アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
出立
-
その日は、遥か遠くの山まで見晴らせる清々しい快晴だった。
「うん、出立には最高の天気だね」
鳥に跨ったリンデルは、朝日に腕を翳すと目を細めて言う。
「忘れ物はないか?」
同じく鳥に乗ったカースの言葉に、金色の青年が苦笑する。
「カース、お母さんみたいだよ」
「お前、母親のことそんな覚えてんのか?」
「世間一般の話」
最後に家から出てきたロッソが扉に鍵をかけながら問う。
「主人様、お忘れ物はございませんか?」
その言葉にリンデルはげんなりし、カースは顔を背けて笑いを堪える。
「こちら、食卓に残っておりましたが?」
ロッソに包みを差し出され、リンデルがぎくりと顔を引き攣らせる。
「あ、ありがとう……」
後ろでカースが小さく吹き出すのを聞きながら、リンデルは包みをしょんぼり受け取った。
村を経って二日も過ぎれば、道中で人に会うこともなくなった。
なるべく鳥に乗って進める道を選んではきたが、それでも切り立った山々を前にして、五日目には鳥を降りねばならなくなった。
「こんな感じでいいかなぁ」
リンデルが、鳥を繋いだ綱へナイフで切れ目を入れている。
自分達が戻らなかった時に、暴れれば綱が切れるよう細工をしているようだ。
それを覗き込んだロッソが僅かに眉を寄せる。
「私達が帰還する前に逃げられては困ります」
ロッソが綱を結び直しているところを見るに、どうやらリンデルは綱を脆くし過ぎたらしい。
「野生に混じって生き残れるかなぁ……」
心配そうなリンデルの声に、カースがその頭を優しく小突く。
「そっちを心配すんじゃねぇだろ。帰って来ればいいだけだ」
「ん、そっか。そうだね」
リンデルは振り返ると、ふわりと笑って男に口付ける。
カースの細工した綱を確認して振り返ったロッソが慌てて目を逸らすのを見て、カースは心の中で従者へそっと詫びた。
カースには意外なことがひとつあった。
リンデルにあんな質問をされて、カースは悲壮なまでの覚悟をしていた。
リンデルが、ロッソと夜をともにしても、何も言うまいと。
けれど、リンデルは相変わらず毎晩を男と過ごしたし、ロッソのリンデルを見る目は変わっていなかったものの、二人の間にそんな空気は感じられなかった。
ならば、あれはどう言う意味だったのか。
それとも、俺が死んだ場合の話だったのだろうか。
疑問は胸に残っていたが、尋ねるきっかけもないまま今日に至る。
「ほら行くぞ。日が暮れるまでに野宿するところを見つけねぇとだろ?」
カースは、視界の端で行先を確認しているロッソに応えるように、リンデルを引き剥がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 24