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エンディング・魄
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あの後、緑永と狐月は捕まった。紅焔と熇白が事のすべてを燕帝に報告し、そのまま牢獄送りとなったのだ。翌日部屋を訪ねてきた憂青からそのことを聞いた憂炎と雲嵐は、そろって胸をなで下ろした。
憂青の病が完治し、緑永と狐月が捉えられた故、宮廷内の状況は一気に変わった。
まず、正式に憂青が燕帝の後継となる事が公表された。国民達は病を完治させ、皇帝を継ぐ決意をした憂青を、歓声を持って祝福した。
そしてかつて憂炎に魄がいない事をあざ笑っていた皇帝反対派の官僚達は緑永逮捕後急に大人しくなり、憂青や憂炎へ急にへりくだった態度をとるようになった。
緑永が起こした一連の出来事は伏せていたつもりだったが、どこかで漏れてしまったのだろう。
彼らは恐らく皇帝一族、特に紅焔と熇白を敵に回すと厄介であるということに気付いたのだ。お陰で今、宮廷内の派閥争いは、随分と落ち着いている。
そして、憂炎と雲嵐はというと。
「ねー、憂炎。どこまで登るつもりなの?」
「まだ上だ。この山は前にお前が住んでいた山よりずっと低いんだから。もう少し行かないと簡単に人が入ってきてしまう」
「ちょっと。僕の術を舐めてる訳? そう簡単に他人を結界内に入れる訳ないでしょ」
明殷の都からほど近い山の中腹あたり。落ち葉を踏み、木々をかき分け、龍黎国の第二皇子がその魄を連れ立ち、山の上へと登っていく。
「そうは言っても何があるか分からないだろう? あのときのように誰かがお前を傷つけに来るかもしれない。それを防ぐ為に宮廷を出たのに、簡単に見つかるところにいては意味がない」
「それ、宮廷でも言ってたけどさ。僕はもう君の魄なんだし、君が死なない限りは僕も死なないよ? 何も宰相にならないかって誘いを捨ててまでするもの? ……まぁ、僕は君がいればいいからなんでもいいんだけどさ」
「俺も、雲嵐がいればなにもいらない」
憂炎は目の前の木の枝を手でよけながら、後ろで頬を染める雲嵐を横目で見る。
憂青が後継になる事が決まった後、憂炎は燕帝と憂青から、緑永逮捕で空白になった宰相の席に座ってほしいと言われたのだ。
もちろん全く興味がないわけではなかった。宰相という立場から父や兄の補佐をする事で、これまで彼らに貰った恩を返していくのも悪くないとは思った。
けれど宮廷にいれば、再び雲嵐を狙う者が現れ、彼が再び苦しむ可能性がある。たとえ命まで失われなくても、そんな姿は金輪際見たくなかった。
故に憂炎は誘いを断り、宮廷での暮らしを捨てて雲嵐と二人山奥で暮らすことにしたのだ。家族――特に燕帝には泣いて反対されたが、最終的には月に一度は宮廷に顔を出すという条件であればと許してくれた。
「よし、この辺にするか」
山頂付近、木々もなく開けた場所にさしかかった時、憂炎は立ち止まって頷いた。振り向けば、小さく明殷の都が見えた。
森が切り開かれて田畑があり、更にその中に都がある。中にいた頃は随分大きな町だと思っていたが、こうして眺めると小さいものだ。
「雲嵐、頼む」
「やってるよー。ちょっと待ってて」
手を前に出し、ぶつぶつと呪文を唱える雲嵐。しばらくすると目の前の空間が一瞬揺らぎ、そして彼も呪文を止める。
「はい、終わり。家のある場所をこの場所とつなげたよ。出入りの方法は前と同じ。覚えてるよね、憂炎?」
「あー。まぁ、勿論。しかし……」
憂炎は雲嵐の住処と繋がったという空間を眺めながら、ぽりぽりと指で頬を掻く。それから隣の彼に向かって、そっと右手を差し出した。
「お前が一緒にいれば、もっと簡単にあの場所へ行けるんだろう?」
雲嵐は差し出された手に目を瞬かせる。そして頬を赤く染めながら、笑顔で憂炎の手を取った。
「行こう、雲嵐。最期の時まで、共に生きよう」
「うん。死ぬ時まで、ずっと一緒だ」
そして二人は、未来へと足を踏み出した。
(fin)
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