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ガラス張りの店内にはまだ秋というには蒸し暑く高い日差しが差し込んでいる。
甘いホイップクリームがたっぷりとかけられた限定のフラッペをトレーに二つ乗せて席を取ってもらっていた彼女の元へ向かう。
「おまたせ」
「ありがとう」
声をかけると柔く微笑んだナノカちゃんはテーブルの上を片付けて椅子の上に置かれていた俺のカバンもさっとどかしてくれる。
トレーの上に乗った極上のスイーツと言っても過言ではないその飲み物を見つけると大きい瞳をさらに大きく輝かせ幸せそうに笑う。
その姿があまりにも可愛らしくて俺も自然と頬が緩んだ。
ナノカちゃんとはあの夏休み以来会ってはいなかったけれど何かと連絡は取り続けていたのもあり
恋愛相談…なんてたいそうな話ではないけれどお互いそれなりに気楽に話せる友人として関係が続いていた。
「それでいまスポーツ大会の練習中なんだよね」
「融くんは出なくてもいいの?好きそうなのに」
「んー好きだよ、でもイマイチ気分乗らなくて」
ちょっと休憩、と笑うナノカちゃんはやっぱり優しく微笑んだ。
元々、今日はどうしても気分が乗らなかった。
それでサボりのは如何なものかと思うが俺としてはそれだけではなくスポーツ大会の練習に出るということは帰りが遅くなり必然的にウミと帰ることになる。
絶賛、ウミから逃げ回っている俺はどうしてもそれだけは避けたかった。
勝手に俺が気まずさを覚えてここ数日ウミと会わないようにすることだけに神経を注いで過ごしていた。
朝だって起こしに行ってない。
朝の時間がなければ俺は一日ウミと会うことはない。
だってウミは、用事もなしに自分から俺に会いに来ることはしないから。
沈みそうになる思考にいけないと瞳を瞑るとポケットの中でスマホが震えた。
一回ではなく規則的なその振動はおそらく通話を知らせるものだろう。
ナノカちゃんに断りを入れて席を立つ。
どうせ練習をサボった俺を呼び戻そうとするクラスメイトからだろうとその画面を見ずに通話ボタンを押した。
「もしもし?委員長?サボったのは悪いけどただいま電話に出れませんので!明日怒られるから!今日は見逃してくれっ」
わざとおどけるようにそう言ってみるけれど通話相手からは一向に返事がなかった。
と、
「お前、どこいんの」
「…え」
機械越しだろうがなんだろうが俺の頭はすぐに理解する。
何回も聞いたことのあるよく耳に馴染む声
ずっと聞いていたくなる俺の好きな声
「融」
俺を呼び捨てで呼ぶやつなんて決まっている。
片手で数えるほどもいない。
しかも、男性の低い声ならそれこそ一人しかいない。
「…ウミ」
「融くん?」
「っ」
咄嗟に通話終了のボタンを押していた。
後ろめたいことがあるわけでもないのに
どうしてか隠さなければいけないと思った。
「ごめんね、少し遅かったから大丈夫かなって」
「あ、うん、大丈夫」
「ほんと?」
「うん」
たった数日だ。
ウミから逃げ始めてたった数日しか経ってない。
幼馴染だからって今まで毎日必ず会っていたわけではないし休みの日だって会わない日なんかザラにあった。
なのに、
「でも本当に大丈夫?顔、真っ赤だよ」
「っ」
俺の名前を呼ぶ声が頭から離れないなんて
どうしようもなく、重症だ。
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