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ミーハが目を見張って「あっ……」と顔を上げたのは、その次の瞬間だった。
「こ、こ、来た……!」
そう言うなり、もっかいぐるっと周囲を見回し、岩場のもっと奥へと駆けて行く。
ドキッとした。
「おい、アブネーぞ! 走んな!」
モンスターもだけど、それ以前に足元が危ねぇ。
大小の石の上をジャリジャリ駆けて、ちょっと油断したら転びそうだ。
オレは、タオと顔を見合わせた。
ミーハはっつーと、オレらをよそに岩場を駆けて、赤茶色の大きな岩の前で立ち止まってる。その向こうには高い岩壁があって、オレらの頭上に崖みてーにそびえてた。
見覚えあったのか。
「や、っぱり、ここ……」
岩を撫でながらそう言って、ミーハは岩と岩に挟まれた細い隙間を抜けて行く。
勿論追おうとした。けど、できなかった。
ミーハがするっと抜けてったその隙間が、オレには抜けられそうにねぇ。
ついて行きてーのに物理的に阻まれて、なんかスゲーイヤな感じだ。
アイツ、どんな記憶を思い出した?
「ミーハ、いっぺん戻れ!」
大声で呼びかけても、アイツ、夢中なのか返事しねーし。
ミーハ、ともっかい大声を出そうとして、けどその寸前、タオに「やめとけ」って止められた。
「あんま騒がしくすんな」
って。目が笑ってねぇのが怖ぇ。
「オレが行く」
タオが馬の手綱をオレに渡し、オレの肩をぽんと叩いた。
タオはミーハと同じくらい小柄だ。アイツが抜けてった岩の隙間を、同じように軽々通り抜けて――。
しばらくしてから、「うわっ、スゲー!」と、そんな声がした。
嬉しそうな感嘆。取り敢えず、危険がなさそうでホッとする。ただ、向こうに何があんのか、2人が何してんのか、サッパリ分かんねぇ。
「こりゃ、スッゲーぞ!」
って。だから何がスゲーんだ?
岩の向こうでは、「割れねーかな」とか「『転送』で」とか、チビ2人組が、なにやらぼそぼそ話してた。
「おい、どっちか戻って来て説明しろ!」
大声にならねー程度に呼び付けると、ミーハが隙間から戻って来た。
向こうではバカが何かやってんのか、ガン! ゴン! と音が響いてる。
「あの、ねっ、て、テーブルの石、見付けたっ」
戻って来たミーハは、嬉しそうに赤い顔して、オレに抱き付いてそう言った。
邪魔者もいねーしと思って、不意打ちでちゅっとキスを奪う。今んとこリラックスの必要ねーけど、リラックスのおまじないだ。
「テーブルの石?」
耳元で訊きながら腰に腕を回してやると、ミーハはくすくす笑いながら、キスのお返しをして来た。
スゲーご機嫌だな。
「あ、のね、大きくて黒い、の。石。テーブルになってるの見たコト、ある。多分」
多分、っつーのは……どこだか覚えてねーってことか。
「前もここ、来て、同じこと思った。けど、誰にも見せて、ないっ」
得意げに言ってっけど、そりゃ、あの隙間通れるヤツがチビに限られてるって話だろ。つーか、記憶全部戻ってねーし、それがホントかどうかも分かんねーよな。
けど、石のテーブル? 黒?
ワリーけど、オレはそんなの見たコトねぇ。
引き取られたっつー親戚の家、か? 金持ちの家のテーブル?
言ってる意味がよく分かんなくて首をかしげてると、岩の向こうから、スゲー音が聞こえて来た。
ドガーン! ガラガラガラッ!
「うわあっ」
って悲鳴。タオか! ってかアイツさっき、「騒がしくすんな」とか言ってなかったか?
「うお、タオ、君っ」
ミーハがバカな天才剣士の名を呼んで、するっとオレの腕から逃げて行く。
舌打ちしたって、バチは当たんねぇだろう。
再びひとりになって、はあ、とため息をつく。
「待って、今、助ける、からっ」
岩の向こうから、頼もしくも不安なセリフが聞こえて来た。
天才剣士を助けるって? どういう状況だ!?
「トランスファ!」
『転送』を使うミーハの声。
白い光が岩の隙間からもぶわっと見える。
その上、岩場の頭上、崖みてーになってるその上から、小さな石が数個、ぱらぱらと落ちて来た。
「ぷふぁー、助かったぜミーハ」
緩んだようなタオの声。けどオレは、とてもそれどころじゃなかった。
どこへ何を『転送』したかとか、そんなことも頭から吹き飛んだ。
ぱらぱらと落ちた小石を辿り、崖の上に目をやって――恐怖と緊張で凍りつく。
「ウォォォォ――――ォン!」
日光を背に、シルエットになった真っ黒い獣が猛々しく吠えた。
オレが剣を抜くと同時に、その獣――いや、モンスターも、崖を蹴り宙を飛んでいた。
「いやぁっ! トランスファァッ!」
ミーハの呪文が悲鳴のように、オレの耳に届いた。
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