アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
愛だ恋だと
-
忘れた頃になんとやら。
間宮が僕の前に突然現れたのは、奴が姿を消してから半年ほどが過ぎた頃のことだった。
僕は、相変わらず、あのアパートの一室に住んでいた。
理由は、タキのせいだった。
僕が引っ越しを考える度に、タキが夢に現れるのだ。
何かを訴えかけてくるタキのことを見ていると、なぜか、もう少し、ここにいようと思ってしまうのだった。
まったく。
しょうがないから、だらだらと僕は、このアパートに住み続けていた。
それは、決して、間宮に未練があるとかではない。
だいたい、あいつとの思い出のどこに、未練を感じることがあるっていうんだ?
その日、僕は、バイトからの帰路についた。
僕は、いまだに、あのマスターの喫茶店でバイトしていた。
なぜかって?
マスター、いい人だし。
どこでバイトしても、変わらないし。
とにかく、バイトの帰りに、僕は、いつものように、商店街を 歩いていたんだ。
ふと、タキの声を聞いたような気がして、僕は、ドッグフードを買った。
僕の守り神は、タキだけだからね。
ドッグフードと晩飯の材料の入ったビニール袋を下げて家へと帰ってきた僕が、顔をあげると、部屋の前に誰かが立っていた。
間宮、だった。
相変わらずのちゃらさ。
金髪に、派手なスーツ。
こんな格好してるの、ホストぐらいなもんだろ。
僕は、奴を無視することに決めた。
声も掛けずに、ドアの鍵を開けると、急いで中へと入っていく僕を、間宮は、呆気に取られて、黙って見ていた。
僕が部屋に入って、中から鍵をかけようとすると、間宮は、ドアを無理矢理押し開いて入ってこようとした。
「ちょ、ちょっと、待てよ!雪緒」
「やめてよ!ドアが壊れるでしょ!」
僕は、ドアを閉めようと中から引っ張った。
言わんこっちゃない。
ドアノブが引っこ抜けて、僕は、反動で後ろにひっくり返ってしまった。思いっきり腰を打って呻く僕に、間宮が覆い被さってきた。
「雪緒!」
「止めんか!この、さかりのついた犬、が!」
僕は、間宮を押し退けながら叫んだ。
「詩さんのとこに、帰れ!」
「なんで?」
間宮は、玄関で僕を押し倒して、僕の両手を押さえつけて言った。
「詩は、もう、結婚したし」
「はい?」
動きを止めた僕を、いとおしげに見つめて、間宮が微笑んだ。
「やっぱり、お前は、かわいいな」
「はぁ?何、いっ」
いきなり間宮は、僕にキスしてきた。
ちょ、待ってください!
僕は、間宮のキスに抗うことがっできなかった。
「んぅっ・・」
唇を啄まれて、呼吸を乱した僕を満足そうに見下ろして間宮は、言った。
「相変わらずの感度のよさだな」
「ちがっ!」
僕は、間宮に小声で言った。
「こんなとこ、で。ドア、壊れてるし、誰かに見られたら、どうするんだよ!」
「あれ?」
間宮が意地悪く、微笑んだ。
「見られながらするの、好きじゃなかったっけ?」
「誰、が!」
そのとき、人の足音がした。
僕は、間宮の股間を蹴り上げた。そして、悶絶している間宮を押し退けると、奴から体を離して、ため息をついた。
「どうぞ、粗茶ですが」
僕は、ちゃぶ台の前に座った間宮に麦茶の入ったコップを出して、奴と向き合って正座した。
しばらく、僕たちは、そのまま、黙って座っていた。
静けさが、耳に痛い。
長い沈黙。
僕は、堪えきれずに、じっと僕を見つめている間宮から目をそらせた。
「すまなかったな、雪緒」
間宮がぽつりと呟いた。
「だけど、なかなか、家の連中を説得できなかったんだ」
「えっ?」
僕は、間宮の方を見た。間宮は、僕を見つめて言った。
「俺は、緊縛退魔師を廃業することにした」
「ええっ?」
僕は、なんかわからないけど、衝撃を受けていた。
「マジでか?」
「ああ」
間宮は、頷いた。
「この通り、今は、真面目に、普通のサラリーマンを目指して就活中だ」
「マジで?」
無理だよ、その格好じゃ。
僕は、心の中で言った。
こいつ、就活舐めてはる。
「なんで、だよ?」
僕が聞くと、間宮は、遠い目をして言った。
「惚れた男のため、だ」
「はい?」
「詩に言われたんだよ」
間宮は、マジな表情で言った。
「俺は、本当の愛を理解できないってさ」
詩さんは、贄としてでなく、ただの人として間宮に抱かれたかった。
だけど。
間宮は、そんな詩さんを受け入れなかった。
「いや、違うんだ」
間宮は、言った。
「俺が詩を抱けなかったのは、詩のことを弟だとしか思ってなかったからなんだ」
「弟?」
間宮は、頷いた。
「そうだ。詩は、俺にとって、それ以上でも、それ以下でもない。大事な、兄弟だ」
へぇー、そうなんだ。
僕は、かなりひいていた。
あんたは、弟と、仕事とはいえ、そういうことしちゃうんだ。
と、喉まで出かかってたけど、僕は、我慢した。
弟だけど、贄だったから、儀式では、詩さんを抱けた。
けど。
恋人として、詩さんを抱くことは、できない。
それが、間宮の出した答えだった。
「それで?」
僕は、間宮にきいた。
「今さら、何で、僕のところに?」
「それは」
間宮が、急に、頬を赤らめて、俯いてぼそぼそっと言った。
「俺は、お前が」
「はい?」
「お前が好きなんだ」
間宮は、僕を見つめて言った。
「愛しているんだ、雪緒」
はい?
「結婚しよう。俺、真面目に働くし」
「働くって、何して?」
僕は、ずばっと間宮に聞いた。
間宮は、小首を傾げた。
「事務職、とか?」
「はい、だめ!アウト!」
僕は、きっぱりと言った。
「いいか?間宮、あんたみたいなのを雇ってくれるキトクな会社は、どこにもない。あんたは」
本当に。
チャラくて、いい加減で、どうしようもない。
だけど。
僕は、言った。
「緊縛退魔師を辞めるのを辞めた方がいいよ。恐らくは、神が与えたもうた唯一のあんたの存在理由だから」
「はぁ」
「それに」
僕は、顔が赤くなるのを感じていた。
「もし、僕が、また、何かに取り憑かれたらどうするんだよ?」
「雪緒?」
「言ってただろ?僕は、いろんなものに取り憑かれやすいって」
「雪緒」
「責任、とってよね」
僕は、言った。
「僕を、こんな体にしたんだから」
「ああ」
間宮は、にっこりと微笑んだ。
「もちろん、喜んで」
間宮は、最低の男だ。
何も持たずに、僕の部屋へ転がり込んできた。
学生の僕のヒモになる気満々だった。
「働け!」
僕は、間宮に言った。
「働かざる者、食うべからず、だ!」
「そうか」
間宮は、待ってましたとばかりに、笑顔で、僕に言った。
「ちょうど、いい仕事があるんだ、雪緒」
「えっ?」
「旅行、連れてってやるよ、温泉に」
間宮は、にこにこして、言った。
「一緒にいこうぜ」
間宮は、僕の手をとった。
「天国、に」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 9