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雑草が足首を撫でる。
靴裏が硬くなった地面の砂を踏む摩擦の音が
夜も更けて静まり返った校舎裏に響いていた。
真夏の太陽にジリジリと肌を焼かれる感覚とは反対に
夏の夜はじわりじわりと皮膚を中から煮詰めていくようだ。
「う、うみ」
「ここにいる」
大丈夫だ、と優しい声色に
俺は下に向けた視線を真っ直ぐウミの方へ向ける。
「怒られないか?」
「知らね」
意識を他に向けていないと、今にでも足が止まってしまいそうな暗闇に俺はウミの背中だけを追いかけた。
ウミの足が漸く止まったと思えばカシャン、と響く金網の音
「っ」
視線を向けると骨ばった指先がフェンスの金網を掴んでいた。
金属の擦れ合う音は思いのほか響いて
俺の不安と焦りを煽るには最適だ。
「はやくこい」
ウミはいつも俺の先をいく。
大丈夫だと真っ暗な暗闇を照らすように
ああちくしょう、かっこいいな
「わかってるって」
背の高い校舎と気に囲まれたこの通路は真っ暗
俺たちを照らすものは何も無い
普段だったら怖いはずのこの場所にもウミがいる。
それだけで俺の世界が変わる。
何も大袈裟な表現ではなくて
本当に俺の世界はキラキラと輝く
フェンスを登って向こう側へと降りる。
タン、と軽く足を床につけるけれど思いのほか足にはジンとした痛みが残った。
足の裏の感覚に慣れるまで少しの間しゃがむ。
そんなことどうでもいいとでも言うようにウミは隣で靴を脱ぎ始める。
その様子を横目で見つめては、単純な思考で綺麗だな、なんて思う。
足の感覚が戻って、俺もウミの真似をして靴脱いだ。
夜のプールなんて、初めてだった。
恐怖心や不安は俺の後ろをついてくるものの
それ以上に俺の心を踊らせた。
どっちの意味なのか、いや最早どっちでもいい
心臓が鼓動する。
熱くどくどくと脈打つ
「ウミ、タオルある?」
「ないな」
「流石に入れないか」
せっかくここまできたのにプールに入れないということに
俺は落ち込んだ。
学校のプールは屋外にあり、天井などはない
雲ひとつない夜空の明かりを遮るものは何もなく
比較的明るいそこでは俺も少し強気だ。
なんだつまんねーの、と口を尖らせていたところ
「入ればいいだろ」
「え、」
腕を引かれた。
いや、引っ張られた。
体育の授業なんかでやったら反省文ものだと思う。
冷静な頭とは裏腹に、
気づいた時には引力のままに水の中へ
ドボン、なのかバシャン、なのか
耳の中に水が入り込んで聞こえなかった。
でも、食べ盛りの男子高校生二人
一緒に飛び込んだのならそれなりの音はするだろう
秘密なのに秘密じゃない
いけないことなのに楽しい
ちぐはぐで、いつまでも覚めない夢みたいにふわふわ
俺はちょっと咳き込んで水面に上がる。
だって俺泳げないし
それを知っているのにウミも意地が悪いやつだ。
学校のプールということもあり足がつくほどの深さだったからいいものの危ないだろ。
「あ、っぶないだろ!」
「でも平気だった」
「結果論!!」
「俺がいるから平気じゃん」
「っ〜〜!」
さも当然のように、当たり前のようにウミは言う。
お前の自信はどこからくる!
言い返してやりたいのにその通りでぐうの音も出ない。
「融、上見てみ」
「うえ?」
水に濡れたウミはいつもより無防備に表情をころころ変えてみせる。
言われた通り、ウミの指先を追いかけて上を見上げた。
指先にも満たない小さな欠片が、キラキラ散りばめられている。
「う、わぁ…」
「な、綺麗だろ」
思わず声が漏れる。
得意げなウミの声が聞こえた。
都会じゃこんな風に見えない。
広く冷たい海の上みたいな夜空に
たくさんの宝物みたいな光る星屑
それは泡沫の夢のような光景だった。
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