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マンションのエレベーターを待っている間
ウミが小さく呟いた。
「どっち」
何のことかすぐに理解できた俺は「俺ん家」と答える。
ちょうど到着したエレベーターに二人で乗り込む。
すぐに押されたのは4階のボタン
ウミはやっぱりちょっと元気がないようだった。
「ただーまぁ…」
「ただいま」
慣れたように二人で狭い玄関で靴を脱いで
廊下をまっすぐ進みリビングへ
ドアを開けると夕飯であろうシチューの匂いが鼻腔をくすぐった。
いや、真夏にシチューって…
「おかえり、手洗った?」
「ただーまぁ。まだ、シチュー?」
「そールーが余ってたからいいかと思って、でも暑いわね。あ、融!あんたいい加減海に迷惑かけるんだから気をつけなさいよ」
「やっぱ母さんか」
情報源はここか。
今日のことをウミに伝えてないはずだったのに
ウミがあそこにいるのはおかしいと思ったんだよ。
洗面所から出てきたウミと入れ違いに俺は手を洗いに
ウミは母さんと何かを話していた。
「今日泊まっていい?」
「もちろん!海、悪いけど箸とかだけ並べておいて!」
「わかった」
本来だったら俺がやるべきことだけれど
母さんにとってウミはお客さんではなく息子も同然らしく
ウミも母さんの言うことは素直に聞くようでいつもの気だるさはどこに行ったのやらテキパキと動く
俺がリビングに戻るともうすでに食卓には夕飯が並んでいて俺は席についてウミといただきますをする。
「じゃ、私お風呂入るからなんかあったらお願いね」
「んー」
「わかった」
俺は夕飯を口に含んだまま手だけ振って応え、ウミもそれに合わせて返事をする。
リビングの扉が閉まるとさっきまで回っていた換気扇もいつの間にか止まっていて部屋はしんっと静かになった。
「ウミ、今日のこと母さんに聞いたんだな」
「…来た時、お前いなくて聞いたら駅前のカラオケ行ったっつってたから」
「…ずっとあそこら辺で探してたのか?」
駅前にカラオケなんていくらでもある。
第一解散の時間は母さんにもわからないとしか言っていなかったのだからもし俺が言ったことが本当なら随分と迷惑をかけたのかもしれない。
いや、俺は頼んでないし
ウミが勝手にやったことではあるけれど
それでも助かったのは事実なわけで
余計なことを考えて一向に箸が進まない俺に
ウミは首を振るって言った。
「エントランスとか近くの公園で待ってようと思ってた。けど、気づいたら駅前まで行ってた。見つけられたのは本当にたまたま」
「…そう」
淡々といつもの調子でつぶやくウミ
けれど口数が多いのはウミも何かしら思うところがあるからなのかもしれない。
また訪れた沈黙
食器のぶつかる金属の音が響く。
黙々と食べ進めるシチュー
ウミを見ると暑いのか頬が少し赤く色づいていて
食べやすいように髪を耳にかけている。
なんだ、暑いのにシチューなんて最悪だと思ったけれど
存外悪くないな、なんて俺はどうかしている。
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