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クリスマスはケーキを2人で!
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「え? 行けなくなったってどういうこと?」
「ごめん! 例のアイドルゲーム、初回収録が明後日にねじ込まれちまって」
両手を合わせて、俺は未来に謝り倒す。よりによって、一緒にサンプルを録りに行こうと約束していた日に収録が入ってしまったのだ。
「スタジオ代は俺が出すから、未来1人で行って──」
「やだ」
(んな即答しなくても……)
後から考えると分かる。
この頃からだったんだ。俺と未来の生活がズレ始めたのは……。
事務所、というかマネージャーが『売る』と決めた新人は、徹底的にプロモーションをかけられる。俺はそんなルートに乗ったことなかったから、その忙しさを知らなかった。
週2〜3本のテープ審査、アニメのガヤ、スタジオでのオーディション。ソシャゲのモブに、ネットゲームの端役。ニュースのボイスオーバーに、ネット動画のナレーション。
その全てが都築マネージャーからの案件で、毎日のように電話がかかってくる。
(実はこんなに仕事があったのか……)
前回は事務所に仕事がないんじゃないかとさえ思っていたのに、今は目が回るほど忙しい。
あっという間に半年以上のときが経ち、街にはクリスマスソングが流れ始めていた。
ちなみにだけど、『アイドル☆プリンス』は、センターキャラの演技が下手&歌も下手のダブルパンチで、そこそこしかハネていない。
ただ、俺がこのところだいぶ経験値を積んで演技が多少マトモになってきたことと、脇を固める素敵な声優陣の皆さまのパワーによって、ダウンロード数は伸びてきている……と都築マネージャーは教えてくれた。
全国ツアーの予定は来年以降、俺の歌の上達しだいだとか。マジか運営。
「……すっかり売れっ子だね」
アパートの居間で、俺の買ってきたクリスマスケーキをはさんで向かいに座る未来は、笑顔だけど声が冷めてる。
「な、なぁ未来。今度──」
「だめだよ」
「え?」
「蓮の『今度』は当てにならない」
……そう。忙しさにかまけて、俺はボイサンの一件以外にも、未来との約束を何度も反故にしてきた。
(信用なくすわな……)
でも今日は、確実に約束できる要素を持っている。俺は、1枚のプリントを取り出した。
「これ、一緒に行かね?」
それは、事務所主催の勉強会のお知らせだった。
「これなら、参加するって言っておけばスケジュール入れられないから」
「本当?」
「おう」
「蓮と一緒なら……行く」
久しぶりに未来の嬉しそうな顔を見て、なんだかホッとする。
「ケーキ、食おっか」
「うん」
2人用の小さなホールケーキに、スープを食べるときに使うスプーンを俺は差し込んだ。実はケーキって、こうやって食うと美味いんだ。
「未来、口開けて」
「あーん」
大きめの一口分をすくったスプーンが桜色の唇からちょっぴりはみ出して、クリームを口の端に残す。
「ついた」
「取って」
指の背で拭って、俺はそれを舐める。
「お、美味い」
「それじゃ蓮には、こっちで食べてもらおうかな」
未来が取り出したのは、パスタのソースなんかを取り分けるときに使ってるデカいスプーン。
「そんなの入んねぇって」
「蓮は口がおっきいから大丈夫」
スプーンには、ほぼカットケーキの1ピース分くらいが乗っかってる。
「一口でどうぞ」
「マジかっ」
「ほら、蓮。男の子でしょ?」
いや、そうまで言われたらやりますけど。
俺は最大限口を大きく開けて、ケーキを食べる。スプーンを押し込んでくる未来は、きゃっきゃと笑ってて楽しそうだ。
そういえば、こんな光景を従姉妹の結婚式で見たような気がする。
「ふぁーふほふぁいふぉひふぁいらら」
「何? 全然分かんないよ」
口の中いっぱいになったケーキをあむあむ咀嚼してから、もう一度言い直す。
「ファーストバイトみたいだなって」
「ふふ」
俺と未来は、現行の法律じゃ結婚することはできないけど、こういうのってなんか……地味に嬉しい。
トップに飾られたイチゴをつまんで、俺は未来の口元に差し出した。
「お返し」
「ありがと」
未来が唇でそれを受け取ると、すぐにほっぺがポコっとイチゴの形に膨らむ。
(可愛すぎんだろ……)
恋人があんまりにも可愛くて、ほっといた時間がリアルに悔やまれ……俺はテーブルに身を乗り出してキスをした。
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