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「すごい……」
ぼそっと呟かれた声に、ドキッとした。
「ふ、二人とも、すごいっ!」
純粋な賞賛を受けて、じわっと頬が熱くなる。
浮かれそうになる気分を意志の力で押さえつけ、足元のウッディコングボスを見下ろす。
体重をかけて突き刺した剣は、無事にボスの心臓を貫いて、絶命してるって分かってホッとした。
オレがそうしてる間に、タオは油断なく周りを見て、他のウッディコングを始末してる。
けど、ボスがやられたのが分かったのか、ざーっと逃げてく気配がして、あっという間にザコなコングどもはいなくなった。
「どっち逃げた?」
「多分あっち」
タオの指差す方は、当然ながら川から奥だ。木々が密集して生えてて、道らしい道もねぇ。
前ん時みてーに枝から枝へ渡ってけば……って、ちらっと考えたけど、剣が使えねーし、ウッディコングに囲まれたら余計危ねぇ。
それにーミハらもいるし。今回は無理だと思った。
「どーする、巣を探しに行ってみるか?」
魔法使いのリーダーに訊くと、眉根を寄せて考え込まれた。
「近いのだろうか?」
「さーな、こっからは見えねーけど」
ぐるっと見回した中に、ウッディコングは影もねぇ。
さっきまであんだけ群れなして襲いかかって来てたのに。ボスをやられて逃げ帰ったか? それとも?
「あんま調子乗って、深追いすんのも問題だぞ」
タオが神妙な顔でそう言って、握ってた双剣を鞘に納める。
「……だな」
それにうなずいて魔法使いのリーダーを見ると、相手も1つうなずいた。
ミーハはっつーと、状況がよく分かってねーのか、オレらの顔をキョドキョドと見回してる。
目が合うと、「あ……の?」って可愛く首をかしげられた。
「一旦、撤退だ。ボスがいんのも確認したし、こんだけの人数で、巣を襲撃すんのはムリだしな」
フードの外れた頭をぽんと撫で、恋人だった少年を見下ろす。
じわっと赤面する様子は相変わらず可愛くて、ぎゅっと胸が苦しくなったけど、今は危険な山の中だし。感傷に浸ってる場合じゃねぇ。
オレらが倒したボスは、魔法使いのリーダーが『転送』で王都に送ってった。
一瞬、素材が……って思ったけど、こんだけデカけりゃ持ち帰れねぇ。
それに多分、調査依頼を出した側からすると、丸のままのボスが欲しいんだろうから、まあ仕方ねぇだろう。
「では、元の場所に」
リーダーの男の合図に、「ああ」とうなずく。
「行くぞ」
ミーハに告げながら軽く背中を押してやると、ビクッと肩を竦められ、他人みてーな反応に苦笑するしかなかった。
タオに最後尾を任せ、オレが先頭になって、元の場所へと川辺を登る。
オレのすぐ後ろを歩くミーハは、やっぱ相変わらずドン臭ぇ。
「うわっ」
足を滑らせ、落ちそうになんのを、手を伸ばして助けつつ進む。
残りの2人も、ミーハよりはマシって程度で、大丈夫かって心配になる。
魔法使いってのは、オレら剣士に比べて全体的に華奢ってイメージだけど、やっぱ暗い部屋に閉じこもって、魔法の練習すんのが普通なんだろうか?
ミーハに聞いた、暗い思い出の話が頭に浮かび、ちくっと胸を刺す。
考えねぇようにって気を引き締め、先を急ごうとするけど、すぐにまた「ふおっ」って声が聞こえて、振り返らずにはいられねぇ。
一方のウッディコングはっつーと、なんとなく気配はするものの、姿は全く見えなかった。
川のせせらぎの音やオレらの足音に混じり、遠くにざざざざ、と葉擦れの音が聞こえてくる。
追いかけてんのか、逃げてんのか、それともボスを探してんのか? モンスターの考えはよく分かんねぇ。
やっぱアイツらも、一旦巣の方に撤退するのかも知れなかった。
さっきミーハらと遭遇した河原に戻ると、魔法使い2人と馬とが、緊張した様子で待っていた。
「ああ、ご無事で……」
ミーハらの顔を見て、魔法使いたちがジャリジャリ小石を踏んで駆け寄ってくる。
「ぼ、ボス、いた、よっ」
ドモリながら、仲間に報告するミーハ。
それを微笑ましくも寂しく見守ってると――いきなり馬が怯えたようにいなないた。
ヒヒィィン!
ハマー(馬)の声と同時に、タオが「来た!」と大声で叫ぶ。
何が「来た」のか、考える間もなかった。すらっと剣を抜いた直後、ギャアッとコングの鳴き声が響く。
ギャギャギャッ! キョキョッ! ギャギャッ! キョッキョッキョッキョ!
四方八方から響く鳴き声。
囲まれてるって事実にぞわっと鳥肌が立つ。
「ミーハッ、『劫火』! それから『雷雨』だ!」
「いけません!」
オレの指示を打ち消すように誰かが叫び、ミーハが黙る。
キョドってんの、見なくても分かった。
記憶がねぇミーハが、どっちの指示を選ぶのかだって、聞かなくても分かる。
「アル!」
タオの声に「分かってる!」と怒鳴り返し、2人で魔法使いらを囲うよう剣を構える。
ザッと音を立ててあちこちのヤブが揺れ、見慣れたウッディコングの大群が、オレらをぐるっと取り囲んだ。
「やあっ!」
タオが声を上げ、ビュッと2本の剣を振るう。
横目に見える、「赤い閃光」。オレも負けじと剣を握り、ダッと河原を駆けてジャンプする。
「くらえっ!」
回転しながら剣を振るい、着地してはまたジャンプ。
連戦で疲れてるハズだけど、そんなのは気になんなかった。ここで踏ん張らねーと、ミーハが危ねぇって、頭にあんのはそんだけだった。
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