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愛した女性の息子。
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「………橘……だと…?」
その名字を聞いた途端…
仁はその目を驚愕に見開きながら葵の顔を凝視する…
すると葵が俯いていた顔を上げながら仁に視線を向け――
「うんそう……
だから俺の本当の名前は“橘 葵(たちばな あおい)”なんだけど…
って――ひとくん…何だか顔色悪いよ…?」
「ッ、」
不思議そうに自分の事を見つめて来る葵から
仁は思わず顔を背ける…
―――落ち着け。
“橘”なんてありふれた名字だ…
コイツの名字が橘だからと言って――
橘先生と関りがあるとは…っ、
「ひとくん…?」
「ッ…」
ジッ…と自分の事を見つめて来る葵に
仁は改めて恐る恐るその視線を葵に向けると
妙に早く打ち始めた鼓動にその眉を顰めながらその口を開き…
「“葵”…」
「…な~に?ひとくん…
!?てか今葵って…」
「ッいいから少し……俺の質問に答えろ。」
―――おいバカ止めろ。
ドクンドクンと嫌な鼓動を打ち続ける心臓に息苦しさを感じながらも
仁は言葉を続ける…
「お前の…」
―――止めろ……それ以上聞くんじゃない…っ!
喉が妙に渇き…
仁はコクンと生唾を飲み込むが――
そんな事で喉の渇きが癒えるワケもなく…
「母親の…」
―――聞くなっ!
こんなのはただの偶然だっ…
そう…ただの偶然…っ、
コイツの名字が橘なのも――
コイツがどことなく橘先生と似ていると思えてくるのもただの偶然…
だからこんなの……聞くだけ無駄――
「ッその……名前は――なんて言うんだ…?」
―――馬鹿野郎…
聞いてしまった後で仁は激しく後悔し…
思わず下唇をキュッと噛みしめる…
すると葵は不思議そうに首を傾げながら口を開き…
「母さんの――名前…?」
「ッ…」
「そんな事聞いてどうするの…?まあ…いいけど…」
葵の表情にスッ…と暗い影が差し込み…
仁から少し視線を逸らしながら葵は言い辛そうに言葉を続ける
「母さんの名前はね……つばき…
橘 椿(たちばな つばき)っていうんだけど…それがどうかした…?」
―――あぁ…
仁は何だか目の前が暗くなるのを感じ、思わず眉間を指で押さえつける…
―――こんな……、ッ、こんな運命の悪戯ってあるか…?
「ひとくん…?」
地面がグラつき…
足元から崩れ落ちそうになる感覚に仁は一瞬よろけそうになるが――
両足に力を入れ…何とかそれに持ちこたえる
―――アイツが……信があんなに気にしていた橘先生の息子が
まさかコイツだったなんて…ッ!
『橘先生の…息子の行方…?』
『あぁ…再婚相手も含めてになるが…
警官になったお前なら――何か知ってるんじゃないかと思って…』
『そんな事を知ってどうする…?』
『ッわからない……ただ――会ってみたいんだ……橘先生の…
椿さんの息子に…』
『…会ってみたところで――
先生の息子さんはお前の喪失感を埋める“代わり”にはならない。』
『ッ!そんな事は分かってるっ!
分かってはいるが…、』
『…橘先生の捜査資料は見た。』
『!?』
『だが当時の捜査主任の権限により…
橘先生の身内に関する情報は現時点において当時捜査に関わっていた者以外
原則非公開となっていた。』
『ッ何故…』
『俺もそこまで詳しくは分からないが…
犯人がまだ捕まっていない以上――
何らか形で犯人が先生の身内に危害を加えないとも限らない…
なので身内に関する情報は非公開となったらしい…』
『ッ…なら。
当時の捜査主任は誰だ?』
『…言えるワケがないだろう。』
『ッ…あぁそーかよっ!
お前にはガッカリだ仁…』
『信…』
『もういい!この件は――橘先生の件も含めて…俺独自で追う事にする。』
『ッ信!』
『…じゃあな。』
「………」
―――あれ以来……俺と信は疎遠になりかけた…
アイツが――
橘先生の事で裏社会に大量の金をバラ撒いているとの噂が出始めるまでは…
「ひとくん…さっきからどうしたの…?怖い顔して考えこんじゃって…」
「………葵。」
「ん…なに?」
「その事を信は―――
…ッ、」
「…?」
ハッとなり…
仁は葵に聞きかけた言葉を吞み込むようにキュッとその口を噤む
―――知るわけが無い…
「どうかした?」
「いや…」
仁は葵から顔を逸らしながらグッ…奥歯を噛みしめる…
―――もしコイツが――葵が橘先生の忘れ形見だという事を信が知っていたなら…
そもそも俺に“再婚して出来た弟だ”なんて
嘘つく必要なんてなかっただろうし――
それに何より…
もし信が全てを知っていたならどんな理由であれ…
自分が愛した女性の息子に――
信が手を出すはずが…
「ッ、」
「ねぇひとくん…」
「ッ!?な……なんだ…?」
憔悴しきった仁が驚いて葵に目を向けると
何処か暗い表情(かお)をした葵が、躊躇いがちにその口を開き…
「そのぉ……ね…?
もしかして――なんだけど…」
「…なんだ。ハッキリ言え。」
「う…うん……あのね…?
ひょっとしてひとくんってさ…
俺の母さんの事――
何か知ってるの…?」
「ッ…、」
その言葉に仁は狼狽え…
何も言えないまま――ただ呆然と葵の顔を凝視した…
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