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景色
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近くに川はないかとリンデルに尋ねられて、ケルトは三人を水源に案内した。
岩の隙間から溢れ出る水は、量こそ多くはなかったものの、清らかで十分飲用に適した水質だった。
「これでしたら、水の心配はいりませんね」
あれこれと調べた上でそれを試飲したロッソが、ホッとした様子で水を水筒に汲んでいる。
「あと何日くらい持つかな?」
リンデルの言葉に、ロッソが思案顔で答えた。
「そうですね、持参したものだけで三日ほど……。なるべく食料を現地調達するとしても、あと五日が限度でしょうか」
「そうか」
「ここから村までにも、七日はかかりますので」と従者は言い添えた。
少年はそのやりとりを、酷く寂しそうに見つめていた。
じわり。と少年の輪郭がぼやけて、リンデルはすぐさま少年の肩を抱いた。
そっと撫でながら、伝える。
「大丈夫だよ。それまでに、必ず、方法を考えるから」
励ますようにあたたかく囁くリンデルへ、ロッソが遠慮がちに声をかける。
「一度戻ってから、テント等を用意し、また来るという手段もありますが……」
「そうだね。どうしても良い方法が見つからなければ、出直しも検討しよう」
だから、心配いらないよ。とリンデルは赤い髪の少年へ微笑みかける。
「……また来るまでに、どのくらいかかるんだ?」
ケルトはボソリと呟くように尋ねる。
質問へはロッソが答えた。
「そうですね……往復だけでも十四日は必要ですが、支度も含めますと早くて十七日ほどでしょうか……」
「……そんなに……会えなくなるのか……」
消え入りそうな声でつぶやく少年を、リンデルがひょいと抱き上げる。
「ぅわっ」
肩に乗せられて、少年が思わず声をあげる。
「こっ、子供扱いすんなよっ、オレはお前らよりずっと年上なんだぞ!?」
「そうだよね。ごめん。」
と素直に謝るリンデルが「でも……」と、水源から生まれる細い清流を指す。
「ほら見て。ここから見たら、すごく綺麗だよ」
言われて、ケルトは目を丸くする。
毎日のように使っていたこの場所が、視線を変えただけでこんなに見たことのない風景に変わったことが、少年にはどこか信じられなかった。
「……ほんとだ……」
小さく溢れた感嘆の声に、リンデルは「ふふっ」と嬉しそうに笑う。
「ケルトはどこで暮らしたい? ここが気に入ってる?」
リンデルは、そんなケルトと同じ景色を見つめながら尋ねる。
「どんな生活がしたいとか、希望があれば何でも言ってみて。
全部は難しいかもしれないけど、俺にできることなら、叶えたいんだ」
言われて、ケルトはそれを繰り返す。
「……オレの、希望……?」
あんなところに住みたいとか、こんな風に暮らしたいとか。
塔に隔離されてた頃は、遠い街並みを眺めながらあれこれ想像していた気がする。
でも、もうあまりに遠くて分からない。
海辺だとか、丘の上だとかに憧れていたような気がするが、本当は、場所なんてどこでも良かったのかもしれない。
ただ一人でいるのが、どうしようもなく寂しかった。
一人になるのはもう嫌だ。と。ケルトは強く思ってしまう。
彼らと過ごしたわずかな時間で、ケルトは人と過ごす時の幸せを。
一人の辛さを、忘れかけていた寂しさをハッキリと思い出してしまった。
「オレは……、リンデルがいるなら、どこでも……」
言われて、リンデルは驚いたように少年を見た。
失言に、慌てて少年は視線を逸らす。
「……俺で、いいの?……」
細めた金色の瞳が、ゆっくり瞬いてじわりと滲んでゆく。
それが悲しみだと気付いたのはカースだけだった。
「っ、別に、お前じゃなきゃ、ダメってわけじゃ……」
そこまでで、少年の声は途切れた。
ぎゅっと、リンデルの肩を掴む小さな手に力が篭る。
リンデルは少年の小さな背を優しく撫でた。
この少年が、人らしい形であれるように。
「…………お前が、いい……」
ぽつりと小さな呟きが、リンデルの耳だけにそっと届く。
「ふふ、ありがとう。光栄だよ」
青年は嬉しそうに微笑んで、同じように少年だけに聞こえる声で囁くようにそう答えた。
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