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報酬が安いので、誰からも応募が無かったらしい。結局、その依頼はあっさりとオレ達が受けることに決まった。
出発は明日の朝だ。
普通はもうちょっと準備期間があっていいのに、明日ってのは随分急な話で、それも敬遠される一因だったんだろう。
西山は日帰りで行ける距離だけど、毒蛇退治がすぐ終わるとは限んねぇ。
手付けとして、さっそく呪文書を手渡されたミーハは、スゲー興奮した顔で読みふけってる。
「どうだね? その呪文、使えそうかな?」
そう言ったのは、仲介屋の店主だ。依頼の貼ってある掲示板の、横にあるデカい店。
戦利品とは別に、報酬が発生するような依頼は、大体こういう仲介業者を通して募集される。報酬の事で揉めたりしなくてすむからだ。
この周辺の依頼はこの周辺でしか受けらんねーけど、もっとデカい街、例えば王都なんかだと、もっと広範囲の依頼がいっぱい貼ってあるんだとか。
けどまあタオみてーな天才はともかく、駆け出し賞金稼ぎのオレらにとって、王都なんてのは遠い世界の話だ。
「蛇塚攻略にとても有利らしいから、行く前に練習しておいた方がいいね」
「練習って……」
店主の言葉にも一理あるけど、『劫火』の呪文なんか、どこで練習すりゃいーんだっつの。
一面の焼野原を想像して渋い顔をしてると、「川原なんかどうかな」って勧められた。
「燃えて困る物あんまりないし、延焼の心配もないし」
と、そう言われればまあ、そうだ。
考えて見りゃ、どのくらいの範囲まで火が広がんのか、一度見ておいた方が安心かも知んねぇ。
「おし、じゃあ、いっぺん練習に行くか?」
呪文書に没頭してるミーハに声を掛けると、「うん!」とまたいい返事が返って来た。
全く、こいつは移動魔法や何かより、攻撃魔法の方がよっぽど好きらしい。見た目はふわふわして頼りなさそうだから、初めはスゲー意外だった。
記憶を失くして目覚めた後、名前を訊くとコイツは「ミー……ハ?」って曖昧に首をかしげた。
ミーハだって自覚はあるけど、もっと何か、別の名前で呼ばれてた気もするんだそうだ。ただ、それが何かは、いまだに思い出せねーらしい。
最初は何つーか、小動物みてーなヤツだと思った。おどおどビクビクして、会話すらちゃんとできねーし。
よっぽど怖い目に遭ったんかな? それとも、生い立ちに何か問題が?
言葉は不自由って訳じゃねーけど、自分の意見とか希望を言う時、たまに片言になるし、どもり癖もある。人見知りも激しい。
ただ、いざ仲良くなっちまうと人懐っこいし、スキンシップも好きだ。誉めながら頭を撫でてやったら、犬みてーに喜ぶ。笑ってて欲しいって思うけど、他のヤツの前で楽しそうにされると、やっぱムカつく。
すぐ謝るくせに、意外と強情だったり、杖を持たせると攻撃的だったり。気持ちイイコトには素直だったり……。
こいつの色んなところに、オレは惹かれてどうしようもなかった。
川原には幸い、釣り人もいなかった。
邪魔者っつったら「オレもレア見てぇ」とか言って、無理矢理ついて来たタオくらいだ。まあ、なるべくひと気のあるとこを避けて、荒野の方まで来たんだから当たり前か。
端っことはいえ、一応荒野だ。
モンスター警戒して、背後に注意しなきゃなんねーけど、他人に怪我させるよりはマシだろう。天才剣士サマが一緒なら、ちょっとシャクだけど心強ぇ。
何たって、「今のミーハ」が初めて使う呪文。成功するかどうかも未知数だ。
岩場を越え、ぼうぼうの草むらから、広い川砂利を眺める。360度、今んとこモンスターの影もねぇ。
タオは少し離れたところから、オレらの様子を見守ってる。
「おし、いいぞ」
オレは一歩後ろに下がって、ミーハに言った。ミーハは一つうなずいて、愛用の古い杖を構えた。
「グランドファイヤー!」
ゴウッ! 唸るような音を上げて、ミーハから扇状に炎が走った。たちまち目の前が、炎の海に変わる。頬が焦げるくらい熱い。
想像以上の火力で、想像以上の速さだった。
「うひょー、スゲー!」
タオが感嘆の声を上げる。
オレもビックリだ。けど、何よりビックリしたのは、炎が川を飛び越えて、向こう岸にまで広がっちまったって事だろう。
そんな狭い川じゃねーっつのに。マジ、荒野まで来て正解だった。
「スゲーな、さすがレア」
タオがニカッと笑いながら、オレに近付き、こそっと言った。
「こりゃあ、力のセーブを覚えねぇとヤベーな」
「だよな……」
けど、そんな練習してる場合じゃねぇ。出発は明日だし。付け焼刃の訓練で、こんな炎を制御できんのかどうかも怪しい。
うまくセーブできるまで使用禁止にしてぇとこだけど……言うコト聞いてくれる訳……ねぇよなあ?
「ミーハ……」
オレはため息をつきながら、ミーハの横に立った。感動と興奮でキラッキラしてるだろう、恋人の顔を覗き込む。けど。
「おいっ!?」
慌ててこっちを向かせ、肩を掴んで数回揺する。ミーハは興奮どころか真っ青な顔で、恐怖にぶるぶると震えてた。
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