぎ切れなかった攻撃が、憂炎の身体にいくつもの赤い筋を作っていく。やはり力は遠く及ばず、二人の動きを見抜いてなんとか致命傷を避けるだけで精一杯だった。
「さあ、もう良いでしょう。あなたが死ぬといろいろと面倒ですが、事故という事にすれば良いですしね。……いきますよ、狐月」
「はーいっ」
二人の剣がきらりときらめく。よけられない。瞬間的にそう悟り、憂炎は両目をぎゅっと閉じた。そしてその刃が、憂炎の首を貫く直前。
がきぃん! と。
激しい音がして、二人の剣が止められる。
「遅く、なりました」
二人の攻撃から憂炎を護ったのは黒髪の青年。憂青の魄の熇白が、長い剣を構えて目の前に立っていた。
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