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「はー終わったー…」
「お疲れ様」
委員会の会議が終わったのは16時半過ぎ
部活のある人はすぐにスクールバッグとエナメル製の少し大きくて所々土やらなんやらで汚れた肩掛けのバッグを持って教室を後にする。
部活動に所属してない人はそのまま暗黙の了解で各学年クラスに配るプリントの整理整頓とまだやることがった。
部活に所属しておらず会議後に予定がなかったのはオレ含め二人。
時計を見ると既に18時を回り、長針は6の位置まで進んでいる。
窓の外に目を向けるとすっかり外は暗くなっていた。
「楢崎、私鍵返して帰るから」
「あ、うん。ありがとー」
「ん、戸締りよろしく」
じゃあね、と扉の先に消えたのは
先程まで一緒に作業していた隣のクラスの女の子
カチカチと壁掛け時計の秒針がいやに響いている。
一人になって余計にそれを感じさせられた。
指の先から身体が冷えていくのを感じる。
冷たいのに背中には汗が滲む。
カーテンの閉まっていない窓から見える空は黒
そして教室の扉の先、そこから先も同じ色
この時期のこの時間はもう校舎内はほとんどの人がいないらしく4階の音楽室2階の職員室以外は明かりがつけられていない。
暗くて暗くて先が見えないそれにどくりと心臓が激しく鳴る。
普段だったら何かと理由をつけて早く帰る。
けれど今日は俺が帰ってしまったら彼女一人で作業をすることになってしまっていたから
実際に予定の無い俺が帰るのもどうかと思い
気づけばこんな時間。
失敗したと思ってももう遅い。
俺は教室から出られなくなっていた。
例えでもなんでもなく俺は教室から出られない。
もっと詳しくいえば、教室のドアを超えた先
真っ暗な廊下に出ることが出来なかった。
理由は単純
暗い所が怖い
なにか大きな理由がある訳でもない
いや、あったにはあったけれどあれは些細なきっかけ
それはそれとして昔から暗いところがだめだった。
見栄を張ってしまう俺のこれを知ってるのは極わずか
クラスメイトの友人ですら知らない。
先に扉の外へ消えた彼女を追いかけることも俺には難しい
どうしよう
鞄も教室に置きっぱなしだ。
なんで持ってこなかったんだろう。
後悔してももう遅い
そうこうしているうちにも時間は勝手に進むし
俺を置きざりしていく。
落ち着こうと深呼吸をする。
と、
「融」
「ぇ、あ……うみ?」
「帰るぞ」
暗闇から聞こえた声はいつもの気だるげではあるけれど
眠気は含まれていない聞き慣れた声音
カバンを二つ肩に引っ提げたウミがドアにもたれかかって俺を待っていた。
「な、で」
驚きか安堵か舌が回らない。
開いた口を閉じる。
こくり、固唾を飲んでウミの方を向く。
「俺、帰れって…」
「お前、帰っていいとは言ったけど帰れとは言わなかっただろ」
「、」
でも、だからってこんな時間まで待ってたのか?
「どうせお前のことだから遅くまで居残ると思って図書館で寝てた」
「…俺の、要領悪いから?」
「そうだな」
なんとか返せた冗談は全く冗談ではなかった。
ふっと笑みを見せるウミに先程まで冷えていた身体が温もりを覚える。
昔よりも笑わなくなったウミ
身長も顔立ちも笑い方も何もかもが昔と違うのに
昔みたいにはにかむような笑顔は見えない。
ウミは口の端をゆるくあげて下手くそに笑う。
それでも、どうしてこんなにも安心するのだろう
ウミの笑顔は俺の特別だ。
「帰るぞ」
「ん」
「ほら」
「そこまでしなくて、平気、だっ」
ほら、と出された手のひら
変な強がりと照れくささに語尾に力が入る。
そんな俺にウミは差し出した手を引っこめることなく
寒い、と一言だけ呟いた。
ぶっきらぼうな口調、笑顔はもう見えない
いつもと変わらない気だるげで本当になんでもない事のようにウミは言う。
俺はまたその手をとる。
優しく握り返された手のひらに心臓が鳴った。
誰よりも自由で優しいウミ
ウミはどこにいても俺を見つけ出して手を引いてくれた。
小さい頃とは何もかも違うけれどそれだけは変わらない。
そんなウミに俺は、友達だけでは説明できない想いを抱えてい。
友達、幼馴染み、共犯者
肩書きを作ればたくさん当てはまるものがあると思う。
そのどれも正解で間違い。
友達では足りない。
幼馴染み、家族よりもっと近い。
共犯者よりタチが悪い。
どの肩書きにも必要なくてあってはいけない感情
俺はウミに恋をしている。
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