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おしおきがちょっとは効いたのか、ミーハがうっかり『劫火』を使っちまう頻度は、格段に減った。
やっぱコイツには、飴よりムチがいいみてーだ。
『氷山』の実戦起用はもう一旦諦めて、今まで持ってた他の魔法で、オレ達は地道にアイテム集めをすることにした。
例えば、川で魚影を確認したら、まず使うのは水系の技、『水球』。
「ウォーターボール! ウォーターボール! ウォーターボール!」
『水球』3連発が、次々に水面に穴をあけた。やがてゆっくりと大きな魚が、腹を見せて浮かび上がってくる。
地道に釣りするより早いし、無傷だし、ミーハも喜ぶ。
「うあ、魚、だ!」
って。
ちなみにこの『水球』、使った時に思い出したのは、たき火の火を消すシーンだったらしい。
じゅうっと火の消える音。しめらされた薪が白い煙を立てる、その音とニオイ――。
場所はって訊いても、よく分かんねーらしい。思い出すたびに、たき火の周りの風景が違うって。
1回や2回じゃねーみてーだけど、長旅でもしてたんかな?
ちょくちょく記憶の中に出て来る、「背の高い誰か」と、やっぱ関係あるんだろうか?
また、ムカッとわだかまりが沸き起こりそうになったけど、オレはぶんぶんと首を振って、暗い考えを頭から追い出した。
気を取り直して水に入り、浮かんだ魚が流されねー内に、素早く河原に積み上げていく。
今までは、魚取ったってそんなに大量に持ち運びが出来なかったから、こういう漁はしなかった。
あんま長時間、魚のニオイをさせてると、ワイルダーベアを呼びやすいしな。
けど、今はハマー(馬)もいるし『氷山』も使えるから、町まで持って帰んのも楽でいい。凍らせば、生臭ぇニオイもしねーし、ワイルダーベアにも狙われなーんじゃねーかと思う。
魚の大きいのは高く売れるし、小さいのは自分らで食う。
近所におすそ分けしても喜ばれた。
それに……運が悪けりゃワイルダーベアに遭遇しちまう河原だけど、運が良けりゃ、珍しい草食モンスターが現れることもあるらしい。
「グレイトフリーズ!」
ミーハの呪文で、魚の山がピシッと音を立て、氷の山に変わる。
相変わらず、動かねーモノにはしっかり発動できる呪文だ。
「よし、大漁だな」
オレはミーハのふわふわの頭を優しく撫で、「スゴイぞ」って誉めまくってやった。日頃から、飴とムチの仕込みは大事だ。
「じゃあ、帰るか」
『氷山』の呪文で固めた魚を、さあハマー(馬)に載せようか、とした時――。
「アル君、あれ……」
と、ミーハが草むらの向こうを指差した。
草むらの向こうに、茶色いモノがちらっと見えた。モンスターか?
気配を隠した人間って可能性もあるから、攻撃は慎重にしねーと。『劫火』なんか使えねぇ。ミーハの構えた杖を下げさせ、「しー」と静かに合図する。
草むらから見え隠れするくらいの大きさ、ったら、そんなにデカくはねーんだろう。なら、ワイルダーベアじゃねぇ。
ホッと息をついて、オレはそっと1歩動いた。
ザリッ! 足元で、河原の砂利が小さく音を立てた。
咄嗟に草むらの方に目をやると――目が合った。
真っ黒な、感情のねぇ目。
斑紋のあるキレイな毛並み、細い4つ脚、木の枝を広げたような、独特の角。
ああ、ワイルダーディアだ、と思う間もねぇ。
逃げられる!
「ミーハ、逃げ道を塞げ、『水球』だ!」
「ウォーターボール!」
ミーハが的確なコントロールで、ワイルダーディアの逃げ道に水をかけた。
バシュッ! 音を立ててはじける水。
別に何の威力もねーけど、驚かすのには役立ったみてーだ。タッと進路を変えたモンスターは、固そうな角を振りかざしながら、こっちに向かって駆けて来た!
「どいてろ!」
ミーハをぐいっと脇に押しのけ、愛用の剣を素早く抜く。片手剣だけど両手で持って、突進してくるモンスターを見る。
小枝のように広がった角が、オレをしっかり狙ってる。
ヒィ、とミーハが息を呑む。
けどオレは、逆にゆっくりと息を吐いて、ぶつかる瞬間に身を沈めた。
相手の勢いを利用して、軽くいなしつつ深く刺す――剣の小回りを利用する、オレなりの得意技だ。
相手のスピードが速ければ速い程、難易度は上がり、与えるダメージも跳ね上がる。
「クエー……ン」
オレに急所を一突きされて、ワイルダーディアは濁った声でうなりながら、やがてゆっくりと大人しくなった。
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