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ハマーに貰った馬だから、名前は「ハマー」にしてやった。
ささやかな嫌がらせのつもりだったけど、ミーハがスゲー喜んだんで、ちょっと複雑だ。
「マーちゃんでもハマー君でもねーぞ、呼び捨てにしろよ」
そう言うと、「わかった」って笑ってた。
次の日、そのハマー(馬)に2人乗りして、西山まで行ってみた。
2日前の『劫火』の焼け野原ん中に、まだサファイアの原石が転がってるハズだと思って。
暗かったからよく数えてねーけど、多分まだ4つか5つはあったと思う。
けど、そこには数人の賞金稼ぎみてーな連中がいたんで、もう拾われてるだろうと思って、引き返した。
まあな、山肌が燃えてんのは遠目にも見えたハズだし、行ってみるかって気になられても仕方ねーか。
「せっかくお前が錬成したのにな」
慰めるように言うと、「お、オレ、また頑張るよっ」って言われた。
「はあ?」
頑張るって……『劫火』をか? ワリーけど、その冗談は笑えねぇ。
サファイアは手に入れそこなったけど、代わりに、ハマー(人間)が置いてってくれた金貨を使って、ふもとの村のスペルショップで、レアの呪文書を買った。
『氷山』だ。
レアだけあって、さすがに高ぇ。 金貨もほとんどなくなっちまった。
「後買うなら、今度こそ移動系がいーな。お前も一緒に移動できるやつ、な」
そう言うと、ミーハは曖昧に「う、ん」とうなずいた。
怖いのかな、とちょっと思う。
特に『転移』とかだと……『転送』使った時に思い出した、置き去りの記憶とシンクロしてっかも知んねーし。
オレも怖ぇ。
『氷山』使って、今度は何を思い出す?
ホントはもう何も思い出して欲しくねーけど……でも、そんな風に受け身でいたら、いざって時にダメージがデカいような気がする。
こうなって欲しくねぇ、って願ってる時にそうなっちまったら、それが最悪の事態を招いたら、立ち上がれねぇくらい凹んじまうんだ。
だったら、攻めた方がいい。
そうなっても大丈夫だって、信じて迎え撃った方がいい。
――これが、昨日泣きじゃくるミーハを抱き締めながら、オレが密かに考えたことだ。
怖がらねぇ。
イヤがらねぇ。
哀しい記憶を思い出したら、黙って側でしっかり支える。
そりゃ、オレだって人間だし、ガキだし、思った通りに行動できるかどうかはワカンネーけど……でも、そうでありてぇと自分に誓った。
『劫火』や『氷山』を覚えたからって、やっぱりまず行ってみるのは荒れ野だろうと思う。
熊胆を保存するのに……『氷山』はちょっと大技過ぎるけど、まあ、大は小を兼ねなくもねーし。
『点火』を『劫火』で補おうって訳じゃねーんだから、まだ危険も少ねーだろう。
草むらの向こうには、2m級のワイルダーベア。
サッと身をかがめてみたけど、オレらの気配に気付いてんのか気付いてねーのか、モンスターは悠々と歩いてる。
『氷山』を実践で試すチャンスだ。
勿論さっき、何もねーとこで一応、呪文を使ってみた。
タオもいねーんだし、『劫火』ん時みてーに、真っ青になられても困るかんな。
「グレイトフリーズ!」
ミーハが叫ぶと同時に、ピシッと鋭い音がして、目の前に巨大な氷が現れた。
山って程デカくはねーけど、そこらの岩よりはデカかった。
「何か思い出したか?」
さり気なさを装って訊くと、「うん……」とミーハは首をかしげた。
「ノルマ……」
「ノルマ?」
ぼそりと言われた言葉を、問い返す。
「うん……分、かんないけど、たくさん覚えなきゃいけ、ない?」
たくさんの呪文……ノルマ……。
どこかワカンネーけど、広くて暗くて、冷たい感じの豪華な部屋にいたそうだ。
重厚な勉強机。
机の上には、たくさんの『呪文書』。
とても貧乏暮しなんて、してそうにねぇ。それは、ハマー(人間)と別れた後、引き取られたっつー親戚の家での話だろうか?
実戦で使う機会がなかったんかな? だから、覚えた時の記憶しかねーとか?
『転送』と『転移』の話を聞いた時にも思ったけど。やっぱ、スパルタ教育、なんじゃねぇ?
魔法のスパルタ教育? どんな家だ?
けど、そのことを思い出しても、ミーハはあんま気にしてねぇようだ。
そう辛い思い出でもねぇらしい。
「じゃあ、実戦で『氷山』、使えるな?」
オレの言葉に、ミーハは「うんっ」といい笑顔で返事した。
だから、できるだろうって信じてたんだが――。
「今だ!」
オレの合図に、杖を構えたミーハが次の瞬間、唱えたのは。
「グランドファイヤー!」
と、そんな呪文だった。
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