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日が傾く前に家を出て
ウミの言う綺麗な場所へ向かう。
旅をする冒険者のように軽い足取り
ウミと一緒ならそこがどこだって俺には色鮮やかに見える。
そう思っていた。
けれど流石にここは…
「学校じゃん!」
「バカ大きい声出すな」
「むぐっ!」
勢いよく口を手のひらで塞がれる。
パシリ、となった音が痛みを知らせているようだ。
本来、制服でのみ入校を許可されている学校に私服でいるため先生らに怒られる可能性を考慮してなのはわかる。
わかるが、
普通に痛えし!しかも学校!
どこが綺麗な場所なんだよ!
俺たちの通う学校は特別新しいわけでもなく古くもない
一昨年くらいに創立45周年を迎えたらしい。
俺たちが在学するタイミングでそういった催しがあるのならば祝う気持ちもあったかもしれないけれど
そもそもその時俺らは入学してすらいないので
祝う気持ちもなく「へえ、そうなんだ」くらい心持ちだった。
飾り付けもない夏休みに入っている学校は
かろうじて部活生の気配は感じられるものの
そこにも綺麗さは見当たらない。
もしや俺、騙された?
俺は恨みの籠った視線をウミに向けるが
ウミはやはりどこか楽しげに人差し指を唇の前へ持っていき静かにの合図をした。
「こっち」
「っ」
「転ぶなよ」
「ころば、ねーし…」
自然と掴まれた手首にどきりと心臓が跳ねる。
ウミに他意がないのは分かっている。
だから、俺はこの鼓動がウミに伝わらないことを祈るしかできなかった。
学校の正面玄関ではなく体育館裏側の扉から校内へと入る。
扉が錆びているのかギイ、といやに響く音がした。
とある教室についてウミは徐に扉を開ける。
鍵がかかっていなかったのか意外とすんなりそれは開いた。
扉をくぐる合間、視線を向けた教室のプレートには
図書準備室と書かれていた。
「ウミ、説明」
「ここで夜まで待つ」
「よ、夜…?」
ほんの短い文にもかかわらず情報の処理が追いつかなかった俺は印象に残っていたであろう言葉を無意識に復唱していた。
「夜って、ウミ、分かってんの?」
「ん、俺がいるし大丈夫だろ」
何をもって大丈夫なのか
俺が聞きたかったのは、夜までここにいて追い出されないのかということだったのだが、それこそが答えだというようにウミは言う。
あまりにもあっさりそう言うものだから
俺も変な安心感があって
わかった、と大人しく頷いた。
夏は日が長い。
けれど、日が落ちないなんてことはなく
だんだんと沈む夕日に指先が冷たくなっていく感覚を覚える。
と、
「っ、ウミ、重い」
「お前に起こされて俺は眠んだよ」
肩に加わる重さと感じる熱
ウミが俺にもたれかかるようにして目を瞑り
眠る前の体勢に入っていた。
トウトク、と感じる熱がひどく心地い
肩に加わる重さに安心する。
昼過ぎまで寝ていたくせに
そう悪態を吐こうにも言葉は声にならない
無意識に体が強張っていたのだと気づく。
「お前も、少し寝とけ」
「…」
「言ったろ、大丈夫だ」
「…わかった」
目を瞑るといつもの暗闇
あかりをつけて眠る部屋とは全く違って
何も見えない暗闇だ。
ただ、違うことがあるとすれば
「ちゃんと隣にいる」
ウミが隣にいるということ
いつの間にか肩の力が抜けていて
今度は俺がウミに寄りかかっていたらしい。
起きた時、ウミに肩こりそうと文句を言われて
羞恥心で忘れてほしいと声を荒げたのだった。
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