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4.唯一Ⅷ
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「なんだ……!?」
雲嵐の唇から身体を離した憂炎は、思わず目を見張った。死んだ筈の雲嵐が、再び鼓動を刻み始めている。それは憂炎に共鳴するかのように、力強く脈打っていた。彼の顔には色が戻り、身体から傷は消えている。そしてその掌は、温かさを取り戻していた。
「雲嵐……?」
名を呼ぶと、雲嵐はそっと目を開いた。おもむろに寝台の上で上体を起こし、赤い光を宿した瞳を憂炎に向ける。
「憂炎……? 僕、生きてる……? それにこの感覚は……君の、魄に……?」
名前を呼び合い、両手の指を絡め合う。その瞬間、感じた事のない程の幸福感が憂炎を襲った。まるで、なくしていた大事なものを取り戻したような。魂の片割れを見つけたような。目の前の雲嵐と、身体が一つになるような。
「ああ……。これが、魄なのか……」
魂の片割れ。それがすぐ、側にいる。
契約などでは得る事のできなかった幸福感が、憂炎の胸の中にある。
本能的に、憂炎はすべての状況を理解した。そして「よかった」と呟き雲嵐の身体を軽く抱きしめる。
「どうして……? 君は僕と離れようとしてたのに……?」
瞳を潤ませながら疑問を投げかけてくる雲嵐。その表情があまりに愛しく、憂炎は顔をほころばせた。
「違うんだ。俺はお前の思いを勘違いしていて、あんなことを言ってしまった。本当は、俺もお前の唯一になりたかった。他の誰よりも、お前に想われたかったんだ、雲嵐」
「……!」
雲嵐は瞳を大きく見開いた。そのほんのり桃色に染まった頬を、憂炎は掌で包み込む。
「雲嵐。お前を、愛している。俺もお前と生き、そしてお前と共に死にたい」
持てるだけの愛情を込め、彼の唇に口付ける。唇に舌を這わせると、雲嵐はびくりと身体を震わせ、しかしゆっくり憂炎を受け入れた。
「ん……」
雲嵐の唇から溢れ出た吐息は、憂炎の脳へ甘い刺激を与えていく。彼の頬へと置いた右手は、肩へ、背中へと降りてゆき、やがて細い腰に腕を回した。
やめなければ。頭ではそう思っても、身体が全く言う事をきかない。何度も何度も深く口付け、その度に雲嵐の口腔内を犯していった。
そうしてしばらく彼を味わった後、おもむろに憂炎は唇を離す。つう、と唇を銀糸が伝い、やがて名残惜しそうに途切れていった。
「憂炎……」
雲嵐は憂炎を上目で見つめた。その瞳は熱を帯び、憂炎のすべてを求めているような眼差しだった。憂炎は己の獣性を抑えつつ、優しく雲嵐の身体を抱きしめる。すると彼は耳元で、艶のある声で囁いた。
「憂炎……。僕も、君を愛してる……」
限界だった。
ぷつん、と細い糸が途切れると同時に、すべてを抑えていた理性を手放す。
「雲嵐……」
彼の身体をとさりと寝台に横たえて、その上に覆い被さった。そして彼の首元に、ゆっくりと顔を埋めていく。
「雲嵐……。お前の全ては、俺の物だ」
魄を持たない人間。仕える人間を失っても尚存在し続けていた魄。
途切れていた二人の運命は、ようやく一つに重なった。
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