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悪霊の夜
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僕は、一人、家へと帰ってきてベットに腰掛けため息をついた。
「相方、かぁ」
間宮の話によると、間宮は、自分一人では魔霊を祓うことができないのだという。
なぜか。
間宮は、黒毛縄の力を操ることによって初めて、魔霊の類いを祓うことができるのだが、形のない状態の魔霊では、黒毛縄は、縛ることができないからだった。
緊縛退魔師は、魔霊が取り憑いた人間を黒毛縄で縛り上げることでその人間の中へと封印し、その器である人間を昇天させることによって魔霊を払うらしい。
「器に憑かせることで魔霊に形を与えてやるわけだ」
そう、間宮は、言った。
「そのための相方、だ」
間宮は、緊縛退魔師の宗家の出だという。
そんな家元があることが、僕には、驚きなのだが、あるものは仕方がない。そして、普通は、退魔師の家系に生まれた者は、生まれながらの相方を持つ。
それは、依りわらの家系で、贄と呼ばれる。
贄は、生まれたときからそのために育てられ、決められた相方と共に生きることを強いられる。
その相方のためだけに存在する者。
それが、贄だった。
当然、間宮にも、贄は、いた。
「俺の贄は」
間宮は、言いかけて言葉を切った。
なんだ?
僕は、少し、わくわくしてきいていた。が、間宮は、苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「あいつは、何も、言わずに、急にいなくなった」
ある日、急に、姿を消した贄。
逃げられたんだ。
僕は、さもありなんと頷いた。
訳もわからない魔霊に取り憑かれ、縄で縛られて、犯されるんだ。
こんなこと、普通の神経じゃ堪えられない。
間宮は、緊縛退魔師の宗家の出だという。
そんな家元があることが、僕には、驚きなのだが、あるものは仕方がない。そして、普通は、退魔師の家系に生まれた者は、生まれながらの相方を持つ。
それは、依りわらの家系で、贄と呼ばれる。
贄は、生まれたときからそのために育てられ、決められた相方と共に生きることを強いられる。
その相方のためだけに存在する者。
それが、贄だった。
当然、間宮にも、贄は、いた。
「俺の贄は」
間宮は、言いかけて言葉を切った。
なんだ?
僕は、少し、わくわくしてきいていた。が、間宮は、苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「あいつは、何も、言わずに、急にいなくなった」
ある日、急に、姿を消した贄。
逃げられたんだ。
僕は、さもありなんと頷いた。
訳もわからない魔霊に取り憑かれ、縄で縛られて、犯されるんだ。
こんなこと、普通の神経じゃ堪えられない。
いくら、一回5万円出すとか言われてもなぁ。
そう、僕が思っていると、間宮が、突然、回想モードに入ったらしく、語りだした。
「詩は、いや、前の俺の相方のことだが、そいつは、俺と10年以上、一緒に仕事をしてきた」
ええっ?
ということは、少なくとも、10年の間、そういう関係だったってこと?
間宮が初めて仕事をつとめたのは、10年まえのことだった。
間宮が17才の時のことだ。
ちなみに、そのとき、贄である詩さんは、まだ15才。
15才で、縛られて、あんなことやこんなことされるなんて、ハード過ぎるでしょ。
「よく、10年も逃げ・・いや、相方が続いたんだ」
僕が言うと、間宮は、どや顔で言った。
「俺は、上手いから。それに、基本、優しいし」
嘘だ。
僕は、この前のことを思い出していた。
あんな風に、初心者を無理矢理縛り上げ、有無をいわさずいかしたんだぞ。
まともな人間なら、次なんて、考えないだろう。
というか、よっぽどの変態じゃないと、こいつには付き合えないだろ。
間宮は、マジで、悩んでいる様子で僕に言った。
「詩の奴、何が不満だったっていうんだ?」
間宮は、ぶつぶつと小声で呟いた。
「いつも、気持ちよくして、いかしてやっていたのに」
うわあっ。
僕は、遠浅の海岸並みにひいていた。
何、この人。
本物の、変態なの?
とにかく、僕には、間宮は理解不能だった。
「贄に人間なんて使わずに、別の何かを使うとか」
僕がグッドアイデア的に言ったら、間宮は、心底、軽蔑するというような顔をして僕を見た。
「俺に、獣姦しろっていうのか?」
へっ?
何、その思考回路?
なんでそうなるの?
僕は、マジで、ひいてしまった。
こいつ、本当に、真性の変態だ。
「何も、動物を使わなくても」
「犬とか、猫とか、かわいそうじゃないか!」
「あ、そ、そうだね」
僕は、遠い目をして言った。
「動物がかわいそうだよね」
「違うだろうが!」
間宮が大きな声を出した。
「かわいそうなのは、俺、だ!」
言いきりましたよ、この人。
全世界の動物愛好団体を、今、敵にまわしたよ!
「詩は、最高の相方だった。体の相性もよかったし、何しても、文句一ついわなかった。なのに、先月、急に姿を消してしまった」
あまりにもしょげているから、僕は、うっかり間宮に同情しそうになってしまった。
いけない!
しっかり、僕!
こいつは、変態なんだから。
僕は、ひいてて、もう、こんな話、どうでもよかったんだが、一応、人として聞いてみた。
「10年もった人が去っていくような事って、いったい、何、やらかしたわけ?」
「何も」
間宮は、僕の問いに答えた。
「思い当たる節がない」
「んなわけないじゃん」
僕は、間宮に言ってやった。
「なんか、エグいプレイでもしたんじゃないの?」
「そりゃ、仕事だからな」
間宮の言葉に、僕は、宇宙の果てまでひいていた。
やったんだ。
もっと、エグいこと。
「とにかく、僕は、お断りなので。もう、僕のことは忘れて、他を当たってください」
僕は、はっきりとお断りすると、一人で店をでてさっさと家へと帰った。
帰りがけに、商店街のペットショップでドッグフードを買って。
タキには、まだまだ、当分、がんばってもらわなくてはならない。
僕は、心の中でタキに手を会わせて言った。
タキ。
どうか、僕を守って。
その日の夕方のことだった。
帰ってきて、つい、ベットでうたた寝をしていた僕は、金縛りにあっていた。
体が動かない。
目を見開いた僕の顔の前に、ムンクの叫びにも似た表情をした悪霊と一目でわかるものがいて、僕のことをじっと覗き込んでいた。
マジか?
身動きのとれない僕の体の上にのし掛かってきたその悪霊は、僕の耳元で裂けた口をにやりと歪ませて、囁いた。
『一緒に、逝こうね、ユキオくん』
僕を覗き込んだ悪霊の暗い目の奥を見せられて、僕は、戦慄が走った。
それは、まじりっけのない恐怖だった。
悪霊の目の中には、何も、なかった。
それが、僕は、恐ろしかった。
助けて!
僕は、夢中で叫んでいた。
誰か!
タキ!
タキのことを思い描いた瞬間、悪霊が怯むのがわかった。僕にかけられていた金縛りが解け、僕は、部屋の外へと走り出した。
僕は、間宮の部屋のドアを激しく叩いた。
だが、返事はない。
間宮は、留守だった。
辺りは、もう、すっかり暗くなってきていたが、僕は、駅へと向かって走った。
昼間、間宮と入った喫茶店の扉を勢いよく開く。
カラン、カラン。
乾いた鐘の音がして、マスターが振り向いた。
「あれ?君は・・」
「間宮、さんは?」
マスターは、息を切らせている僕を見て心配そうな顔をした。
「ここには、いないよ」
明らかに落胆している僕の姿に、マスターは、気が進まない様子で言った。
「この時間なら、駅の裏のパチンコ屋にいるかも」
僕は、礼を言うと、すぐに、駆け出した。
駅の裏にある薄汚い印象の悪いパチンコ屋に飛び込んだ。僕は、間宮を探して、客の間を歩いた。
いた。
間宮は、夏物語という台で球を打っていた。
僕は、少し離れたところに立って、しばらく、間宮のことを見ていた。
本当に、見た目だけは、かっこいい男だった。
でも、性格は、最悪。
本当に。
僕は、こいつに頼るしかないのか?
僕の脳裏に、さっき見た悪霊の目が過った。
あれは、虚無の眼差しだった。
僕の背筋を冷たいものが走った。
思い出しただけでも、怖かった。
僕は、心を決めた。
「間宮さ」
「やっぱり、俺が忘れられなかったのか?雪緒」
振り向いた間宮がにやりと傲慢な笑いを浮かべた。
何、その態度。
なんか、ムカつく。
それでも。
こいつしか、頼れる奴はいなかった。
僕は、掠れた声で、間宮に言った。
「今回だけ。一回だけ、だ」
「一回だけ、ね」
間宮は、僕を訳知りげに見つめると、言った。
「了解」
間宮は、僕を連れて駅裏のタクシー乗り場へと向かうと、停車していたタクシーに僕を押し込んで、自分も中へと乗り込み、郊外の僕の知らない地名を運転手に伝えた。
僕は、間宮にきいた。
「どこ、行くんだよ?」
「いいとこ」
間宮は、そういうと、にっこりと笑った。
いいとこ、だぁ?
なんか、嫌な予感がする。
ラブホかなんかか?
僕たちは、30分ほど車に乗っていた。
タクシーは、町外れの人気のない山奥へと入っていった。
やばい。
もしかして、こいつ、僕を山の中で犯して、捨てるつもりなのか?
僕は、そこはかとなく嫌な予感がしていた。
だが。
僕の予感に反して、タクシーが辿り着いた先は、山の中の古い大きな古民家だった。
古民家というにしても、古いし、大きすぎる。なんだか、妖怪屋敷みたいだ。
大きな門構えのその屋敷の前でタクシーを降りた間宮は、僕の腕を掴んで歩き出した。
屋敷の門には、達筆で『間宮』と書かれた立派な表札がかかっていた。
ええっ?
ここって、もしかして。
「俺の実家だ」
間宮が言ったので、僕は、大袈裟に驚いて見せた。
「古民家型ラブホテル、じゃなくって?」
「何が、古民家型ラブホテル、だ」
間宮が、にやにやして、言った。
「ここは、そんな楽しいとこじゃないぞ。もっと、恐ろしい。魑魅魍魎の巣だ」
間宮は、門の横にある戸口を押し開くと、僕を引っ張って中へと入っていった。
「あっ・・」
僕は、すぅっとからだが軽くなるのを感じていた。
間宮の部屋に入ったときのことを思い出した。
あのときと、同じ感じだった。
大きな玄関の引き戸を開けるて、間宮と僕が中へと入っていくと、たたきのところに正座して座っている人影があった。
二人の老婆だった。
僕は、薄暗かったし、すごく、驚いて、悲鳴をあげてしまった。
「ぎぃやぁあああ!!」
僕のそのリアクションに、間宮は、吹き出して腹を抱えて笑い出した。
ええっ?
僕は、恥ずかしくなって、顔を赤らめてうつむいた。
そんなに、笑わなくっても。
「元気のよい子供じゃのう」
どちらかの老婆が言った。
「本当に、よい気を持っておる」
「ああ」
間宮が、苦しそうに息をしながら、涙を拭った。
「こいつは、具合もいいし、めっけもんだ」
なんの、話をしてるの?この人たち。
僕は、そこに立ち尽くしていた。老婆たちは、僕をじろじろと不躾に舐めるように見つめていた。
「しかし、これは、他所の子供だ」
「贄の家系ですらない者じゃ」
「まったく、このどら息子が」
「贄に逃げられるとは、ほんに、うつけ者じゃ」
「いや、俺は、孫だし」
間宮は、まだ、笑いながら呟いた。だが、この家の習性なのか。間宮と同じで、その老婆たちも間宮の言葉など聞いてはいなかった。
「これが、詩の身代わり、か」
「なんとも、貧相な子供じゃのう」
「詩も、貧相な子供じゃったが、これは、それに輪をかけて貧相じゃ」
何?
僕、ディスられてるの?
「詩の方が見映えはよかったが」
うるさいな!
僕は、ムカッとして、二人の方を睨み付けた。二人が低く笑い出した。
「気の強い子供じゃのう」
「これは、宗助には、ぴったりかもしれんな」
「うだうだいってないで」
間宮がイラついた声で言った。
「初染めの儀式をしに来たんだ。はやく、すませて、帰りたいんだよ」
「初染め、か」
老婆たちがぴたりと、押し黙った。二人は、ゆっくりと立ち上がると、僕たちに背を向けて言った。
「来るがいい」
間宮は、靴を脱ぐと老婆の後を追った。僕も、仕方なく、間宮に続いて行った。キシキシと軋む、板張りの廊下を歩いて屋敷の奥へと歩きながら、間宮が、そっと僕に囁いた。
「何があっても、俺が、お前を守る。だから、お前は、俺に全てを預けてろ。いいな、雪緒」
「うん・・」
僕は、不安に高鳴る胸を押さえて、間宮に頷いた。
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