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しばらく歩いてはコングの群れに襲われ、狩りをして。また歩いては襲われ狩りをして。いい加減うんざりして来た頃、小さな川のほとりに出た。
それを見て思い出したのは、ピンキードラゴンの狩りだ。
タオも同じことを思ったみてーで、「あっ」と声を上げた。
「この川、辿ってくと滝壺に出るんじゃねぇ?」
「どーかな?」
曖昧には答えたけど、どこの土地でも川沿いっつったら、モンスターが出やすいってのが定説だ。
「ちょっと登ってみる」
タオに馬の手綱を渡されて、ハマー(馬)の分と2つ持つ。
オレが周りを警戒する間、タオはするすると枝を伝って、あっという間に木のてっぺんに登った。
「巣はありそーか?」
「うーん、分かんねーなぁ。けど、川沿いに行くともうちょっと開けた河原がありそうだぞ」
「滝壺じゃなくて?」
「ありゃもっと上だろ」
ザザザ、と枝を揺らしながら、タオが目の前に飛び降りて来た。
「そーか」とのんびり話してる暇もなく、また辺りにウッディコングの気配を感じる。
木々に囲まれた状況だと、コングの方が有利だし、キリがねぇのも厄介だ。取り敢えず馬を連れて、川を遡ってみることにした。
嫌がるハマー(馬)らをなだめながら、細い川に沿って歩く。砂利が歩きにくいのか、それとも水に入んのがイヤなのか、馬の歩みはちょっと遅い。
「山を移動すんのには、馬がいねー方が楽だよな」
「けど、馬がいなきゃ遠回りはムリだろ」
会話を交わして歩く間も、やっぱ今まで通り気が抜けねぇ。
ザザッ、と葉擦れの音がするたびに、ハッと気配を探ってしまう。一旦、一休みくらいはしたかった。
馬を使わずここに来るには。そう考えると、やっぱ魔法使いが必要だろう。
『転移』のできねぇミーハには難しいけど、『転移』自体は、そうレベルの高い魔法じゃねぇ。けど、ミーハ以外の魔法使いと組みたくねーんだから、言っても仕方ねぇことだ。
魔法使いがいれば、と、口にしねーでくれるのは、タオなりの優しさかも知れねぇ。
それに応えるべく、オレもできるだけ強くなりたかった。
しばらく歩くうちに、ウッディコングの襲撃が減って来たのに気付いた。不思議なことに、上流に行けば行く程、コングの気配も減るみてーだ。
ということは、ウッディコングの警戒圏から外れつつあるんだろうか?
「こりゃ、巣から離れたかもな」
そう予想を立てつつも、ひとまず休憩するために開けた河原を目指して歩く。
「木の上から、コングの群れとかは見えなかったんか?」
「まーな、ドラゴンくらいデカけりゃ見逃さねーけどな」
タオの言葉に、「それもそーか」って納得する。
そんな話をしてる内に、ヤブの向こうから突然別の気配が現われて、タオと2人して息を詰めた。
バッと身をひそめるより先に、剣を抜いて構えちまったのは、タオに影響されたからだろうか? タオも同じく剣を抜き、油断なくヤブの先をうかがってる。
オレらの緊張を感じてか、すぐ後ろで馬が小さく後ずさった。
ジャリッ。
馬の蹄の下で、川砂利が小さな音を立てた直後――。
「ウィンドカッター!」
聞き覚えのある声と共に、目の前のヤブが一瞬で切り裂かれた。
風の刃を剣で反射的に斬り払い、アーマーの腕で顔を庇う。
避けようと思えば避けられたけど、ハマー(馬)が心配で逃げらんなかった。タオも同じく双剣をビュッと振り回し、オレや馬を守ってる。
「危ねーだろ、ミーハ!」
怒鳴ってからハッとしたけど、もう遅い。
「ふえっ!?」
拓けた視界の向こうには、数人のローブを着た魔法使いがこっち向いて立ってて。その中に、薄茶色の猫毛をしたミーハ=シーンの姿もあった。
柔らかそうな髪、きらめくデカい目、不安そうな下がり眉も、頼りなく開いた口も、何もかも記憶にあるままだ。
けど、その口から告げられた言葉に、現実を思い知らされる。
「あ、の、オレのこと、知ってるん、です、か……?」
キョドリながらの言葉には、何のウソも見られなかった。
オレやタオを見てビビってんのが分かって、ぐっと胸が痛くなる。
「ああ。覚えてねーの?」
つい責めるような口調になっちまったのは、仕方ねぇことだろう。
「アル」
タオが小声でオレをたしなめ、わき腹に軽くヒジ打ちする。それで我に返ったって訳じゃねーけど、オレは大きくため息をつき、構えてた剣を鞘に納めた。
「ご、ご、ごめんな、さい。覚えてなく、て。そ、それに、殺気も感じ、たし……」
つっかえながら、たどたどしく謝ってくる様子は相変わらずで、また話せて嬉しいけど寂しい。
なあ、もしオレのこと覚えてたら、殺気を感じても攻撃しねーでくれたのか?
「いや、オレもいきなり怒鳴って悪かった」
そっと近付き、フードを被った頭に手を近付けると、びくっと肩を竦められる。けど、ぽんと撫でた頭の高さは相変わらずで、ひどく懐かしい。
好きだ、と思った。
「……あんたらは、『転移』でここへ?」
名残惜しさを振り払い、手をそっと外しながら周りを見回す。
魔法使いはミーハを含めて全部で5人。それが多いのか少ねぇのか、オレにはよく分かんねぇ。
ただ、この場のリーダーはミーハじゃねぇようで、別の魔法使いが「そうだ」と答えた。
「ウッディコングの巣の捜索、およびボスの存在の有無の確認。それが今回の目的だ。お前たちも一緒だろう?」
その言葉に、タオと顔を見合わせて、「まーな」とうなずく。
ミーハと一緒にいるってだけで、正直、連中のことは気に食わねぇ。アイツが色々思い出すたびに泣いてたのは事実だし、今だって泣いてねぇとは限んねぇ。
けど、ここで張り合ってる場合じゃねぇのも事実だろう。情報は共有すべきだって、言われなくても分かってた。
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