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弟。
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「ッ!?…坊ちゃ…ん…?」
「おっ!信ぅ~ひさしぶ…」
「ッ、」
振り返った男が信の姿を見た途端、嬉しそうな笑顔を見せると
信に向けて手を上げようとした次の瞬間
「ちょっとコチラへ…」
「うおっ!?ちょっ、なになになにっ!」
信は真顔で男へと近づき、その上げかけてた男の手を引っ付かむと
二人はあっという間にキッチンを後にし…
「え…信…?」
後に残された葵は茫然とその場に立ち尽くした…
「ちょ…痛いって信っ!」
信が男の腕を強引に引っ張り、エントランスの辺りにまで来たところで
男が勢いよく信の手をバッと振り払い…
今まで信に掴まれてた手首を不貞腐れた様子で撫で擦(さす)りながら
恨みがましそうにその口を開いた
「…いきなり何すんだよ信…いてぇじゃねーか…」
「…痛いじゃないですよ忠(ただし)坊ちゃん…
何故坊ちゃんが俺の家に…?いやそれよりも――何で葵と一緒に…」
突然の事で色々と脳内の情報の処理が追い付かない信は
眉間に皺を寄せながら腕を組み…困った様子で目の前の男、忠に尋ねる…
すると忠はニッと口角を上げ
「いや~…このマンション近くの公園で俺が“遊んで”いたら…
偶然お前の“弟”と会っちゃってさぁ~…」
「え…」
―――おとうと…?弟って――あっ……あーハイハイ。
そーいや葵は俺の弟設定だったな…うっかり忘れかけてたわその設定…
「…どうかしたか?信…」
「!…いえ――なんでも…続けて。」
「…?でさぁ~…俺そん時…葵が信の弟だなんて全然知らなくて…
それで葵が俺好みの美人さんだったもんだから
ついちょっと悪戯しちゃおっかな~…なんて思って…」
「………オイちょっと待て忠…お前今――葵に悪戯って言ったか…?」
忠の今の一言で信の表情は一変
一気にその表情が剣呑なものへと変わり…
更には周りの空気までもがグンッと下がった気がして――
―――あ、ヤベ…ひょっとして俺――信の地雷踏んじゃった…?
普段なら自分がどんな悪態をつこうが
敬愛する“久米 勝治郎の息子”という事で大目に見てくれるハズの信が――
余程自分の弟である葵の事を大事に思っているのか
目に見えて不機嫌な様子を見せた事に流石の忠も焦り…
慌ててその場を取り繕(つくろ)う
「や…やだなぁ~信…そんな怖い顔すんなってっ!未遂だよ未遂!
第一葵のヤツ…俺の事思い切り突き飛ばして逃げ出したし…」
「…突き飛ばしたって坊ちゃん…アンタ葵に一体何を…」
「ん?あんまりにも葵の唇が美味しそうだったんでちょっとキスを――」
「………」
「ッだからっ!未遂だってばっ!!
そんな事より葵が突然俺の事突き飛ばして逃げだしたもんだから
慌てて誤解を解こうとして葵を捕まえたら
『助けてっ、信…!』なんて言いだすし…
オマケにあの公園はお前が住んでるタワマンの目と鼻の先だったから
ひょっとしてお前の関係者かな?と思って葵にお前の事聞いてみたら
信の弟だって言うしさぁ…だから俺、その場で襲いたいのを我慢して…」
「………」
「だから怖いってっ!――兎に角俺が葵の誤解を解いて色々と話を聞いてみたら
葵のヤツ…信に何かご飯を作ってあげたいっていうしさ…」
「…ッ!葵が…?」
「そう!そんで葵が料理なんて作った事ないし
何作ったらいいか分かんないって言うもんだから
簡単なところでカレーなんてどう?って俺が言ったから今度は
食材も作り方も分かんないって言うから――
だから二人で近所のスーパー行って食材買ってきて
“俺が”葵にカレーの作り方を教えてたってワケよ。
どうよ信…俺ってめちゃくちゃ親切じゃないっ?!」
忠はドヤァ…と言わんばかりに信の前でドヤ顔で胸を張り
信はそんな忠の態度に呆れ――
「…親切だと思いますよ?下心なしで――
初対面の俺の弟に悪戯目的でキスしようとさえしなければ…」
「う”っ、」
ごもっともな信の言い分に、忠はばつが悪そうに押し黙る…
そこに信が急にハッと何かに気がついた様子で顔を上げ――
「ところで――葵が今一人で料理を…?」
「…そーだけど――……ッ!」
「…キッチンに戻るぞ。」
そう言うと信と忠は内心焦りながら葵の待つキッチンに急いで戻っていった…
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