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蜩が鳴いていた。
住宅街だというのに誰かの家の庭の木にでも張り付いていているのか鼓膜を叩くその声は夕暮れの空を彩る。
楽しかったはずのナノカちゃんと茶話はウミからの電話以降心ここに在らず、といった状態で俺は終始落ち着かなかった。
その上、用事ができてしまったなんて嘘までついて早めにお開きにしてしまった。
日が傾き始めて幾分か経った帰り道
塀と塀に挟まれた灰色のアスファルトと舗装された黒曜の帰路は夕暮れの橙も相まって少し不気味だ。
しかし、ざらりとした道の中に夕暮れの光に反射するカレット
その輝きが時々目に映り、俺の心模様とは裏腹にそれすらも綺麗だと感じてしまう。
「はぁ……」
無意識に漏れたため息
それもこれもぜんぶ、ぜんぶウミのせいだ。
ただのメッセージだって殆ど既読ばかりで返事が返ってくることの方が少ないというのに、どうしてこういう時に限って連絡を寄越してくるのだろうな
『融』
ウミの声は元々抑揚があまりない。
機械越しの声ではいつも以上にそれを感じず怒っているのかも呆れているのかもわからない。
怒られる理由なんて、ないと思うけれど
思い当たる節があるとすれば俺がウミを避けていることくらいだ。
普段あまり考え事をしないせいか
一度考え出したら止まらなくなって
気づいたらたら、ウミを避けていた。
今までが幼馴染という肩書きに甘え過ぎていた。
それだけでは足りないほどの感情を抱えているというのに
ここ最近ずっと考えていた。
自惚れだとか考え過ぎなんて百も承知だ。
けれど考えずにはいられなかった。
俺とウミは今までずっと一緒にいた。
お互いが必要だったしそう信じてやまなかった。
でもそう思っているのは結局俺だけだ。
ウミは俺がいない方が自由であることに変わりはない。
本当は知っている。
俺たちの約束は破綻していた。
本当と嘘が絡まり合った約束だ。
この前、ウミとユキミちゃんの姿を見て
そうあるべきだ、とまで考えた。
ウミとずっと一緒の未来なんて本来あり得ないものだ。
今までよく続いていたというくらい。
俺だけが知っているウミなんていうのもそんなわけない。
独占したいと思うのも烏滸がましい。
昔のウミは同級生の中でも中心にいてよく笑っていた。
たくさんと友人に囲まれていた。
昔を思い出すたび、考えずにはいられない。
「俺が、約束なんかしたから、なのか」
ちっぽけな小さい頃の約束をウミは今でも守ってる。
俺がウミを縛り付けているなんて思うのは自惚れすぎなのだろうか。
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