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よりにもよって重なる約束。
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―――クソッ……俺がもうちょっと葵の体調に気を遣っていれば…、
信はベッドを整え、リビングのソファーで横になっていた葵の元に戻ると
先程よりも呼吸を乱し…明らかに具合が悪そうになっている葵を優しく抱き上げ
寝室に向けて歩き出す
「ッ…信……大丈夫だよ…、…俺、歩ける…」
「大丈夫じゃない。いいから大人しくしとけ。
親父、お粥作るから土鍋用意しといて。
あと解熱剤。そこのリビングボードの中に入ってるから…」
「分かった。…体温計は?」
「あ、ソレもいる。持ってきてくれ。」
「あいよ。」
信は稔に指示を出しながら葵を寝室へと運び――
整えたばかりのベッドの上に優しく葵を下ろすと…
掛け布団をかけ…改めて葵の額に手を当てながら眉を顰めた
「熱い…」
―――やっぱ書斎のソファーで何もかけずに寝たのがマズかったか…
ただでさえ昨日は葵に色々と無理をさせたし
葵の体調には一番気をつけなきゃいけなかったハズなのに…
何やってんだよ俺…
「ハァ~…」
「信。体温計持って来たぞ。」
「お!サンキュー…
葵、ちょっとコレ…脇の下に挟めるか?」
「ん…」
葵は信から体温計を受け取ると、脇の下に挟み…
信はそれを見届けると、稔に葵を任せてその場を急ぎ足で後にする
―――どうする……今日はもう――会社休んじまうか…?
どっちにしろ葵の事が心配で仕事も手につかなそうだし…
キッチンに辿り着いた信は早速米をボウルに入れて研ぎ…
よく水を切ってから稔が用意した土鍋に米を入れ――
分量分の水を足してから土鍋に火をかけると
中火で暫く煮てから表面が白く煮立ってきた所で
信がしゃもじで軽く中の米をかき混ぜ始め…
やがて土鍋に少しの隙間を開けて蓋をし、火を弱火にすると――
信はソワソワとした様子でその場を離れた
―――しかし……今日はあの姫島との約束もある…
あの女が何処まで俺の事を知ってるのかまでは分からないが――
俺との約束を盾に会社に直接乗り込んでこないとも限らない…
そう考えると休むのは危険か…
「ハァァァ~…
何だってこんな時に俺がどうでもいい女の事で頭を悩ませないといけないんだ…」
―――今は…一分一秒でも葵の傍から離れたくないのに…
「チッ…」
信は頭をガシガシと掻きながら寝室に戻ると
稔が葵から受け取った体温計を持って振り向き…
「親父……葵の熱は?」
「38・4度。」
「マジか……葵…大丈夫か…?何処か痛いところとかは…」
「ん…大丈夫……それより信――今日仕事でしょ…?
俺の事はいいから…仕事行って…」
「っなんだよ……随分としおらしいな。お前の事だからてっきり
『信…仕事行かないで…?俺の傍に居て…?』って甘えてくると思ったのに…」
信が茶化しながら葵の額に触れる…
すると葵は熱で潤んだ瞳を信に向け――
「…甘えたら――傍に居てくれる…?」
「ッそれは…、」
真っ直ぐに…心細さを露わにした葵の瞳に
信の理性と本心が一気に揺らぐ
―――ああもう…っ!こんな弱ってる葵を残して会社に行くとか無理だろ…!
姫島?あんなバ……色ボケマダムの事なんか知らんっ!
俺は今日…葵と一緒に――
「…お前がそう望むなら……俺は会社を休む。」
「フフッ…嬉しい…
けど――やっぱりいいよ。信は会社に行って…?
本音を言えば信には傍に居て欲しいけど…
でも…社長さんがいないと進まない話とかってあるんでしょう…?」
「っそりゃあ――確かにそうだが…」
「だったら行って。俺の為に信や他の人に迷惑はかけられないし…
それに――今日はひとくんに返事をする日でしょ…?」
「ん…?返事…??
―――あ…」
『俺も今日から――お前のところで世話になる。
これ以上――お前を“弟”の好き勝手にさせとくワケにもいかんからな。』
『仁…少し――考えさせてはくれないか…』
『……少しとは?』
『…二日くらい。』
―――確か今日か……仁の奴が一緒に住むって駄々こねて――
その事で俺が受け入れるか否かの返事をするって言った日は…
すっかり忘れてた…
「ハァァァ~……何でよりにもよって今日…っ、」
信は額に手を当て…
ガックリと項垂れながら盛大な溜息を吐(つ)く
すると稔が口を開き…
「行ってこい信。」
「親父…」
「葵君の事なら心配するな。
今日は僕が付きっ切りで葵君の面倒を看(み)ててやるから…
それに酷な事言うようだが――
別にお前が会社休んだところで葵君の熱が下がる訳でもないからな?」
「う……それは――そうなんだけどさ…
葵……本当にいいのか…?俺が傍に居なくても…」
「ん…大丈夫…
――あ!でも一つだけお願いしてい…?」
「ん?なんだ…?」
「…のぼるくん…持ってきてくれる…?」
「のぼるくん…?」
「うん…ほら、そこの窓際に置いてある椅子の…」
「!ああ…」
信が葵の指さす方を見てみると…
そこには椅子に乗り切れず…肘掛に顎を乗っけて
尻尾は完全に椅子からはみ出ているシャチのぬいぐるみが鎮座しており…
―――お前…随分と苦しそうな姿勢で…
信は苦笑を浮かべながらのぼるくんを手に取ると
さっきよりも紅潮した頬に、虚ろな表情になっている葵に手渡し…
「ホラ、のぼるくん。」
「ん…ありがと…」
そう言って葵はのぼるくんをギュッ…と抱きしめ…
そんな葵の姿に、信はますます胸が締め付けられる…
―――絶対心細いはずなのに…俺に気を遣って…
信は汗で張り付いた葵の前髪を軽く掻き分け…
葵の額にそっと唇を落とすと
のぼるくんを抱きしめながら自分の事を見つめる葵の瞳を見つめ返しながら
信は言い辛そうにその口を開いた
「…葵……出来るだけ早く帰ってくるつもりだが――
仁の件も含めて少し遅くなるかもしれん…
もしなんかあるようだったらそこの親父をこき使えよ?
こんな時くらいしか役に立たないんだから…」
「…おい。」
「フフッ…分かった。」
「…よし。
それじゃあ親父、俺はもう行くが――あと30分くらいでお粥が出来上がるから
出来上がる直前で塩を二摘まみくらい混ぜたら、葵に食べさせてやってくれ。
その後解熱剤も忘れずに。
それから俺の分の朝食はこの後来るであろう片瀬にでも食べさせてやってくれ。
あ、それと味噌汁は温め直して――」
「ハイハイ。もう分かったから!
お前はさっさとスーツ着て会社行け!遅刻するぞ。」
「チッ……それじゃあ葵……行ってくる。」
「ん……いってらっしゃい信…」
そう言うと信は葵を残し…
後ろ髪を引かれる思いで寝室を後にした…
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