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廊下を走る俺に当たり前だけれど先生の怒号が響いた。
それでも俺の足は止まらなくて、止まることを知らないみたいに動いていた。
呼吸も乱れて息が苦しいのに目的もなくただ足が踏み出す方へ駆けた。
学校なんて、そんなに広いことはなくて
暫くすると行き止まりにあたる。
目の前に見えた扉を勢いよく開けると驚いた表情をした生徒らの注目を浴びる。
視線を感じてそちらの方を向けば
図書室のカウンターから乗り出すように体を傾け
じろりと目を細めて圧を感じる視線を向ける眼鏡をかけた女生徒
俺はぺこり、と頭を下げてすみませんの合図をした。
それを見た図書委員であろうカウンターの彼女は奥へと引っ込んだ。
「は、はっ、……っはぁ、」
まだ整わない呼吸
カバンを肩に掛け直して、本棚の森に身を潜める。
別に追いかけられることはないとは思うけれど
気分はさながら逃亡者
しかし、普段はあまり来ない学校の図書室は新鮮そのもので
自分よりも遥かに背の高い棚の間を縫って進み
ぼんやりと口を開けて上の方に並ぶ本の背表紙を視線で追いかけた。
ふと、先程より幾分か冷静になって
自分の行動を思い返した。
なんで、俺、逃げたんだ。
あの場にいたくないと思ったのは確かだった。
けれど、ウミが他の人と仲良くしているのは
昔に戻ったみたいで嬉しく思う。
そりゃ、俺の方がウミのこと知ってるよ、だとか少し小さいことを思わないでもないけれど
それと同時に言いようのない感情が渦巻いて
ギチギチと心臓を締め付けるみたいに痛ませる。
いつの間にかまた肩からずり落ちたカバン
教室では変な嘘をついてしまったな、と思う。
その頃には乱れた呼吸は整い
首筋にじんわりと熱を残すだけだった。
と、
「お前、こんなとこにいたのか」
「ウッ!?」
「うるせえ」
突然背後から知っている声がして
振り返るとウミがいた。
反射的に自分でもわかるくらい大きな声が出そうになるも
その声はウミの大きい手のひらによって抑えられてしまった。
「外すぞ」
「っ!っ!」
海の言葉に何度も頷く。
だって、今それどころじゃない
ちかい
制服のシャツが触れ合うくらいちかい
離れた手のひらに安堵が少し、残念な気持ちが少し
近すぎるその距離に羞恥心がいっぱいだった。
せっかく走ったせいで身体に篭もった熱は引きそうだったのに
ウミの手のひらが触れたところからどんどん伝染していくみたいに熱がじわりじわりと広がっていく
無意識に俯いていて
さほど変わらない大きさの俺とウミの上履きが視界に入る。
「……融」
「っぁ、」
冷たい指先が首筋に触れた。
俺とは正反対
冷たい冷たい指先
触れたとわかった時には俺の口からは勝手に声が漏れてた。
「は?」
「ッ!?」
パシ、と今度は自分で自分の口を塞ぐ
驚きすぎて顔を上げてしまった。
自分でもわかる、間抜けな程に驚いた顔をしているだろう。
ウミも、おそらく俺の首に触れた時のまま固まっていてとても変な顔をしていた。
「……」
「ウミが、急に、触る、から」
「ああ、悪い」
カタコトのようにしか言葉にならなかった。
爆弾の、導火線に火が灯されるようだ
瞬く間に火種まで駆け巡って点火
ボンって感じ
俺、今、なんつー声っ!!!
「帰るぞ」
「へ」
「図書室に用でもあったか?」
「ない、」
けど、
ウミはなんでもない事のようにまた踵を返して
俺の前を歩き出す。
別に期待も何も無かった。
茶化すわけでもなく無反応って正直いちばんきつい。
いや、何期待してんだって話だけれど
きついもんはきつい
ほんとバカみてーじゃん
こんな友達とか幼なじみとかなら当たり前の距離でさ
なんかもうほんと、あーあって感じ
改めて突きつけられたっていうか
ウミへ特別な感情があるのは俺くらい
当たり前だけどやっぱきついもんはキツいよ
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