アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
『劫火』の炎は蛇塚まで燃え広がり、蛇塚を越えて、奥の薮を焦がした。
どんだけたくさんの蛇がいたんだろう? 蛇が鳴くとも思えねーのに、焼け野原中からキィキィと何かの悲鳴が聞こえるみてーだ。
「スゲーな、ミーハ!」
ハマーの率直な賞賛に、ミーハがこっちを振り向いた。
「あの小っちゃかったミーハが……」
なんて言われて、嬉しそうに笑ってる。
顔が赤いのは炎に照らされてるせいか、それともやっぱ興奮してんのか? どっちにしろ、座り込んで震えてねーで良かった。
「足、大丈夫か?」
ハマーに訊くと、「多分」って言われた。
「ミーハに『解毒』して貰ったもんな~」
そんな風に、誇らしげに言われるとモヤッとする。ミーハの方に記憶はねーけど、幼馴染ってのは厄介だ。
けど、今は下らねー嫉妬してる場合じゃねぇ。
「今の内に奥へ」
オレは炎の収束を見て、ハマーに肩を貸したまま先へ進んだ。
少し前にいたミーハに追いつき、「よくやった」と背中を叩く。すると。
「ご、『劫火』使っても、もう、大丈夫、だよ」
ミーハが上ずった声で言った。
「思い出した、んだ。だっ、誰かが、助けてくれたんだ、って!」
それは、『解毒』で思い出したコトらしい。
ミーハの下手な説明を要約すると、こういう事だ。
ミーハの失敗の記憶の直後――『劫火』の炎が届くより、一瞬速く飛び立った黒い影。こちらに真っ直ぐ飛んでくるモンスター。
「わああああ」
恐怖に叫び、立ち尽くすミーハ。
けれど、その目の前に……背の高い誰かが立ちはだかった。
その誰かは長い剣を抜き、襲い来るモンスターを一振りで切り捨て、振り向いてミーハに何かを言った……。
「何かって。何言われたんだよ? どんなヤツ?」
「わ、分かんない」
ミーハは首を振った。そこまでは思い出せねーらしい。
けど、昨夜みてーに不安そうにしてねぇ。落ち着いた様子で、自分の作った焼け野原を歩いてる。
「そ、そのモンスター、ケイブブモスだった。あ、辺り一面、ケイブモスの巣、で。たくさんの白い卵と、たくさんのモスがいて……」
って。辺り一面って、何百匹だ?
「いい、説明すんな!」
ケイブモスは、全長1mくらいの真っ白な毒蛾だ。
ケイブビーみてーに肉食じゃねーけど、鱗粉にヤバい毒がある。
っつーか、毒以前に、一面の虫野原っつーのがもうダメだ。そんで『劫火』で焼けねーで、術者の方に飛んでくるとか……考えただけで鳥肌が立つ。
「そんでね、オレ、『解毒』をね、周りの人たちに――」
そう言ってミーハは、遠くを見るように目を細めた。過去に浸ってるみてーだった。
「一面のモス、ヤバいね。一面の蛇もヤバいけどね……」
ハマーが、ちょっと震え声で言った。
確かにな、と相槌を打とうとしてハッとする。
ハマーの視線の先、蛇塚の辺りには、さっき焼いたばかりだっつーのにウソだろ、もう蛇が数匹沸いて出てる!
「ファイヤーボール!」
オレが剣を抜くより先に、ミーハが『火球』を放った。
「グズグズすんな、墓参り急げ!」
「分かったっ」
ハマーはオレに言われるままカバンを降ろし、中から花束と、そしてなぜか小型のシャベルを取り出した。
墓参りになんでシャベル? っつーか、墓ってどこだ!?
そう思って見てると、ハマーは蛇塚の目印、黄色くマーキングされた石の山に花を捧げて手を合わせてる。
そして――持って来たシャベルで、その蛇塚の裏を掘り始めた。
墓って蛇塚か!? で、なんで掘ってんだ? 気になったけど、依頼は「護衛」だし。ぽつん、ぽつんと現れる毒蛇を刺し仕留めんのに忙しくて、ハマーの奇行なんか見てらんねぇ。
「手伝って!」
やがて、ハマーが叫んだ。
剣を抜いたまま駆け寄ると、ハマーの掘った穴から、黄色いデカい皿みてーなのが覗いてる。
驚くことに、その皿の真ん中から、蛇がうねうねと生えて来た。
ハマーは蛇ごと、その皿をを剣で割ろうとしてるらしいけど、ちっとも割れねーみてーだ。つーか、その握り方がダメだろ。
「どけ!」
オレは短く叫んで、剣を逆手に、正面に構えた。呼吸を整える。
蛇のことは一旦忘れて、狙うのは、真ん中1点。息を吸って、止めて――。
「はぁっ!」
気合と共に剣を突き立てると、その皿はパリンと真っ二つに割れた。
一瞬の黒煙。そしてその下に、デカい宝箱が現れた。
箱はもう朽ちて、腐りかけてた。蹴とばしただけでフタが開く。けど……。
「おおーっ!」
ハマーが感嘆の声を上げた。
崩壊寸前の宝箱の中には、金貨がギッシリ詰まってた。
「……おい、墓参りじゃねーのかよ?」
喜ぶハマーに水を差すようでワリーけど、契約違反だ。
「怒らないでよ~、勿論、3等分に山分けするからさ~」
ハマーは愛想笑いを浮かべて言うけど、そういう問題じゃねーっつの。
財宝が絡んでんなら、こんな依頼は受けなかった。だって、今この場で口封じに切り殺されたりとか、そういう危険もあるかも知んねぇ。
ハマーだって。オレとミーハがもし悪人だったら、今頃命がなくなっててもおかしくねーんだぜ?
信用してくれんのは嬉しいけど。
「バカ!」
思いっきり剣呑な目つきで睨んでやると、ミーハがオレの袖を心配そうにつんつんと引いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 102