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諦めきれない気持ち。
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仁は一度30階にあるラウンジ兼BARで2杯ほど酒を飲み…
信からあらかじめ借りていた予備のスマートキーで部屋に戻ると
玄関先に置いておいた自分のバッグから
寝巻とノートパソコンを持ってその足でバスルームへと向かい…
バスルームで身体を軽く洗った後
最後にシャワーで冷水を頭から浴びてからバスルームを出ると
仁は紺色の寝巻に着替え…
ノートパソコンを片手に抱えてダイニングキッチンへと足を運ぶ
―――誰もいない……か。
しん…と静まり返ったそこに誰もいない事を確認すると
仁はダイニングテーブルにパソコンを置き
濡れた頭をタオルでガシガシと拭きながら席に着くと
パソコンを起動しながら軽く溜息を吐いた…
―――何やってるんだろうな。俺は…
パスワードを入力し…
起動したパソコン画面をぼんやりと眺めながら
仁は先ほど自分がしでかした醜態に再び深い溜息を零す
『ひとし…っ!』
「………」
―――止められなかった…興奮した…
もし稔さんが止めに入らなかったら俺はあのままアイツを――
「はぁ…」
テーブルに肘を突き…
両手で目を覆った先に広がる暗闇に仁は視線を彷徨わせながら
湧き上がる後悔の念に頭を悩ませる…
―――あんな事するつもりじゃあ――なかったんだがな…
「…俺の馬鹿野郎…」
仁が一人…虚空へと自分への罵倒をボソッと呟いたその時…
誰かが近づく微かな足音が聞こえ――
「…仁。」
「ッ!?」
今は聞きたくない声が聞こえ…
仁はそのまま聞こえないふりをして、その場をやり過ごそうかとも考えたが――
「…聞こえてんだろ?無視すんな。」
「………」
呆れた様子で話しかけてくる声の主に仁は観念し…
目を覆ってた両手を退けながら顔を上げると
そこにはまだ髪が乾ききっていない信が寝巻に着替え…
ウィスキーと思しきボトルと――
2人分のロックグラスを手に持ち…
ダイニングテーブルを挟んだ向かい側に立っているのが見え…
「…ようやくこっちを見たな?
どうだ?一杯……寝酒にでも。」
「………頂こう。」
信はグラスに氷を入れ、ウィスキーを2人分注ぐと
グラスを仁にスッ…と差し出し…
「ホラ。」
「ありがとう…」
「ところで…気分はどうだ?少しは落ち着いたか?」
信は仁の向かい側の席に腰を下ろしながら仁を視線を向けると
仁は差し出されたロックグラスを両手に握りしめたまま俯いており…
「…さっきは――すまなかったな……取り乱したりして…」
「…気にすんな。
お前の気持ちは――それなりに理解できるからな…」
その言葉に…仁はピクッと眉を顰める
「それは――橘先生の事でか…?」
「………ああ…」
信はロックグラスを傾け…ウィスキーを一口口に流し込むと
片手でロックグラスを円を描くように軽く揺すりながら
中でユラユラと揺れる琥珀色を眺め…
「片思いってやつはホント……厄介だからな…」
「………」
自嘲気味な笑みを浮かべ…
もう一口ウィスキーを口にすると、信はその視線を仁に向ける
しかし仁は信からスッ…と視線を逸らし…
「っ…弟はどうした。」
「おとうと…?あぁ…葵の事か?…葵ならもう寝てるよ。
熱は下がったとはいえ――
昨日の今日で大分無理をしてたみたいだからな。
疲れたんだろう…」
「昨日の今日…」
『一つに結ばれましたがなにか?』
「ッ…、」
仁はその眉間に深い皺を刻みながらウィスキーをグイッと呷ると
その様子に信は苦笑を浮かべながら仁にボトルを差し出し――
「もう一杯飲むか?」
「ああ…」
仁は空になったグラスを前に差し出し…
信はそのグラスにウィスキーをトクトクと注ぎながら口を開く
「…にしても…」
「…?」
「いい加減――葵の事を“弟”って呼ぶのは止めたらどうだ?
気づいてんだろう…?お袋の再婚が嘘だって事に…」
「フッ……まあな。」
「だったら――」
「アイツが“ひとくん”呼びを止めたら考えてやる。」
「あ~…それは難しいかもなぁ…ひとくん…」
「………」
「フッ…」
「ところで…」
仁がウィスキーを一口口に流し込み…
熱の篭った瞳を信に向けながら意を決した様子でその口を開く
「やはり俺は――お前を諦める事が出来ない。」
「はぁ………分かってる。
言ったろ?お前の気持ちは理解できるって…
だが…」
信は残ったウィスキーを口に流し込み…
氷だけが残った空のグラスをカラカラと揺すりながら言葉を続ける
「今の俺には…
葵の事以外……考えられないんだ。
じゃ、ごちそーさん。ボトルはそこに置いとくから後は好きに飲んでくれ。
…あまり飲みすぎるなよ…?」
それだけ言い残すと信はグラスをシンクに置いてダイニングキッチンから出て行き…
「………」
―――葵の事しか考えられない……か…
気持ちは分かると言っておきながら…
片思い相手にあんまりじゃないか…
仁はウィスキーを一気に呷ると――
もう一杯自分でつぎ足し始めた…
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